4月からトラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が適用され、輸送能力が不足する可能性があることから、「物流の2024年問題」が注目を集めている。この問題が深刻化すると、荷主は消費者から指定された時間に必要なものを届けられなくなり、顧客満足度の低下や、売上機会の損失につながる可能性がある。
では各企業は、この物流の2024年問題にどのような方法で対処しているのか。本記事では、課題解決に向けて近年企業が行っている具体的な対策事例をまとめて紹介する。
トラックドライバーの労働時間が短くなることに加え、人口減少により働き手も不足している日本国内において、輸送能力の不足が懸念されている物流の2024年問題。そもそも、トラックドライバーに時間外労働の上限規制が適用されることで、物流業界にどれほどの影響が出ると予測されているのか。
時間外労働時間が年間960時間に制限されると、1カ月単位での上限はないものの、1日あたりの拘束時間は最長で12時間程度となる。これに当てはめると、これまでは1人のドライバーが大阪から東京まで約12.5時間の拘束時間で荷物を輸送できていたものの、今後は時間通り荷物を届けるには2人の稼働が必要となる。このため、長距離で荷物を運ぶことが難しくなると言われている。
国土交通省は、このまま具体的な対策を行わなかった場合は2024年度に約14%、その後も対策を行わなかった場合は2030年度に約34%の輸送能力が不足すると分析。2023年6月の「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」において、「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」について抜本的な対策を行う必要があるとして、「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定した。
物流の2024年問題に対処するため、多くの企業が協業し、個別ではなく複数の荷主が同じ車両で荷物を運ぶ共同配送へ向けた取り組みを進めている。
荷物や倉庫、車両の空き情報などをデジタル技術で可視化し、複数企業の倉庫やトラックを相互に接続させたネットワークから最適な輸送ルートを導き出して、物流効率を高める共同配送の仕組みを作るフィジカルインターネット構想はその1つだ。伊藤忠商事、KDDI、豊田自動織機、三井不動産、三菱地所は5月、このフィジカルインターネットの事業化に向けた提携を発表し、新会社設立に向けた具体的な協議を進めている。
また、ヤマトホールディングスも5月、共同輸配送のオープンプラットフォームを提供する新会社「Sustainable Shared Transport」(SST)を設立したと発表。同社は、荷主企業の出荷計画や荷姿、荷物量などの情報と、物流事業者の運行計画などの情報をプラットフォーム上でつなぎ、需要と供給に合わせた物流のマッチングを行っていくとしている。
同様に、日本郵便グループとセイノーグループも5月、幹線輸送の共同運行を目的に業務提携を行った。物流業界ではこのように、業界や企業を超えて共同配送の仕組みを構築し、荷物の輸送効率を向上させる動きが加速している。
2023年6月に関係閣僚会議で取りまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」では、2024年度に再配達率6%を目指すことが盛り込まれている。しかし国土交通省の調査によると、2024年4月の再配達率は約10.4%と依然として高く、横ばいが続く。このため、宅配ボックスや置き配の活用によるさらなる再配達率の削減が求められている。
メルカリは3月、原則置き配指定とすることで再配達を減らす非対面の新たな配送サービス「エコメルカリ便」の提供を東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県で開始した。またヤマト運輸は6月から、「クロネコメンバーズ」の会員を対象に、「宅急便」「宅急便コンパクト」の受け取り方法に置き配を追加している。
置き配で問題となるのが、オートロックの集合住宅への配達である。この課題を解決するため、ビットキーとパナソニックは2023年11月、集合マンションのインターホンを活用する新機能「組合わせ番号」を発表した。宅配便の荷物番号を活用して生成した組合せ番号を、パナソニックの集合マンション向けインターホン設置物件で、宅配事業者の配達員が入力すると、オートロックを解錠できる仕組み。これにより宅配事業者は、住民不在時でも専有部玄関前へ荷物を届けられる。
またライナフも、オートロックの集合住宅への置き配を可能にするサービス「スマート置き配」を展開している。同サービスは、スマートロック「NinjaEntrance」(ニンジャエントランス)を用いて共用エントランスの鍵をデジタル化し、オートロックの集合住宅でも、受取側が指定した場所に配達員が荷物を届けられる。
置き配のほか、宅配ボックスの活用により再配達率を削減する取り組みも進んでいる。NiceEzeは6月、変形式のAI宅配ボックス「スマロビAIラック」の提供を開始。スマロビAIラックは、仕切りをなくし、さらに棚の高さも変えられるようにすることで、あらゆる大きさの荷物を格納できる。これにより、宅配ボックスに荷物が入らず再配達になってしまう問題を解決する狙いだ。
働き手が不足する中、各企業は配達員にとってより負担の少ない、働きやすい職場づくりのための取り組みを進めている。
