米国では、少なくとも時価総額の点ではGoogleやYahoo、さらにMicrosoftは巨人だ。つまり、AT&TやVerizonという通信の巨人がサービスプレーヤーの巨人に対してバーゲニングをしているのである。
翻ってわが国では、GyaOやSkypeの提供者は、失礼ながら規模の点ではNTTや電力系通信事業者から見ればまったく取るに足りない。また、GyaOの登場によりトラフィックが急増したといっても、OCNのバックボーンに占める割合は、PtoPソフトが数十%に対して、まだ数%(電力系では2%程度)らしい。つまり、米国と異なり、日本の場合、巨大な収益を上げる企業間の戦いとはほど遠い。
米国では政治家やFCC(連邦通信委員会)がこの「ネットインフラただ乗り論」に出てきたが、わが国ではまだ実害はないといえよう。米国以上に地域・長距離通信市場での独占性や寡占性が高い日本では、やや過剰反応している感は否めない。
もちろん、NTTという一企業としてみれば別だ。つまり、企業の経営戦略の観点からは、弱い者いじめのようにも若干映るが、和田社長や和才社長が採っている方策は正しい。なぜなら、経営戦略の要諦は、自らの周りに独占状況を築くことだからだ。早い段階で競合相手をつぶしておくのがよい。
かつての「ISDN→FTTH整備構想」に対して、予期せぬ、ADSLというダークホースが、このシナリオを狂わせた。いまはNGN(次世代通信網)の整備がきわめて戦略性を帯びている。したがって、第2のダークホースとも言えるGyaOなどのサービスは、NTTグループにとってみれば同じ横やりに見えるだろう。初期段階から排除すべきもの、けん制すべきものの筆頭になっているに違いない。NTTグループにとって、今後「ADSL→FTTH(NGN)上のFMC(固定網と移動網の統合)」などのシナリオを実現できるかどうかは、死活問題だからだ。
しかし、である。NTT持株会社やNTT東西ともなれば事情はかなり異なる。ユニバーサルサービスを担う特殊会社であるからだ。しかも、米国では地域電話会社という巨人に対抗しうる勢力は、前述のサービスプレーヤーのほか、ComcastやTime Warnerなどのケーブル会社という巨人が立ちはだかっている。
実害があれば、総務省や公正取引委員会が裁定に入ればよい。そうでなければ、つまりもし、通信会社がサービスプレーヤーへのトラフィックを停止するなどの事態ともなれば、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」につながりかねない。
したがって、通信会社は、「ネットインフラただ乗り」について公的な場での議論を経た後、違法性阻却事由として認められる必要に迫られよう(もちろん、このようなことを通信会社はやらないだろうが)。
さて、GyaOやソフトバンクのTVバンクのような放送型映像サービスが、現在本当にわが国のバックボーントラフィックを逼迫させているのだろうか。
総務省では、ここ1年間ほど定点観測的に「わが国のインターネットにおけるトラフィックの集計・試算」を行っている。2005年11月時点までのデータを見る限り、DSLやFTTHなどのブロードバンド契約者のトラフィックのうち、ユーザーのダウンロードトラフィックの伸びが前年比46%の伸びを示しており、かなり大きくなっている。
しかし、GyaOの始まった2005年4月末からの6カ月間を見ると、178Gbpsから194Gbpsで、9%程度の伸びに過ぎない。この間、GyaOの登録者数は約25万から約400万で1500%(15倍)に急増。つまり、GyaOサービスは、ブロードバンド契約者のトラフィックを逼迫させているとは言いがたいのではないだろうか。
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