日本の情報通信産業の抱える重要課題について、産学官の関係者が共通認識を持って政策論議をすることを目的とした任意団体「情報通信政策研究プログラム」が10月1日、シンポジウム「これからの情報通信政策」を開催した。
これは、2005年に発足した同団体の過去4年間の研究活動を総括し、その成果をまとめた出版物「情報通信の政策分析―ブロードバンド・メディア・コンテンツ」(NTT出版)の発刊を記念して開かれたもの。
はじめに問題提起としてプレゼンテーションをしたのは、総務省 東海総合通信局長の鈴木茂樹氏。「これからの情報通信政策について」と題して、日本の過去と現在の状況を比較しながら今後の情報政策のあり方を論じた。
鈴木氏は、現在日本が直面してきている課題について、(1)少子高齢化と人口減少、(2)経済規模・地位の相対的低下、(3)世界経済構造の変化――の3点を挙げる。
「日本の人口は2050年代に、現在の1億2700万人から9000万人にまで減少してしまう。これに対して世界の人口は68億人から90億人程度に増加すると言われている。かつて世界2位だったGDPも来年には中国に抜かれる可能性があり、ほかにもインド、ブラジル、ロシアなどの経済発展が目覚ましい。このままだと現在の経済的地位を維持していくのは難しいだろう」(鈴木氏)
これまでの情報通信政策については、「電気通信の自由化、電電公社の民営化など国内市場に目を向けて集中してきた。結果として国内情報通信市場は拡大したが、最近は製造業も含めて成長が停滞し一部縮小している」と、すでに頭打ちに近づいた国内市場への危惧を語った。
こうした現状に対し、今後の情報通信政策はグローバルな視点が不可欠だと鈴木氏は訴える。具体的な方向性として、「これまでの経験から、国内競争政策だけをやっていてもそれが自動的には海外に出ていかないことがわかった。これからは競争的な情報通信市場を形成していくにあたって、我が国の技術や規制のあり方を世界標準に組み入れていき、国際市場で有利に働けるような土壌をつくっていかなければならない」と強調した。
続いて登壇した総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課長の谷脇康彦氏は、クラウドサービス普及の観点から情報通信政策のあり方を語った。谷脇氏は「日本は2010年度に完全ブロードバンド化が実現すると言われている。日本の通信インフラは、世界的に見ても最高水準。しかし、ハイウェイがあるけどそこを走る車がないというのが日本のICTの現状」と述べた上で、今後のICTの利活用の中心はクラウドになると予測した。
クラウドサービスの普及に向けて検討すべき課題については、(1)オープン性、(2)ネットワーク部分を含むセキュアな環境の実現、(3)国際的ルール作り、(4)ネット中立性原則との関係――の4点を挙げた。
「クラウドのオープン性を考えた場合、民間主導が原則だが、そこに行政がどう関わっていくか。海外に置かれたデータセンターをどう扱うのかといった技術的問題だけでなく、国内法規と外国法規との適用関係も見ていく必要がある。サービスプロバイダーからエンドユーザーに提供されていた従来の垂直型のネットサービスから、IPネットワーク化による水平分業型の提供形態に変わるなか、どう公平に利益を分配していくかなども考えていかなければならない」(谷脇氏)
最後に登場した総務省 情報流通行政局放送政策課長の大橋秀行氏は、政権交代が与える情報政策への影響について語った。「役人が政策を立案し、政策の選択肢を用意して、それを政治が取捨選択をするというパラダイムの転換期に来ていると思う。役人には、多数ある政策を客観的なデータや材料でもってしっかり提示していく説明責任がこれまで以上に求められるだろう」とのことだ。
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