基盤となるインテリジェンスの蓄積を急げ

 これまで海外市場を目指せという政府の掛け声の下、コンテンツなど多くのサービス系産業プレーヤーたちが挑戦を行ってきた──ことになっている。しかし、気がつくと、それらの多くが空回りをしている。相手を知るという基本的なインテリジェンスが欠如しているからだ。

3月後半はコンテンツ系イベントが目白押し

 今、南の島に向かう機内だ。昨日までの数日間は、臨海部の東京国際アニメフェア2009(TAF)の準備に追われ、初日は朝一番から弊社「動画革命東京」支援作品売却のプレス発表、お手伝いする宮城仙台アニメグランプリの表彰式、そして、後述する上海文化産権交易所の方をお招きしたシンポジウムと連続してこなし、その後コンテンツ学会の講演に参加し、そしてアニメフェアのために海外からのいらっしゃった方との会とあわただしい一日だった。

 だから、南の島のリゾートで身体を休めに……と、いうわけでは、残念ながらない。政府関連会議と沖縄国際映画祭への参加が、今回の目的。とはいえ、南に向かうというその事実は、心躍るものだ。しかし、今回、見極めるべきは南の島で行われる映画祭に、特に海外からどんな人たちが参加してくれているのかなのだ。

 それというのも、ほぼ同時期に香港でFilMartという映像ビジネスにフォーカスを絞ったイベントが開催されているからだ。FilMartはアジアで開催されるイベントしては、韓国の釜山国際映画祭や秋の東京国際映画祭(TIFF)以上に、ファンイベントではなく、海外の映画、そしてテレビやインタラクティブといったあらゆる映像ビジネスピープルをターゲットにしている。かつての香港映画の隆盛をもう一度、とその成功に向けて香港政府も非常に大きな投資を行っている。

 TAFに来ていたアジア圏のエグゼクティブの多くが、ビジネスデー(3月18・19日)のみの参加で、その足で香港に向かいFilMartへ、あるいは翌週早々にカンヌで開催される世界最大の映像ビジネス見本市の1つMIPTVに直接向かうつもりだと話してくれた。

置き去りにされる日本

 日本は、世界的に見ても「いい」市場だ。エンターテインメントを含む消費者市場として世界第2位の市場規模を誇り、かつ市場構造はきれいに整備され、全国で均一な状態になっている。欧米ではこまごまと口うるさい内容的な規制はなく、クォータ(国外作品の市場での流通比率を制限する規制)もない。そして、エンターテインメントの単価は高く(世界で一番高い映画鑑賞料、DVD市価、アミューズメントパーク内での平均消費額……)、消費者のエンターテインメントやブランドなどを見る目は極めて肥えている。

 街には世界のありとあらゆる種類のレストランがあり、場合によっては「本国で食するよりも質が高い」というほどのレベルにある。とはいえ、和食、あるいは日本でアレンジされ、すでに1つのジャンルとして確立された外国起源の料理も根強い人気を保つなど、その競争は激しい。

 そこで、欧米のトップラグジュアリーブランドは、日本、特に東京をテストベッドに位置づけ、最先端の商品を並べる。そこでの売れ筋を見ながら商品ラインアップを調整するのだ。世界のNOKIAが、NOKIAブランドの撤退を決定すると同時に「VERTU」の販売を開始するという一見矛盾したアクションをとるのも、こういった市場理解が前提となっていると思えばその蓋然性は高いことがわかる。

 しかし、僕らが日本国内で知ることのできる世界動向は、加工されたものであることを忘れてはならない。日本市場の理解、そしてそれを基にした何らかの戦略の上で提供された商品や情報が僕らの眼前に提供されているのであって、僕らが積極的なインテリジェンスをもって選択した結果ではない可能性が高いのだ。そう、すでに日本は驕れる市場となり、自動車などの一部の製造業を除き、自らの意思においてあるべきものを作り出すことよりも、他人が供給するものをあたかも自らの意思に基づいて選択している気になっているだけになってはいないか。

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