絵文字が開いてしまった「パンドラの箱」第5回--絵文字と日本マンガの親密な関係 - (page 2)

バトル勃発? アイルランド・ドイツが対抗案を提出

 ここまでは予想の範囲内、既定の路線といえる展開でした。ところが4月6日、誰もが思いもかけなかった動きがありました。なんと、アイルランドとドイツが共同で絵文字の対抗案が提出してきたのです。これがN3607(PDF)『Towards an encoding of symbol characters used as emoji』(絵文字として使われるシンボル文字の符号化に向けて)です。

 前回の最後を思い出してほしいのですが、マーク・デイビスがUnicode-MLでうっかりしたことを書いてしまった時、それに強く反発した人が2名いましたね。たしか「期待していてもらいたい」なんて突っかっていました。マイケル・エバーソンとカール・ペンツリン。前者はアイルランドNBで後者はドイツNB。つまりこの対抗案こそは両名のデイビスに対する「返答」であったわけです。まるでリングアナウンサーにコールされて、Google提案の対戦相手が華麗にマットに舞い降りたみたいじゃないですか。面白くなってきましたよ。

 では、一体それはどんな返答だったのでしょう。ありがたいことにその部分訳と考察を、前回も引用した師茂樹さん(花園大学准教授)がブログで公開してくれています。以下、そこでの訳文を一部手直しした上で使わせていただきましょう。N3607は冒頭で以下のように言います。

 我々はUnicodeコンソーシアムが提起した相互運用性の問題については認識しているし、彼らがISO/IEC 10646に文字を追加する際には相互運用性が第一の関心事になることも理解している。

 それと同時に、我々は「絵文字シンボル」の符号化の提案に対して数多くの批判が寄せられたことも承知している。その原因は、提案された文字の一部に、いささか奇妙な性質を持つものが含まれているからである。アイルランドとドイツは、ISO/IEC 10646にシンボルが符号化されることは正当であり、拒否されるべきではないと考えている。しかし、その場合には、文字のセマンティクス(意味)に基づいた符号化がなされなければならない、とも考えている。N3583で提案された文字の場合、それらがISO/IEC 10646の考え方にかなった符号化文字となるためには、まだ埋めるべきギャップがあると我々は認識している。

 「数多くの批判が寄せられたことも承知している」って、それをしてた当人があんた達じゃないかというツッコミはさておき、ここではGoogle提案の大きな目的である相互運用性(互換性)については同意しつつも、その収録の方法はISO/IEC 10646における「文字の考え方」を踏まえたものになっていないと批判しています。彼等はそれを解消するために、以下の4つの方法を採ったと言います。

  • 文字の形の変更
  • 文字の名前の変更
  • 文字の配列の再編
  • 新たな文字の追加

Google提案とアイルランド・ドイツ提案を比較してみる

  • 図1 Google提案とアイルランド・ドイツ提案の全体像の比較(出典:N3580(PDF)『Pre-meeting 54 charts showing characters in the pipeline』、N3607(PDF)『Towards an encoding of symbol characters used as emoji』)

 これはかなり徹底的に手を加えたということです。そこでアイルランドとドイツがおこなった変更について、まず大づかみに理解してもらうために、Google提案とアイルランド・ドイツ提案を、符号位置をそろえて左右に並べ、違いを色分けした図を作成してみました(図1)。

 ひとまず右側のアイルランド・ドイツ提案の方に注目していただくと、目立つのは黄色と水色ばかりであることが分かります。赤色は元のGoogle提案から変わらない符号位置ですが、ほんのわずかしかありません。それだけ大幅にアイルランドとドイツは手を加えているわけです。では、彼等は具体的にどのようにして文字を追加したり移動させたりしたのでしょう。つぎの図をご覧ください(図2)。

 この図は、アイルランド・ドイツ提案の中から「その他の技術用記号」「トランプカード」という2つのブロックだけを取り出し、そこにある文字は元のGoogle提案のどこから移動させられたのか、引き出し線によって示したものです。

  • 図2 アイルランド・ドイツ提案における「その他の技術用記号」及び「トランプカード」ブロックにある文字の出自(出典:図1と同)

 まず「その他の技術用記号」の方からいくと、Google提案(左側)の同じブロックにあった5文字を少しだけずらして置いた一方で、全く別のブロック「その他の絵文字記号」から7文字を選んでここに持ってきていることが分かります。Google提案で種類ごとにした整理を無視して、根本的に配列をやり直しているわけです。

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