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組織の透明力

統制がきかない時代のリーダー像--鍵を握る「オープンリーダーシップ」 - (page 3)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)2013年07月23日 12時19分
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 なぜ、科学的管理法は現代組織に向かないのだろうか。その根幹には仕事の質的な変化がある。100年の間に、単純作業は機械やコンピュータがこなすようになり、人間は機械のできない「人間的な仕事」を担当するようになったからだ。

 2005年のマッキンゼーの調査によると、新たに創出される仕事の7割は「人間的な仕事」が占めている。直感的な意思決定、創造的な成果、芸術的なデザイン、顧客や取引先との複雑な交渉。企業にとって多くの価値創造は人間にしかできない仕事によって支えられている。

 そして、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』にあるように「人間的な仕事」においてはアメとムチによる統制が逆効果になることが心理学の研究から明らかになった。人は心を持つ生き物であり、科学的管理法の根本的な欠陥はここにあるのだ。

 また、情報技術やビジネスモデルのめまぐるしい進歩もその一因だ。現代社会は複雑になりすぎた。経営者がビジネスの現場で起きている事象をすべて把握することはもはや不可能だ。しかもインターネットやソーシャルメディアの登場で、生活者や社員は経営者以上に情報武装し、さまざまな知見を持つようになった。彼らは常に情報を交換し、企業の活動を評価している。今や、顧客や現場業務を理解しない管理職は単なるお荷物になってしまった。


 もちろん日本の大企業だけではない。現実に、このような現象が世界のいたるところで起きている。米国Towers Perrinが2005年に16カ国の社員8万6000人を対象に行った調査では、仕事に積極的に参加していると回答した社員はわずかに14%で、24%の社員は仕事に参加すらしていないと回答した。経営者がさまざまなテクニックを駆使してマネジメントを行った結果、組織のすべての階層において、大多数の社員が自らの力を発揮しない状況に陥ってしまったのだ。

統制社会に咲いた、奉仕して導くリーダーシップ

   今、多くの大企業が悩んでいる。縦割り組織の弊害、意思決定スピードの低下、利益優先による品質劣化。活力のない沈滞した職場。統制型リーダーシップの問題点はどこにあり、何を解決すればよいのだろうか。もう少し現場に近づいて、その解決の糸口を探ってゆこう。

 ここでは日本専売公社、現日本たばこ産業に視座を移したい。同社は社員数で約5万人、連結売上2兆5000億円。公社時代に官公庁と同じキャリア官僚制度をとっていたため、典型的な中央統制システムで管理された組織体だ。民営化された以降もその風土は色濃く残っており、幹部社員と現場社員の溝は一般企業より深い。

 1998年のこと、そんな日本たばこ産業に一人の営業所長が誕生した。叩き上げにも関わらず、同社史上最年少で就任した浅井浩一氏だ。工場出身のために営業経験はゼロだったが、新人用の「営業用語の基礎知識」を渡され、任地に赴くこととなった。着任直後の歓迎会で、彼は営業員に対して「よろしく頼みますね」と丁寧に挨拶して回る。しかし誠意を尽くす浅井氏に対して、部下たちの反応は手厳しかった。「なにを頼まれるんですかい? 」その言葉には大いなる怒気が含まれていた。素人の若造に営業現場をなめられてたまるか。現場の手荒い洗礼が早くも彼の心を挫かせた。

 そんな時、母からの手紙と靴が届く。「あなたを信じて働いてくださる部下の方に感謝し、自ら率先して汗をかくんよ」彼はその言葉に奮い立った。翌日から営業所の片隅にあった自転車で、毎日何十キロもかけて取引先回りをはじめる。厳しいことで有名な取引先からの電話にも率先して出た。「新しく就任した浅井でございます」「おお、そりゃちょうどいい。他社がいかに素晴らしくて、あんたのところがいかにダメかを教えてやるよ」「そんな勉強の機会はめったにございません。ありがとうございます。すぐにお伺いさせていただきます」と、自転車を飛ばして駆けつけた浅井氏に待っていたのは3時間の説教だった。それでも帰るころにはすっかり仲良しだ。その取引先はすっかり浅井氏を気に入って、営業員が訪問するたびに「新所長はいい」と連呼するようになった。率先垂範する所長の後ろ姿を見て、部下たちの目つきも次第に変わっていく。

 ある時、取引先が愚痴をこぼした。「これさあ、おたくのお勧め品だっていうから置いてるんだけど、もう何カ月も売れてないよ」「すいません。少しでもお客さんに喜んでいただける商品とすぐに取り替えさせていただきます」。どうやら他の店も同じようだ。その情報を営業所に持ち返って相談すると、そんなことは当たり前だという。「だってこれは会社の推奨商品ですよ」「でもさあ、一つも売れてないんじゃ会社の利益にも貢献できてないよねえ」、浅井氏がこう言うと、彼は憮然として返答した。「私もサラリーマンですから」。それは怒りに満ちた反発の声だった。

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