……6年ほど前から「プログラミング断ち」をしていたFacebookの最高経営責任者(CEO)Mark Zuckerbergが、実は今年になってコーディングを再開し、毎日の日課にしているという……
先週金曜日(日本時間5月18日)の昼過ぎに配信された『Bloomberg Businessweek』(BW)最新号には、そんな書き出しではじまる特集記事が掲載されていた。この巻頭特集と米国時間18日のFacebook株式公開では、主要な報道機関からFacebookについて——とくにZuckerbergという若いCEOについて「この8年間の成長ぶり」といった切り口から取り上げた記事が多数掲載された。
今回は、そうした記事から印象に残ったエピソードなどを紹介していきたい。いずれも「ご祝儀代わり」といった趣のあるもので、それほど厳しい見方などは出てこないが、それでもちょっと面白い逸話がいくつも見つかっている。
Zuckerberg: Mission Is More Open Connected World
「オープニングのベルを鳴らしたら、また仕事にもどらないといけないので、簡単にひとこと……」といった感じで始まり、「みんな、余計なことに気を取られず、製品を出し続けることを忘れないように」で締めくくられた18日朝のスピーチ。
故Steve Jobsが引用したことで改めて広く知られることになったThe Whole Earth Catalogueの "Stay Hungry, Stay Foolish"(Stewart Brandの言葉:註1)や、"Just do it"というNikeの往年のスローガンにも通じるこの"Stay Focused and Keep Shipping"というフレーズが、「われわれの使命……」云々以上に、Facebookのハッカー・エートスをよく表したものとして先々まで語り継がれることになるかもしれない。
New York Times(NYTimes)が5月12日に掲載した「The Education of Mark Zuckerberg」という記事には、「Zuckerbergがかなり早いうちから、故Steve Jobsの薫陶を受けていた」という趣旨の話が後半に出てくる(註2)。
自分の足りない点を知るという能力が高く、それ故に優れた先達から「スポンジのように」さまざまなことを学んできたZuckerberg。そのメンターの1人がJobsだった、というのである。Jobsのほかには、よく知られた「兄貴分」のSean Parkerや、Washington Post社主のDonald E. Graham、Netscapeブラウザを開発したかつての「神童」Marc Andreessen、そしてBill Gatesなどの名前もある(註3)。
これらの登場人物については、「ザッカーバーグが着るフードパーカーはハッカーのバトルスーツ」の註9や、「ペイパル・マフィアからフェイスブック・マフィアへ」の4ページ目にある人物紹介を参照してほしい。
NYTimesでは、JobsとZuckerbergがパルアルトの街を一緒に散歩する姿が一頃よく見かけられ、さらにZuckerbergはこの経験やJobsの教えを踏まえ、後に意中の人材を口説き落としてFacebookに勧誘する際、相手と散歩に出かけるようになった、と記している(註4)。
Walter Issacsonが著した例のSteve Jobs公認伝記本のなかにも、GoogleのCEOであるLarry PageやZuckerbergといった若い経営者に対して、「事業でのフォーカスや、一流の人材を見抜き、そうしたAクラスのプレーヤーだけでチームをつくることの重要性を説いた」旨の記述がある(註5)。「自分は、HP共同創業者をはじめとするシリコンバレーの連中に随分とよくしてもらったので、その恩返しとして、若い連中にこの伝統を伝えていかなくてはならない」とJobsが考え、その限られた時間をそうした活動に使っていくつもりだと語っていたことを考えると、Jobsがちょうど1度目の闘病生活から復活した時期にどんどんと名前が広まっていたはずのZuckerbergに、ひそかに目をかけていたとしても不思議はない。
ただし、この話にはあまり後味のよくない後日談もあるようだ。
前述のBW誌の特集によると、2008年のApple WWDC(Worldwide Developer Conference)の際、iPhone向けのFacebookアプリをステージに上がってデモするよう頼まれたZuckerbergは、(おそらく自分のデモ下手を自覚して気後れしたのか)社内の別の人間にこの大役を依頼。そして、Appleの有名な「予行演習」に出かけたこの代役らのデモが箸にも棒にもかからないものだったことから、列席したJobsらAppleの幹部はFacebookのプレゼンをプログラムから外すことにした、という(註6)。
かつてのAppleとMicrosoft、その後のMicrosoftとGoogle、そして近年ではAppleとGoogle、あるいはGoogleとFacebook——これまでのニュースや雑誌記事では、たいてい2社の対比・対立といった形でストーリーを扱うものが多かった印象がある(無論現在はそれほどシンプルな状況ではないが)。そうしたなかで、ある時期に「そういえばAppleとFacebookというのはあまり接点がないのかな」とぼんやり気付いたことがあった。実際、JobsとZuckerbergとが公の場で同席したと伝えられたのも2度——2010年6月のD8カンファレンスの際(註7)、それに2011年2月にシリコンバレーのJohn Doerr宅で開かれたBarrack Obama大統領を囲む夕食会しかなかったはず。そうしたことも手伝って、この2人の交流についてのエピソードはいささか以外に感じた次第。
(次ページ「ゲイツとの共通点(らしきもの)」)
単なる偶然だろうが、Stewart BrandとMark Zuckerbergは、Phillips Exeter Academyという東部の超名門プライベートスクール出身だ(日本の高校に相当、創立1781年というから米国建国のわずか5年後にできた学校で、各界に無数の著名人を輩出している)
Mr. Zuckerberg sought out Mr. Jobs early on at Facebook. The two were known to take afternoon walks in Palo Alto, and they nurtured what many describe as a meaningful personal relationship despite their eventual business rivalries. (Mr. Zuckerberg was also inspired by Apple designs, and modeled Facebook's F8 conferences on annual Macworld conferences.) Mr. Zuckerberg later adopted Mr. Job's walkabout approach to hiring. When Facebook was headquartered in Palo Alto, he often took high-level new recruits on hikes along the wooded trails near his offices.
