iPhoneは、調べれば調べるほど魅力的な「システム」だ。それは、どうやら日本のケータイに対する深い洞察によってデザインされた結果、生まれ出てきたのではないか。では、iPhoneを超えるデザインに必要なものは何か。もちろん、デザインをガイドする法制度の変更は十分条件ではあるが、必要条件であるとはいえない。
7月3日のエントリ「iPhoneの日本展開が難しい本当の理由では、AppleのiPhoneが米国で提供されるビジネススキームが、日本の商習慣とは相容れないものであるために、すぐにiPhoneの日本上陸が困難であろうこと。しかし、現在総務省で議論されている「情報通信法(仮称)」の前提になっている、世界的に標準となりつつある放送通信に共通した規制のフレームワーク「3レイヤモデル(放送や通信など情報産業を、インフラ/プラットフォーム/コンテンツの創出する経済価値の性格ごとに階層に分割して、それぞれに最適な制度を適用するという概念枠)」が導入されれば、これまでの日本の商習慣は継続できなくなるため、Appleが米国で行っているモデルをそのまま日本に持ち込めるようになるのではないか、という予想を示した。
ただし、このエントリは、法制度の変更がなされなければiPhone上陸はあり得ない、と言っているわけではない。日本固有のケータイ業界の商習慣さえ修正されれば、その上陸は問題ない。そして、商習慣は、新しい法概念の下では変わらざるを得ない、と言っているだけのことにご注意いただきたい。
とはいえ、iPhoneは北米固有のビジネスモデルというわけではない。むしろ、日本のケータイ業界のビジネスモデルを深く研究した結果、導き出されたウィニングストラテジーではないか、とすら感じている。
例えば、これまでデータパケットを課金単位として成立してきた従量課金型ケータイビジネスモデルを、AT&TとAppleのiPhoneチームは軽々と乗り越えてしまった。が、それはなぜか? 日本では第三者が提供するコンテンツの利用料などをケータイキャリアが「課金代行・徴収」することは当たり前となっているが、日本以外のケータイキャリア(正確にはケータイだけではなく、広く通信一般でも同じ)はこれまで行ってこなかった。一種通信事業者の範疇を超えるもの、という暗黙の前提があったに違いない。ユーザーがiPhoneからiTunes Store(iTS)でコンテンツを購入する際の課金徴収をすることによって得られる手数料は、これまでクレジットカード会社に支払われてきたものであった。
これがiPhoneでは、それまでの常識を覆し、ケータイキャリア(=AT&T)の収入となったのだ。そして、今後、リアルな世界で発生する課金決済や顧客管理、ターゲット広告を可能とするプラットフォームをiPhone経由でAppleとAT&Tが補いながら形成していくであろう様子は、あたかも日本のケータイキャリアがそのサービスとインフラから構成される垂直統合モデルにおいて作り出そうとしたものを、オープンな形でより巧妙に要素を組み替えながら実現していることに他ならない。
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