iTunes Store10周年とデジタル音楽の未来--松村太郎のApple一気読み

 5月6日~5月12日のAppleに関連するCNET Japan/ZDNet Japanのニュースをまとめた「今週のApple一気読み」。

 ゴールデンウィークが明けた短めの1週間だった先週の日本。Apple関連のニュースも少なめだったが、ドル円の為替相場は100円を突破し、4年ぶりの円安となっている。円安といっても、前回の100円をつける以前はより円安だったため、まだ円安と見るのは時期尚早かもしれない。

 Appleも、グローバルにビジネスを展開している性格上、為替の値段を設定している。Apple製の製品全般の価格を左右し、また先週のメイントピックとなった10周年のiTunes StoreやApp Storeで購入するアプリの価格にも直結している。

 2008年にApp Storeが登場した際に、米国で0.99ドルとされる最低価格は日本円では115円の計算だった。ところがこれが、円高に合わせて85円に変更された。長らく実際のドル円相場が85円以下の状態が続いていたが、ここ数カ月で一気に円安となり、原稿執筆時点では101円台を付けている。

 Appleが今後、他の製品の販売価格も含めて、変化した為替相場への適応を行う可能性は高いと見られる。Tim Cook CEOは2013年の新製品について示唆しているが、価格の面で言うと、今は買い時なのかもしれない。

 それでは先週のニュースを見ていこう。

iTunes Store10周年とデジタル音楽の未来

 iTunesが登場した当時は、まだiPodもなく、音楽を楽しむのはMacや既存の音楽機器で、と言う前提があった。そのためか、「Rip, Mix, Burn」というキャッチコピーが添えられていた。つまりCDを買ってきて、iTunesでデジタル音楽として取り込み、プレイリストを自分でミックスし、自分のオリジナルCDを焼いて楽しもう、ということだ。

 その後2001年にiPodが登場し、音楽を聴くデバイスもデジタルデバイスになった。つまり、始めのキャッチコピーから「Burn」が消えた。そして10周年を迎えるiTunes Store(登場当初は音楽のみの扱いだったため、iTunes Music Store)が登場して音楽をデジタルコンテンツとして購入することができる環境が始まり、CDから音楽をMacに取り込む意味である「Rip」も消えた。

 入り口と出口にCDというメディアが消えたことから、iTunesは長らくアイコンにCDをあしらっていたが、これが消えた。iPodのキャッチコピーになっていた「Goodbye MD」とともに、ソニーが規格に関わった光学メディアを見事に葬り去る10年だった、と振り返ることができる。

 iTunes Storeでは、音楽をデジタルダウンロードして所持するという新しい音楽の買い方を実現したが、Appleはコンピューティングの世界の大きな2つのトレンドを半周遅れのペースで取り入れている。

 1つはモバイル化。日本では携帯電話での音楽ダウンロードが盛んとなっていた。着メロから着うたを経て音楽を1曲ダウンロードして楽しむ着うたフルへ発展し、iPodでもウォークマンでもなく、ケータイで音楽を聴くスタイルを作り出していた。AppleはiPhoneにもiTunes Storeの機能を追加し、出先で音楽をダウンロードできる仕組みを備えた。

 2つ目はクラウド化。それまでiTunesで購入したコンテンツは手元のハードディスクやDVDに保存しておかなければ再ダウンロードができなかった。しかし現在のiTunesでは、一度ダウンロードしたコンテンツは再ダウンロードが認められるようになり、必ずしも手元のファイルを大切に保管する必要がなくなった。また複数のデバイスからのダウンロードも可能になり、さらにiTunes Matchで、CDで購入済みの音楽を認証してiTunes Storeで購入した他の音楽と同じようにクラウド利用できるようにする有料サービスを始めている。

 では、今後どのようなトレンドを取り入れていくのだろうか。

アーティストがレコード会社からライブ興業会社へと移籍する米国

 現在最も噂が集まっているのが、ストリーミングラジオ機能だ。既存のインターネットラジオとは違い、音源を自動的に並べて再生するタイプのラジオで、SpotifyやRdioなどは、好きな音楽やアーティストを選ぶと、その楽曲を軸にして好みに応じた曲を再生してくれる機能を持ち、有料アカウントになると膨大な数のライブラリから好きな音楽を自由に流せるようになる。

 iTunesにはクラウド上の音源はもちろん、ユーザーも手元に音楽ライブラリを持っており、これらを融合させたストリーミングラジオを作り出せれば、他社にはないアドバンテージを得られるだろう。また音楽ストアを持っていることから、ラジオから購入する、というオプションもアーティストにとって魅力になるかもしれない。

 もう1つの面白そうなトレンドはライブだ。米国ではアーティストがレコード会社からライブ興業会社へと所属を移るケースが目立つ。これもiTunesのおかげと言え、巨大なレコード会社の構造がなくてもユーザーに音楽を届けることが出来、またアーティストのメインの収益源がライブなどのイベントへと移行している点を表している。

 アーティストにとってリアルな場をファンと共有するのは貴重なチャンスだが、こうしたライブをリアルタイムで、あるいはアーカイブでファンに届けることができるようにすることも、たくさんの公演を打つ能力がないアーティストにとって魅力的なオプションになるのではないか。

 かつて筆者が好きなCDの購入方法は、レコードショップへ行ってジャケットを見ながらCDを選ぶいわゆる「ジャケ買い」だった。偶然性で新しい音楽に出会う最良の方法だったが、レコードショップもめっきり数が減って、なかなかジャケ買いができる場所がなくなってしまったのは残念なことだ。

 しかしジャケ買いに代わる音楽との出会い方をデジタルでしているわけではなく、筆者の音楽の購入量は減ってしまっている。例えばiTunesが、より魅力的な音楽との新しい出会いを提供してくれるなら、これからの新しい10年も音楽の発展をさらに支えていくことができるのではないか、と考えている。

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次期プロダクトに関して

 iPhone、iPadが2013年中にアップデートされることは既定路線であるが、時期については例年通り発表されているわけではない。先週までのニュースでは、iPhoneやiPad miniについて、パーツや製造上の問題、iOS刷新の遅れなどが指摘されている。

 一方、やはり年次更新が行われるであろうMacについては、特に大きな話題が入っていないが、おそらく夏までには何らかの新製品を登場させるのではないか、と考えている。冒頭で指摘した価格の問題も含めて、動向を見守っていきたい。

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その他

 全体的にニュースが少なかった今週だが、Apple対Samsungの裁判において、Appleがこれまで知り得なかったAndroidのソースコードの開示要求に対して、裁判所がこれを認めた。これによって、Googleは、どの様に情報を検索しているか、と言う技術に関して文書の提出を行うことが必要になる。

 もちろんモバイルOS分野における話題であるが、検索技術を磨いてきたGoogleがこれを開示しなければならない点は、小さなインパクトを与えそうだ。

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