全世界8都市で展開される、世界最大級のデジタルマーケティングイベントの一つであるアドテック東京(ad:tech tokyo)が、9月18日、19日の2日間にかけて開催された。2日目は「ソーシャルメディアで本当に“ヒト”が集まり、“売り上げ’が上がることが出来るか?」と題されたセッションが行われた。
登壇したのは、電通プラットフォームビジネス局開発部の廣田周作氏、トレンダーズ代表取締役の経沢香保子氏、ドクターシーラボマーケティング部eコマースグループ グループ長の西井敏恭氏、日本マイクロソフト ソーシャルメディアマーケテイング リードの上代晃久氏。モデレーターは、アライドアーキテクツ代表取締役社長の中村壮秀氏が務めた。
まず、そもそも「ソーシャルメディアで売り上げがあがるのか」、といった質問がなされた。西井氏は、創業者が現役の医者を務めているという立場から、ウェブにおけるコミュニケーション自体をカウンセリング受注として見据え、効率化以外の指標を定めることができるという。「ウェブは、カタログではなくユーザーの声を聴く場所。ソーシャルメディア上では、アクティブサポートの意識を持ち、自社製品の投稿をしているユーザーに対して積極的にコメントし、ヒアリングすることで、製品や企業のファン化を図っている」と語る。その結果、5年前に比べて売上は5倍に上昇。新規顧客ではなく既存顧客の購買率や単価が高く、ファンとのつながりを形成することによって、売り上げに大きく影響しているという。
上代氏は、売るためには顧客からの好意的な口コミを顕在化し、最大化することが大事だという。「SNSのアカウントは一方的なものではいけない。純粋な口コミに対して、コミュニケーションしていくことだ」と語り、正しい製品理解を促し、購入検討層の誤解を解くことによって、売り上げにつながるという。ドクターシーボ同様、日本マイクロソフトも公式アカウントによるソーシャルメディア上での積極的なコミュニケーションを通じて、誤った製品情報や製品の使用方法をしているユーザーを発見したら即座に対応し、ユーザーとの関係を構築しているという。
ソーシャルメディアは、拡散力や発信力がある企業だけのものではない。逆に、知名度が低い企業こそ、ソーシャルメディアを活用することが必要だという。「ブログマーケティングにおいては、著名なブロガーといった拡散力がある人だけではなく、熱心なファンや、熱量を持った人をいかに巻き込めるかが重要になる。顧客の口コミは資産。数や知名度よりも製品や企業に対する思いこそが大事であり、そうしたファンを作る施策として、オンライン上のコミュニケーションを積極的に図るべき」(経沢氏)
では、ソーシャルメディアを活用することは、企業全体にどのような影響を及ぼすのか。
西井氏は、テレビCMとソーシャルを踏まえながら、どう情報が広がっているかを測定しているという。そのため、データではなく、ソーシャルでどのように広がっているのかをきちんと測定していくことが大事だと語る。「商品の配送にこだわりを持つと、その梱包の様子を顧客が写真で投稿などをする。そうしたソーシャル上での広がりを意識すべき。製品のこだわり一つ一つが、顧客へのメッセージとなっていく」(西井氏)
現状のソーシャルメディアの話題は運用面しか語られていないが、実際はソーシャルでの拡散のされ方、そしてそれをどうフィードバックしていくかが最も考えるべきポイントだと西井氏は語る。そのため、ドクターシーラボでは、ソーシャルメディア上のユーザーからのフィードバックを担当者がピックアップし、その情報を社内に共有。それによってユーザーの声を会社全体で感じることができ、製品開発やモチベーションにも影響していくという。ソーシャルメディア上の情報を、一担当者ではなく会社全体で共有していくことで、よりユーザーの生の声を体感できると語る。
廣田氏は「ソーシャルメディアはツールの一つ。宣伝だけではなく、使い方によっては広報や人事にも影響を与える。コミュニケーションに関わる部署はすべて関係する」と語り、西井氏同様、顧客の声を傾聴し、社内にフィードバックする体制を作ることで、中長期的には社内の士気向上につながるという。
また、エージェントの立場も変化してきているという。「CMやキャンペーンといったものはいわば短距離走だったが、これからはエージェント側も長距離走でクライアントと並走していくことが必要」と廣田氏は語り、短期の目標ではなく、長期視点を持ち、できることからやっていくことが大事だという。そのための支援として、エージェントがテクノロジーの活用や指標管理、体制構築、運用体制に関わり、PRやマスメディア連携などのプランニングも含めて共に動くべきだという。「クライアントに常駐し、一緒に動いていく存在。企業の良い所を引き出すファシリテーションやアイディエーションがエージェントには求められる」(廣田氏)
続いて、効果測定やソーシャル分析の話題へと移る。上代氏は「ポジティブとネガティブのツイート、どういった投稿から購買につながったか、競合がどういう風に口コミされているかなども調査している。自社の製品がどのようにカテゴライズされているか、他社と比較しながら、動向を追っていくことが企業には求められる」と語る。
廣田氏は「大切なのはインサイト。次にどういったクリエイティブを展開していくかを考えること。そのためには、プランナーがデータを読み込み、考えていくべき」という。「ビックデータよりもビックディスカバリー」が重要であり、データをもとにしたアウトプットと、その先にどういったチャンスがあるかを見通すことだと廣田氏は語る。
成長フェーズによって、重要視すべき指標は常に変化していく。経沢氏は「経営戦略において、どこを変えたいかという意志が大事。ユーザー数の向上なのか、商品購買率の向上なのか。経営と指標をリンクさせていくことが必要」と語る。自身のフェーズに応じて必要な指標を作成し、半年や1年毎に指標のPDCAを回すことだという。
もはや、ソーシャルメディアも含めたウェブ全般は、一部署だけではなく会社全体として見据える必要があると、登壇者一同は語る。
「これまでウェブは販路の責任だったが、今はすべてのマーケティングの上位レイヤーに位置している。どうコミュニケーションしていくか。マーケティングを横串に、ソーシャルメディアを通じて、どのように店舗を広げていくかを各担当者とディスカッションしていく。縦割りではなく、横串にしないとこれからはうまく機能しない」(西井氏)
経沢氏は、企業はソーシャルメディアを活用して外の情報を積極的に知ることで、顧客のフィードバックを社内に円滑に取り込むことが大事だという。「すべてがソーシャル化しており、ポジティブやネガティブといった、どんな情報も出てくる時代。ポジティブな情報だけを見て、ネガティブから目を逸らしてはいけない。ネガティブを言われても、対応次第でポジティブにも変えられる。すべての情報を会社全体で共有することで、ユーザーと対話し、方向性を定められる」(経沢氏)
社内体制に正解はない。それぞれの企業や顧客との関係に応じた取り組みを、企業はする必要がある。「ユーザー視点に立った社内体制を、経営者自身がしっかりと考え、作っていくことだ。答えは一つではない。横と上を含めて、体制づくりの基盤を育てていくこと。そのために、時にはエージェントと連携し、外部の企業と協働していくべき」(上代氏)
「いかに上と現場と横の組織をつなぐか。特に社内の横連携は大事だ。理想の社内体制を見据えつつ、まずは小さなことから始めること。アジャイルで進めていき、やれることから小さな成功体験を作っていく。まずは一歩を踏み出すことだ」と、廣田氏は語る。ソーシャルメディア上のコンテンツは、会社のビジョンと連携した時に効果を発揮する。ビジョンを持っている経営者がソーシャルメディアにコミットすることで、顧客を強く引き寄せ、企業を成長させていくと廣田氏は語った。
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