前回紹介した、60億ドルといわれる米社員健康管理市場。来年から本格的に施行される医療保険制度改革法の下、6割以上の米企業が保険コストは上昇すると見ており、また同時に企業が社員に提供できる健康手当などのインセンティブの上限が引き上げられるため、こうした健康管理システムを提供するITヘルスベンダーらへの期待が高まっており、次々にベンチャーキャピタルから資金調達している。
最近は各社がこうしたシステムに導入しているのが、ソーシャル機能である。一人では三日坊主で終わりがちのダイエットや禁煙も、ソーシャルメディアを通じ、仲間を見つけて励まし合いながらやれば、目標も達成しやすいというわけだ。
こうしたプログラムは、各ユーザーが、それぞれの身長や体重、持病、目標などに応じ、パーソナライズでき、運動や食事の記録、オンラインコーチングなどのほか、同僚らと成果を比べ合ったり、励まし合ったりする機能が搭載されている。同じような目標を持った者同士でグループを作れるグループ機能が搭載されたものもあれば、オンラインゲームを通じ、目標達成度を競い合うものもある。
さまざまな活動量計アプリとも連携し、「FitBit」や「RunKeeper」などから燃焼カロリーのデータを自動的にアップロードできるようになっている。
米企業の大半が、こうしたプログラムに参加した社員には、健康保険料の割引などのインセンティブを提供していることは、前回述べたが、オンラインでも、医療クイズに答えたり、友人を招待したりするなど一定のタスクを完了すると、現金やギフトカードが提供されている。
ただし、こうした雇用主による健康管理プログラムに抵抗を示す社員は少なくない。前回、書いたように、雇用主に個人情報を入手されるのを嫌がるだけでなく、「手首にバンドを巻いて、なんでプライベートまで会社に管理されないといけないんだ」「生活習慣まで会社での評価に影響するのか」という反発もある。
勤務中に会社所有のジムで運動することを奨励し、パーソナルトレーナーの費用まで会社負担で、会社のコンピュータに社員全員の運動時間を記録させ、常に、チームで競争させて、賞金を提供することによって社員らの減量に成功したという企業もある。しかし、オンラインゲームで減量を競い合っている間に、社内会議にはジャンクフードでなく、生野菜が登場するようになり、プログラムに参加していない社員から不評を買ったり、「炭酸飲料を飲もうとしたら、チームメンバーに水を飲むように言われた」といったケースもあるようで、職場で新たな軋轢を起こす場合もあるようだ。
最大の問題は、こうしたプログラム導入によって、各企業がどれだけ保険コスト削減に成功したか効果の測定ができていないことだろう。オバマ政権が委託した調査でも、半数の対象企業が効果を測定しておらず、コスト削減を報告した企業は2%のみで、統計分析による予測でも、削減額はほとんど意味のないレベルであるという結果が出ている。
コスト削減に至らない最大の理由は、これまで健康に無頓着だった社員が、検診などを受けることにより、疾患などに気づき、医者にかかって、薬を飲んだりするようになるからだという。早期発見により、長期的に大きな疾病の予防にはなっている可能性はあるのだが、そのメリットは、すぐには数字で現われない。
システム投資への投資効果が判明する頃には、全米に500社あるといわれる健康管理システムベンダーの淘汰が起きているのだろう。
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