今年のTAFは前年比でビジネスデーの入場者は微増であるものの、外国人参加者がかなり増えたことから、その認知が国際的に高まったとしている。しかし実際には、従来主要な参加者であった欧米のビジネスピープルの数は激減し、アジア圏から作品を抱えて日本市場を目指す国家ミッションが増加したのが現実だ。
これは、日本側の思いとギャップがある。日本サイドの多くは輸出を求め、参加者はバイヤーであってほしいと考えているからだ。しかし、バイヤーは少なく、国内流通もそのほとんどが見本市などでの取引で決定されるのではなく、事前に決定されているものがほとんどだ。そのため、アジア圏の作品の購入を意図する来場者は少ない。結果、ビジネスデーであっても、出展者による発表会的な要素が強く、取引という側面は少なくならざるを得ない。これでは長期的にそのTAFの価値を主張することは困難になって来よう。
一方、香港のFilMartが近年大きく力をつけてきているのには理由がある。その目的と手法が、はっきりとしており、出展者と来場者の意図にギャップが少ない。TAFはビジネスマーケットとファンイベントの二重性があり、どちらにもフォーカスできないが、FilMartはビジネスのみだ。そのため、ビジネス参加者のためのサービスが徹底されている。
出展者だけでなく、参加のみであっても事前登録者情報は開示され、会場でのアポイントメント獲得を容易化するなど、ネット上でのサービスが充実している。これらはMIPなど、世界的な見本市では常識的に提供されているサービスだが、TAFあるいはTIFFCOM(東京国際映画祭の事業者向けイベント)では、提供されていない。
そして、FilMart隆盛の背景をみると、アジア圏の多くの国家にとって脅威となっているのが、中国の文化産業政策が内需から外需へと方向転回されつつあることだ。その典型例が、上海市が中国政府の意向を受けて設置する著作権取引とその事業化を支援するための「上海文化産権交易所」だ。これまでは幾多の官庁が個別に規制して運用してきたため、参入が困難だった。
中国市場の中でも上海市の特定地域には限るものの、解放するという試みが行われている。そのためFilMartではそのソフトランディング的な意味合いのインテリジェンスがなされ、一方、TAFへの参加という点で、中国に対するカウンターパートとしての日本への期待という推測が可能になってくる。
これまで政府が行ってきた調査などのインテリジェンスも、国や分野ごとに細分化されたものばかりであり、政府当局、あるいは外郭団体の多くが行ってきたそれら事業成果も、担当者が2〜3年で移動をするという運命にあるため、網羅的・体系的にする努力は払われてこなかった。そのため、国際市場へ進出を意図する事業者にとってはエントリーバリアは高いままになり、如何せん場当たり的な努力、あるいは作品頼みといった、継続性をもった産業化はなされぬままという状態にある。
まあ、高度な外交的なレベルなどではなく、極めて基本的なことすら、僕らは知らないことが多すぎる。アジア諸国、欧米では、テレビはどのように見られているのか。無料なのか、有料なのか。地上波なのか、衛星なのか、それともケーブルなのか、など。そんな基本的なものをまとめた本すらない中で、どうやって海外戦略をビジネスピープルは練り、学生たちは夢を馳せることができるというのだろうか。
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