2003年、当時Appleの最高経営責任者(CEO)を務めていたSteve Jobs氏は、「あり得ないことが起こる」と宣言するスライドを提示し、同社の「iTunes」ソフトウェアが「Windows」で提供されることを発表した。これによって、それまで「Mac」限定だった機能を、はるかに多くのユーザーが利用できるようになった。それから20年が経った今、Appleにとってあり得ないことが再び起こった、と言ってもいいのかもしれない。今回は、メッセージ送受信規格の「RCS(リッチコミュニケーションサービス)」が、2024年から「iPhone」でサポートされることが発表されたのだ。この展開により、iPhoneと「Android」搭載スマホ間のテキストメッセージのやり取りが改善される可能性がある。
Appleは声明の中で、RCSがSMSやMMSよりも優れた「相互運用性」を提供すると述べただけなので、RCSをどの程度サポートするのかはまだ不明だが、同社はRCSメッセージが「iMessage」サービスと共存することになる、とすでに明言している。つまり、Appleは同社のデバイス間で送信されるテキストメッセージと、Androidやその他のベーシックフォンなど、非Apple製デバイスに送信されるテキストメッセージを今後も区別していく可能性が高い。実際Appleは9to5Macに対し、RCS経由で送信されるテキストを区別するために、少なくとも緑色の吹き出しを今後も使用することを認めている。技術的なレベルでは、今後もメッセージのやり取りでiPhoneを使用しているユーザーと使用していないユーザーが区別されることになるが、米国のようにiMessageのシェアが特に大きい国では、それは、社会的分断の問題が残り続ける可能性も意味する。
また、AppleとGoogleの両社がRCS規格への対応に同意したとしても、多くの機能はこれまでと同じように、AppleのiMessage、またはGoogle独自の「メッセージ」アプリのいずれかでしか利用できない状態が続きそうだ。RCS自体は、入力中であることを知らせるインジケーターや高画質な写真の共有など、さまざまな機能に対応できるが、iPhoneとAndroidスマホ間でメッセージを送受信するときに、それがどのように表示されるかについては、まだほとんど何も決まっていない。
とはいえ、祝福すべき要素もある。AppleがRCSを採用することによって、このメッセージ規格への投資が大幅に拡大する可能性がある。特に、SMSおよびMMSメッセージがこの20年間ほとんど変わっておらず、時代遅れになっていることを考えると、重要な転換点になるかもしれない。例えば、ワイヤレス充電規格の「Qi」は、Appleが「iPhone 8」と「iPhone X」で対応するようになったことで、大きく飛躍し、次世代ワイヤレス充電規格の「Qi2」によって今後のAndroidスマホでは、さらに高速な磁気ワイヤレス充電が実現する見通しだ。だが、過剰な期待はしない方がいいだろう。RCSが採用されたからといって、iMessageがすぐに廃止されそうな気配はないからだ。
iMessageの優れた機能の多くは、青い吹き出しのチャットで最もよく使用されているものの、メッセージ以外の部分でも採用されている。そうした機能には、「iOS 17」の、テキストに「貼り付けられる」GIF風の画像を作成できる「ライブステッカー」や、連絡先に登録されている相手と自動的に共有できる装飾的な「連絡先ポスター」が含まれる。さらに、アプリの統合により、開発者は、iMessage上でゲームを一緒にプレイする機能やフライト情報を送信する機能、金銭をやり取りする機能、より多くの絵文字を追加する機能をユーザーに提供できるようになった。
Googleも自社のメッセージアプリに大いに投資しており、数年前から、AppleにRCSの採用を促すキャンペーンと並行して、さまざまな新機能を頻繁に宣伝している。人工知能(AI)を使用してメッセージの下書きを生成する「Magic Compose」、メッセージの送信日時を指定する機能、そしておそらく最も重要な、メッセージのプライバシーを保護する独自の暗号化規格などがその一例だ。
GoogleのメッセージはRCS規格を使用して、こうした多くの機能や暗号化を導入しているかもしれないが、だからといって、それらの機能自体がRCSに直接組み込まれているわけではない。例えば、Appleは9to5Macに対し、Googleが自社のメッセージアプリで使用しているのと同じ暗号化を採用するのではなく、業界団体のGSMAと連携して、RCS内の暗号化規格を改善していくと語っている。
Googleの声明では、将来的な分裂を認めているようだ。同社は、「Appleの参加を歓迎」しており、「誰にとっても適切に機能する方法で『iOS』にRCSを実装するために同社と協力する」ことを楽しみにしている、と述べている。
しかし、たとえAppleとGoogleがRCSを介して入力中インジケーターなどの最新機能を共有する方法を見つけたとしても、両社はスマートフォン市場のライバルであり続ける。両社は引き続き、iOSまたはAndroidでしか利用できないメッセージ機能を宣伝する方法や、iPhoneとAndroidの間で簡単には共有できない機能に注目を集める方法を模索し続けるはずだ。
AppleとGoogleがRCS規格に関して協力し始めたとしても、絶えず進化する他のチャットアプリを使いたいという人はおそらくいるはずだ。RCS規格は依然として暗号化などの組み込み機能の改善が必要であるため、多くのコミュニケーションの機会では、「WhatsApp」や「Signal」、Facebook Messengerなどのサービスの方が便利かもしれない。
例えば、Appleは2021年、「FaceTime」を開放し、ウェブブラウザーのリンクを使用して参加者を通話に招待できるようにした。これにより、AndroidやWindowsユーザーもウェブブラウザー経由でFaceTime通話に参加できるようになったが、本質的な使いやすさという点では、それらのプラットフォーム上のネイティブアプリには及ばない。筆者は何度かウェブブラウザー上でFaceTimeを試したことがあるが、ウェブブラウザー経由でログインしている参加者は、接続の問題に見舞われることがあるし、iPhoneを使用している参加者よりも小さなウィンドウ内に表示された。一方、Facebook Messengerや「Zoom」でグループビデオ通話を開始すると、参加者はそれらのサービスのネイティブアプリを使用でき、通話は全く問題なく機能する。それらのサービスは、さまざまなOSで使用することを最初から想定して作られているからだ。
RCSメッセージもしばらくの間、同様の問題に苦しむことが考えられる。だが、RCSが成熟するのに時間がかかるとしても、AppleとGoogleの両社がこの規格への対応に同意したことで、数十年前に登場したSMSとMMSが実際に置き換えられる可能性が出てきた。そのおかげで、MMS経由で粒子の粗い写真を送ることがなくなる日が近づくのであれば、それだけでもRCSの成熟を待つ価値があるかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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