もうひとつ、ゴールデンウィーク中の話題としてソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)の代表取締役会長兼グループCEO、久夛良木健氏の実質的な退任発表があった。久夛良木氏はソニーのストリンガー体制への移行に伴い、ソニーグループの役員、執行役職からもすでに退き、2006年末にはSCEIの社長の座をSony Computer Entertainment America社長の平井一夫氏に明け渡していた。昨年末の異動は、むしろこの退任を前提にしていたものではないかと推測する向きがある。
膨大な投資をかけて開発を行ったPLAYSTATION3(PS3)の販売動向が芳しくなく、同プラットフォームと先行したPSPは、これまでの高性能・複雑化を追求した「ゲーム」とは異なるコンセプトを前面に打ち立てた任天堂のWiiやニンテンドーDSと比べて、「影が薄い」感が強まっている。結果、ソニーは欧州のゲーム部門でリストラを断行せざる得なくなり、5月16日に発表される2007年3月期の業績発表でもゲーム部門の貢献は少ないと予想されている。
この点から安直な想像をすると、久夛良木氏の退任はPS3などゲーム事業の不調の責任を取ったもののようにもとれる。実際にそう考える筋は多く、人によっては久夛良木氏の退任に伴ってソニーがゲーム事業から撤退をするのではないかという、ちょっと飛躍した発想すら持っている。
確かにPS3はPS2の延長上にある「従来のゲーム」機として非常にすばらしい映像パフォーマンスを実現するハードウェアとなっているが、WiiあるいはDSの出現により「ゲーム」が提供する価値領域が急速に拡大し、必ずしも映像パフォーマンスのよさがゲーム「体験」を豊かにし、製品や事業の成功に貢献しない、むしろそれらを実現するために必要となった部材コストの大きさが事業の足を引っ張ることにもなりかねない状況が生まれている。技術指向型のソニー、特に優秀なエンジニアであった久夛良木氏の性格が、このマイナス状況の発生要因になっているという指摘がある。
だが、この指摘は不十分ではないか、と感じる。PS3の製品がまだ発売される前に提示された展開プランでは、現在の事業展開とは異なる計画が示されていたのだ。インターネットを介して巨大な仮想ネットワークの一部となったPS3の心臓部であるCELLチップが相互に連携し、これまでとはまったく異なるコンセプトの「商品」が出現するはずだった。Linuxを搭載し(PS3向けLinux「Yellow Dog Linux v5.0J」が最近発売された)、IntelアーキテクチャとMicrosoft OSの組み合わせでできたこれまでのPCとは異なる「コンピューティング環境」の実現を提案していたのだ。
しかしCELLという強力なコンピューティングパワーを得、高速な通信を可能にするブロードバンドがいかに普及した環境におかれても、そのコンセプトを実現するのは依然として困難であるという指摘がなされた。また、それ以前に、「ゲーム機を超える」というコンセプトそのものがあまりにも漠然とした非常に先進的な概念であり、「ゲーム機を超える」というメッセージはあまり受け入れられなかったのが現実だった。
この点において、WiiやDS同様、PS3もこれまでの「ゲーム」とは異なるベクトルを持った製品として設計されたにもかかわらず、結果的に従来どおりの「ゲーム」に引き戻されてしまった。しかもPS3が登場するまでの間にDSが人気を博したことで、市場で受け入れられた「ゲーム」像はPS2が作り出した「ゲーム」とは異なる姿になってしまっていたのである。結果、PS3の性能スペックは過剰でしかなくなってしまった。
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