先週、アドテクノロジーの世界的カンファレンス「アドテック東京2013」が、今年も東京国際フォーラムで開催された。年々来場者は増加傾向、それに応じてセッションテーマも従来のデジタルマーケティングの範囲を超え始めている。
そんな中、僕自身も公式スピーカーとして「コンテンツマーケティング」のトラックに登壇させていただいた。
「コンテンツマーケティング」は、その重要性の高まりから、今回のアドテックでも「ビッグデータ」や「スマホ」、「ソーシャルメディア」と同列のテーマとして設定されている。
今回のコラムは、その中で僕がお話したことを簡単にまとめてみよう。
そもそも、戦略PRの専門家として「インタラクティブ・コンテンツ」のパネルに登壇する意味は何か?
2009年に日本で「戦略PR」を提唱した当時は、いわゆる広報活動やパブリシティという概念ではなく、「空気をつくる」という本来のPRの役割を強調した。
マスコミ報道を中心に大きなムーブメントや世論をしかけ、その流れを商品やサービスの購買に結びつけるという発想は、案の定同じマスのアプローチである「広告(とくにテレビCM)」との比較や補完関係で語られた。
つまりPRが空気をつくり広告がそれを刈り取る、という両輪のような図式だ。
これは当時としては最も明快な解釈であり、僕もまずはその分かりやすい図式を打ち出した。
しかし、その後のソーシャルメディアの急速な普及や、「メーカーのパブリッシャー化」といった煽りも受けて、さらに状況は複雑化しつつある。
「PRと広告」という二元論でマーケティングコミュニケーションが補完されるなんて、もう誰も思わない。
マスを前提にした一気呵成な「情報発信」ではなく、企業と消費者を「つなぐ役割」としてのコンテンツの重要性が唱えられる今、コンテンツマーケティングの観点からPRに何ができるかを整理する時が来ている。
最初に結論を言ってしまうと、PRが生み出すのは「ノンブランデッド・コンテンツ」だということだ。
PRというものの特性は2つに整理できる。ひとつは、その発想の根源は「ファクト」ベース、つまり事実情報や真実にもとづいて(あるいは調査などで掘り起こして)、ノンフィクションとしての情報発信を主眼とする。
もうひとつは「第3者発信」。マスコミや影響力のある専門家、クチコミなど主体企業を主語とはしないコミュニケーションを実現させる(発信主体を隠す「ステマ」を意味するものではない。念のため)。
こうしたPRの特性は翻って、企業が明確な発信主体として位置づけられる「ブランデッド(ブランド主語の)コミュニケーション」とは一線を画すわけだ。
戦略PRの実態は、パブリシティの獲得が最終ゴールなどではなく、「ノンブランデッド(ブランドが主語ではない)コミュニケーション」なのだ。
コミュニケーションの媒介となる「情報の中身」をコンテンツと定義するならば、PR活動が生み出すものは、つまるところ「ノンブランデッド・コンテンツ」である、という整理にいきつく。
例えば、戦略PRの事例として有名な「おむつと赤ちゃんの睡眠」。おむつの便益を訴求するウェブサイトの内容や、お母さん向けの情報はブランデッドコンテンツだ。
「このおむつは快適な睡眠環境を提供する」ことを伝達する。
一方、PRの結果獲得できた「赤ちゃんの睡眠の重要性を啓発する記事・番組」や「カリスマ小児科医の提言」や「睡眠に関するママのクチコミ」などは、直接的に商品をプロモートしないが、消費者をエンゲージさせ需要喚起を起こす「ノンブランデッド・コンテンツ」だと言えよう。
ここで重要なのは、いまだに根強い「PR活動で獲得できるのはパブリシティ」という発想を捨てること。
PRは実はもっと重要な仕事――ブランデッドな活動や狙いだけでは生み出せない「コンテンツ」を世の中に生成する――を果たしている。
それをさらにどう2次活用するか、ブランデッドな活動に活かしていくか、など何パターンでも作戦は考えられるだろう。
とりわけ、ソーシャル文脈が重要視され、アドテクノロジーも発達した今だからこそ醍醐味があるはずだ。
今後ますます、マーケティングにおけるデジタルコンテンツは、例外なく本質的な「インタラクティブ性」を実装する。
双方向であることはもはやデフォルトなのだ。
そして現在のPR(Public Relations)の概念は、18世紀末の米国で「双方向(対話型)のコミュニケーション」を前提として産声を上げた。
独立戦争の時だ。独立を勝ち取るためには、政府の一方的な情報発信ではなく市民とのインタラクティブな対話が不可欠だったからだ。
「関係構築」を信念とするPRのDNAとも言える。それから200年がたった今僕たちは大きなチャンスを手にしている。
さらなる双方向性を実現するデジタルテクノロジーと、生まれながらに双方向重視であったPRの発想――この融合がもっともっと推進されるべきなのだ。
そう強く感じた2013年のアドテックであった。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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