アマゾンジャパンは8月、最終拠点から消費者が商品を手にするまでの最後の配送区間であるラストワンマイル配送に対して、250億円の追加投資を行うと発表した。この追加投資によって、個人事業主として商品を配達する「Amazon Flex」、地域の中小企業や店舗が隙間時間にアマゾンの商品を配達し副収入を得ることができる「Amazon Hubデリバリー」など、配送パートナーがより安全かつ柔軟に働けるプログラムを充実させていくという。
またタイミーは6月、総合物流企業であるセンコーと、物流センターにおけるスポットワーカー活用の実証実験を開始した。実証では、庫内のスポットワーカー比率を高め、働きやすい拠点とする方法を検証する。これにより、人手不足の解消に加え、物流に興味を持つ働き手が、経験やスキルを身につけキャリアアップできる仕組みを構築するという。
このほか、ヤマトホールディングスが5月に設立した新会社SSTは、ドライバーの宿泊を伴う個社ごとの長距離輸送ではなく、中継拠点ごとにドライバーを交代する短中距離リレー輸送を行うことで、働き手の負担を軽減する取り組みを進めるとしている。
物流業界における効率化と人手不足の課題を解決するため、物流ロボットやDXなど、新たなテクノロジーの導入も進んでいる。
山善は8月、同社の新しい物流拠点「新ロジス大阪」に、LexxPlussの自動搬送ロボット「Lexx500」を導入し、搬送時間と荷役作業員の労力削減を目的とした実証実験を行うと発表した。
ソフトバンクロボティクスは、高密度自動倉庫システムを提供するノルウェーのAutoStoreなどの企業と連携を進めている。同社のシステム「AutoStore」は、グリッド上をロボットが走行して荷物のピッキング作業を行うことで、従来の保管場所に必要だった人が行き来する通路をなくし、最大4倍の保管場所を確保できるとしている。
同様に、三井不動産も千葉県船橋市にある「三井不動産ロジスティクスパーク船橋III」にて、3次元ピッキングシステム「Skypod」 を導入している。Skypodは、倉庫内を前後、左右、上下に移動し荷物を自動搬送するため、作業員は移動することなくピッキング作業が可能だ。
三井不動産ロジスティクスパーク船橋IIIではこのほか、トラックを駐車して荷物の積み下ろしをするスペースであるバースを予約するシステム「MOVO Berth」を導入し、ドライバーの待機時間や残業時間の削減に取り組んでいるという。
TOTOは、物流事業とコネクティッド事業を展開するユーピーアールと、AIを用いたパレットカウントアプリ「パレットファインダー」を共同で開発した。パレットファインダーとは、荷物を単位数量にまとめて載せるパレットをスマートフォンのカメラで撮影すると、AIが瞬時に枚数を色別にカウントし、その情報を社内の在庫管理システムへ反映するアプリ。パレットファインダーの導入により、それまで構内作業者による目視と手入力で行っていたパレット管理を、大幅に効率化できたという。
その他の対策事例として各企業は、ドライバー不足が懸念されるトラックから、船舶や鉄道に輸送手段を振り替えるモーダルシフト、ドローン配送の実用化に向けた取り組みも進めている。
陽と人(ひとびと)、日本郵政、日本郵便、東日本旅客鉄道(JR東日本)の4社は7月、新幹線を活用した荷物輸送サービス「はこビュン」と「ゆうパック」の連携によって規格外の桃を輸送し、消費者に届ける実証実験を行った。トラックに比べ船舶や鉄道はCO2排出量が少なく、モーダルシフトは環境負荷の低減という点でも近年注目を集めている。
また、三井不動産と日鉄興和不動産との共同事業で9月に竣工する「MFLP・LOGIFRONT 東京板橋」は、ドローンの実証実験フィールドを併設する。この実験フィールドでは、ドローンによるラストワンマイル配送や、災害時の支援物資搬送などの実証が行われるという。
新スマート物流「SkyHub」を全国展開するNEXT DELIVERYは2023年12月、新設されたばかりの「レベル3.5」の飛行承認を取得し、北海道上士幌町(かみしほろちょう)で日本初のレベル3.5飛行によるドローン配送を実施した。NEXT DELIVERYは今後も、空送と陸送の最適化を図り、全国にあるSkyHub社会実装地域でのレベル3.5導入を推進することで、各地域の物流課題を解決するための新スマート物流構築を進める構えだ。
同様に、ANAも2023年11月、沖縄県久米島町において、「レベル4」飛行でのドローン配送サービスの実証実験を行っている。レベル4飛行とは、有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行のこと。
このほか楽天グループも、2016年に千葉県のゴルフ場でドローン配送サービスを一般向けに提供したことを皮切りに、ドローン事業に取り組んでいる。ドローン配送の実用化に向けた動きは、今後も各社で進んでいくと思われる。
物流業界が直面する2024年問題は、時間外労働の規制や人口減少など、複数の要因によって引き起こされる深刻な問題だ。しかし各企業はこの問題に対して積極的に対応策を講じており、共同配送の推進、再配達の削減、新たなテクノロジーの導入など、さまざまな取り組みを進めている。
これらの対策が順調に進めば、物流の効率化やコスト削減だけでなく、ドライバーの負担軽減や働きやすい環境の構築にもつながる。また、ドローンやロボットなどの新技術が普及することで、物流業界を取り巻く環境が大きく変わる可能性も秘めている。
今後は、これらの取り組みがどのように進化し、実際の現場でどのような成果を上げるのか、そして物流業界全体が2024年問題をどのように克服していくのかに、さらなる注目が集まる。企業間の連携や新技術の導入は、物流業界にどのような革新をもたらすだろうか。
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