評価額6~8兆円、創業者の資産は2兆円を超える――米フェイスブックがかねてから予想されていたとおり、2月1日、初期株式公開(IPO)のための申請書類を米証券取引委員会(SEC)に提出した。
IT関連ではグーグルを超える過去最大規模のIPOであり、株式市場へのインパクトも期待されている。IPO申請文書に添付され、先週公開されたマーク・ザッカーバーグの長い手紙は、以下の一文から始まる。
「Facebookはもともと、会社になることを目的として作られたのではありません。世界をもっとオープンにし、つながりを強めるというソーシャルミッション(社会的使命)を達成するために作られました」
マーク・ザッカーバーグはかねてより、フェイスブックをビジネスというより「公共事業のようなもの」と位置付けている。たしかに全世界でユーザーが8億人を超えたフェイスブックは、ネット上の「サービス」というより、もはや社会インフラそのものであり、そもそもソーシャルネットワークというものは僕たちの生活に組み込まれるにつれ、「環境」そのものに変貌していく性質のものなのだ。
現在の携帯電話のようにそれが生活者の毎日に溶け込んでいくならば、企業はその「環境」においてどうあるべきか?どう活動するべきか?を考えなくてはならない。
それは、「ソーシャルメディアをビジネスにどう活用するか」という次元からの脱却も意味する。ここであらためて重要になるのが、「ソーシャル・インフルエンス」という発想だ。ソーシャル・インフルエンスは「社会的影響」などと訳されるが、企業はあらためて社会とのかかわりを再考するフェーズにある。ソーシャルメディアのインフラ化が進み、東日本大震災発生に端を発する社会的意識の高まりも経て、いわゆる企業の「ソーシャルシフト」は加速していくだろう。
そして、さまざまな企業活動の中でも、たくさんの消費者を巻き込み、投資も大きいマーケティング活動はその中核になっていくだろう。企業は、これまでにない社会性の高まりに適応して、あるいはその環境を最大限に活用して、マーケティングを実行しなければならない。
そのためには、世の中の「空気」をどう捉えるか、どうしたらマーケティング活動を「世の中ゴト」化できるか――こうした発想がとても重要になってくる。
これまでマーケティングは、狭義に言えば、「どうやってターゲットに買ってもらうか」ということでしかなかった。これからの時代は、社会影響が発生するメカニズムを応用することが求められ(あるいは、それにより効果を最大化でき)、また一方でその影響範囲やリスク要因も考慮することが求められる。
僕は、「ソーシャル・インフルエンス」において重要なファクターは2つあると思っている。ひとつは、「ポイント・オブ・インフルエンス」だ。影響力がどこで発生するか、というポイントの把握と設計である。具体的には、マスメディア報道による情報連鎖の設計や、インフルエンサー(影響者)やキュレーターと呼ばれる人たちの把握と関与などになる。
ここ数年は、施策面で個々に行われてきたものではあるが、より全体の設計の重要性が増すだろう。これまでのマーケティングに活用されてきた「ポイント・オブ・セールス=POS」時のデータや、消費者と商品や商品情報との接点を指す「コンタクトポイント」の把握や設計との相乗効果が期待される。
もうひとつが「インサイト」の把握だ。ソーシャルメディアが「新しいツール」ではなくインフラ化し、ソーシャルメディアマーケティングや戦略PRなどの個々の手法も斬新さがなくなれば、結局大切なことは、どれだけ関与者のインサイトを洞察できているかだ。ここでいう関与者とは消費者に加え、マスコミや影響者などの第三者、あるいは「社会の空気」という大きな潮流である。
マーケティングがより社会影響度を増すのであれば、消費者の心に響くメッセージ開発だけではなく、「空気」や「社会文脈」を組み込んだコンテクストの共有が必須になるのは言うまでもない。いかにソーシャル・インフルエンスを発揮していくか――ここに企業の競争力が問われる時代がやってきている。
またこの変化は、単なる社会インフラや情報環境の変革にとどまらず、ビジネスやマーケティングのあり方そのもののパラダイムシフトであってほしいとも思う。冒頭で紹介したマーク・ザッカーバーグの長い手紙の中の、以下の一文が印象に残る。
「簡単に言えば、私たちはお金儲けのためにサービスを作っているのではなくより良いサービスを作るためにお金を稼いでいるのです」
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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