The Education of Mark Zuckerberg - NYTimes
この話については具体的な情報源の名前が出ていないものの、記事執筆者の1人としてブログ「Bits」の責任者を務めるNick Biltonの名前もクレジットされているところから、ある程度事情に通じたソースからの話だと思える。
2009年からFacebookの社内取締役の1人となっているDonald E. Grahamからは、Zuckerbergは会社のガバナンス——2つのクラスの株主を設け、将来も経営権を維持し続けられるようにするための具体的なやり方——や、長期的な展望を重視する同氏の見方を学んだという(この部分は、David Kirkpatrickの著書「The Facebook Effect」に依拠している)。
また、Bill Gatesに関してはあるVCの話として、「2005年の段階ですでにZuckerbergがGatesに紹介するよう求めていた」とあり、また現在では経営や慈善活動(philanthropy)について定期的にアドバイスを受けている、と記されている。
Several people who were hired this way say the strolls usually meandered along the trail - with Mr. Zuckerberg asking questions of the new recruit along the way - and ended atop a lookout. There, Mr. Zuckerberg would explain the terrain in front of them and his vision for the future.
The Education of Mark Zuckerberg - NYTimes
また、散歩の末にたどり着いた見晴らしのよい場所——シリコンバレーのパロアルトやマウンテンビューあたりが一望できる高いところで、「あれがアップルのキャンパス、あっちがHPのキャンパス……」と示した後、自分たちの会社の建物を指さして「Facebookはいずれ、ここから見えるどの会社よりも大きな存在になる。いまFacebookに参加すれば、君もその一部になることができる」と口説くと言うのだから、どこかロマンティックな響きさえ感じられる。
"He pointed out Apple's headquarters, then Hewlett-Packard and a number of other big tech companies," one person who was recruited by Mr. Zuckerberg told The New York Times last year. "Then he pointed to Facebook and said that it would eventually be bigger than all of the companies he had just mentioned, and that if I joined the company, I could be a part of it all."
公認伝記本刊行時に有名になった例の「得意なこと5つにフォーカスしろ」というLarry Pageへのアドバイスと同じ一節に含まれている。
We talked a lot about focus. And choosing people. How to know who to trust, and how to build a team of lieutenants he can count on. I described the blocking and tackling he would have to do to keep the company from getting flabby or being larded with B players.... (略)I will continue to do that with people like Mark Zuckerberg too. (略)I can help the next generation remember the lineage of great companies here and how to continue the tradition. The Valley has been very supportive of me. I should do my best to repay.
"Steve Jobs" (P. 552)
In 2008, Jobs asked Facebook to present its iPhone app at Apple's Worldwide Developers Conference. Instead of taking advantage of the opportunity himself, Zuckerberg sent a Facebook engineer and a marketing manager to handle it. They did such a poor job in auditions attended by Jobs and other Apple executives that Apple pulled them from the presentation, according to the person, who declined to be named for fear of alienating both companies.
『Inside Apple』の著書もあるFortune誌のAdam Lashinskyが、2010年のD8開幕の晩に開かれた夕食会に出席した際、「隣のテーブルにはSteve Jobs、Fox Co.のRupert Murdochと中国人妻のWendi、Julius Genachowski(FCC委員長)、それにMark ZuckerbergとSheryl Sandbergが同席」と書いている。
Power table
Seated at the table next to mine the opening night of the D conference: Facebook's Sheryl Sandberg, Wendi Murdoch, Steve Jobs, Mark Zuckerberg, FCC Chairman Julius Genachowski, Rupert Murdoch. Not bad.
D8といえば、ZuckerbergがKara Swisherからの鋭い質問をさばききれず、汗びっしょりとなってフーディをついに脱いだと一部で話題になったあのイベントである。動画は「アップルのティム・クックCEOが快進撃」の註6を参照。
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