iPhoneは日本のケータイ業界へのオマージュ - (page 2)

気がつくともうそこにあるiPhoneプラットフォーム

 そして、iPhoneをキーデバイスとして、Appleはリアルな世界にネットの概念を持ち込もうとしている。それは、日本ではソニーのFeliCaをキーとして普及しつつある「おサイフケータイ」の仕組みを、iPhoneとAT&Tのインフラ、そしてAppleのiTS上にある顧客管理の仕組みを連携させつつ(ハードワイヤードな通信業界の常識よりも、より柔軟な形で)実現していくであろうことだ。iPhoneではキーとなる要素の配置を巧妙に入れ替えつつ、結果として同じ機能を実現しようとしている。

 おサイフケータイでは、チャージなどの場合にのみケータイのネットワークが利用され、個別の利用の際には近接無線通信をFeliCaとレシーバーが行う。その処理は、ケータイネットワークではなく有線ネットワークで行っている。それがiPhoneを用いた場合は逆になるに違いない。すなわち、クレジットカード同様、いやそれ以上の機能を有するiPhoneを窓口に、ケータイのネットワークで課金決済やディスカウントなどの処理を行い、購入するコンテンツを有線またはWi-Fiなどのブロードバンドを介して獲得する、といったように。

 日本でもおサイフケータイの登場までは、課金も商品の獲得も全てはケータイのネットワークで行われてきた。ただ、リアルの商品の購入ではそういうわけにもいかない。だからFeliCaという仕組みを導入したわけだ。その際に、ケータイのネットワークは必須ではないという矛盾を生じさせていた。そう、日本におけるおサイフケータイは端末としてのケータイの価値であり、必ずしもネットワークにとっての価値ではなかったのだ。

 これに対し、AppleとAT&Tはアウトオブホーム(OoH)などのリアル環境での情報処理を行うためのプラットフォームとしてiPhoneを位置づけ、日本のケータイキャリアが自社を中核として実現しようとした一種閉じたプラットフォームを、ネットらしくよりオープンな形で実現しつつあるのではないかと僕はみている。

縛る制度から促す制度へ

 再びここで、ケータイをめぐる議論において、日本の法制度と米国のそれが大きく異なっているかどうかを考えてみよう。もちろん一概には言えないが、少なくとも法制度上、日本でiPhoneが登場できない要因はなかった。しかし、商習慣上の理由からできなかったのだ(これは、「ソニーがなぜiPodを作れなかったのか」という議論と極めて近い議論だろう)。そして、iPhoneをキーとしてAppleとAT&T(少なくとも米国でのパートナーは、だ。これが欧州や南米、アジアと、地域ごとに異なるケータイキャリアになってくる可能性が高い。例えば、Financial Times Deutschland紙はドイツでT-Mobile、フランスでOrange、英国でO2がAppleのパートナーに選ばれたと伝えている)が新たな商圏となるリアル・ネット連携のためのプラットフォームを生成することを阻害する制度も、米国では当然だが、日本でもない。

 ただ、相対的にキャリアの強い日本では、生態系はキャリアを核に成立してきていた、というだけだ。そのため、キャリアは自社のネットワーク内部に、あるいはそれを核としてプラットフォームを構築し、それに最適化した端末を端末メーカーに作らせるのが最も確実な戦略となった(それでもおサイフケータイでは、ケータイに特化したソリューションではなく先行したFeliCaを採用したことで端末価値を高めたものの、ケータイ全体の価値を高められていないという戦略的失敗をしているが)。

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