15年の歴史で世界を変えてきた「Android」--AIで再び世界を変えられるか

Imad Khan (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2023年11月10日 07時30分

 折りたたみ式携帯や、フルキーボードを備えた「BlackBerry」デバイスが世にあふれていた当時、検索サービス大手のGoogleが下した決断は、競合各社にとって決定打となった。そしてその決断は同社のモバイルOSである「Android」を、Appleの「iPhone」との長きにわたる全面対決へと向かわせた。

「Android」を搭載した初のスマートフォン端末「T-Mobile G1」とサムスンの「Galaxy Z Fold5」
「Android」を搭載した初のスマートフォン端末「T-Mobile G1」(左)とサムスンの「Galaxy Z Fold5」
提供:James Martin/CNET
  1. Androidの買収とiPhoneの登場
  2. Androidの無償提供
  3. Apple対Android
  4. AIとAndroid

Androidの買収とiPhoneの登場

 Androidはその頃Googleが買収した、カリフォルニア州の小さなソフトウェア企業だった。そのAndroid部門がまだ研究を重ねているときに、AppleがiPhoneを発表する。2007年1月のあの歴史的な発表によって「インターネット対応モバイルデバイスになり得るもの」に対するそれまでの概念は大きく覆された。コンピューターの代表的な機能を限られたスペースの画面に詰め込んで小さなメニューを表示し、物理キーボードとスタイラスペンを搭載する代わりに、Appleは指での操作に適した、スクリーンだけのデバイスを世に送り出したのである。

 これが、Googleに火をつけた。

 「Googleが動かなかったら(中略)、1人の男が経営する1つの会社、1つのデバイス、1つのキャリアしか選択肢がなかった」と、当時のGoogle幹部Vic Gundotra氏は、同社が開催した2010年の「Google I/O」カンファレンスで話している。Androidを創設したAndy Rubin氏の考え方を引き継いだ発言だ。「そんな未来はごめんだ」

 望むとおりの未来を形作るために、Googleは大胆な手を打つ。Androidを完全に無償のオープンソースとし、デバイスを開発/使用するすべての企業に開放したのである。

 それから今日まで続いているのが、AppleとAndroid陣営に二分されたスマートフォンの世界市場だ。Android陣営ではサムスンが優勢だが、他にも何社かのブランドがあり、Googleが自社製造している「Pixel」シリーズもその1つに数えられる。Androidのオープンソース化というGoogleの賭けは見事に成功した。2005年のAndroid買収額は5000万ドル(当時のレートで約55億円)だったが、統計調査プラットフォームのStatistaによると、「Google Play」ストアでのアプリの売り上げは2021年単体で479億ドル(当時のレートで約5兆3000億円)を記録するまでに成長したのである。世界初のAndroidスマートフォンが登場したのは2008年9月で、それ以来Androidは最も人気の高いモバイルOSとなり、ユーザー数は全世界で33億人に達している。世界人口のほぼ41%に当たる数字だ。

 その間、GoogleはAndroidハードウェアのパートナー企業や競合他社など、さまざまな関係者と調整を繰り返さなければならなかった。Appleでは起こることのない問題だ。しかも、急ピッチでスマートフォンの可能性を追求しながら。次々と新しい機能を盛り込む姿勢もその延長線上にあり、現在最も話題になっているテクノロジーである人工知能(AI)に基づく機能もその一例と言える。

 「Androidは、この15年で大きな進歩を遂げてきた。AIが発展した今こそ、スマートフォンに関するユーザーエクスペリエンスを考え直す千載一遇のチャンスだ」。Androidエコシステム担当ゼネラルマネージャー兼バイスプレジデントのSameer Samat氏は、こう語っている。

 Samat氏は、Androidに最初から携わってきた人物として筆者が話を聞いた4人のうちの1人だ。過去15年の歴史を振り返ると同時に、今後どうなるかを論じるため、その4人に話を聞いた。

Androidの無償提供

 当初Googleが目指したのは、「Windows Mobile」のようなプラットフォームに対抗できるOSを開発することだった。当時の最高経営責任者(CEO)だったEric Schmidt氏は、後にこう話している。「われわれは、Microsoftのモバイル戦略が成功することを非常に懸念していた」

 つまり、想定されていたのはフルキーボードと小さめのスクリーンを備え、中ほどにナビゲーションボタンを配したデバイスだった。全面タッチスクリーンのスマートフォンという発想は、全く視野に入っていなかった。

 2007年1月9日、すべてが一変する。Appleが初代iPhoneを発表した日である。

 「1人の消費者として、ものすごい衝撃を受けた」。当時GoogleのエンジニアだったChris DeSalvo氏の言葉が、2013年に刊行された書籍「アップルvs.グーグル:どちらが世界を支配するのか」の中で紹介されている。「すぐ手に入れたいと思った。だが、Googleのエンジニアとしては、『一からやり直しだ』と思った」

 魅力のあるOSを作ることも重要だったが、GoogleとしてはそのOSのユーザー層を世界中に広げることも必要だった。そのために、GoogleはかつてのMicrosoftの戦略にならった。ハードウェアパートナーと提携し、Androidを組み込んだデバイスを製造してもらうのである。ただし、Microsoftのようにライセンス料を課すことはせず、無償でOSを提供するという道を選択する。検索その他のサービス機能をAndroidに組み込み、ユーザーの検索習慣に対する広告を販売することで収益を上げるのが狙いだった。Google Playストアで販売されるアプリの売り上げの一部も収益になる。

 「Androidの初期にとりわけ重要だった決定の1つが、プロジェクトをオープンソースにすることだった」、と語るのは、Googleでプラットフォームおよびエコシステム担当シニアバイスプレジデントを務めるHiroshi Lockheimer氏だ。同氏は、Androidチームの創設メンバーの1人でもある。

 オープンソースとは、ソフトウェア開発に対するコラボレーションを促す手法であり、著作権の保有者は、ユーザーや他の第三者がソフトウェアを改変して配布することを許可する(大抵は無償)。オープンソースソフトウェアといえば「Linux」や「Blender」「VLC media player」などがよく知られている。

 サムスンのような企業が、独自の「iOS」デバイスを開発することはできない。iOSはAppleの所有物だからである。サムスンには、自社OSの開発を続行し、アプリ開発者を募るという選択肢もあったが、それは困難極まりない道だ。代わりに選択したのが、Androidにすべてを賭けることだった。BlackBerryなどの有力他社は大幅に市場シェアを落とし、2009年には20%あったシェアが、2016年になる頃にはほぼゼロになっていた。Androidか撤退かという二択を迫られたモバイル業界は、Androidを選んだのである。

 Microsoftが「Windows」で課しているようなライセンス料をGoogleが求めなかったため、メーカー各社はコストを負担することなく参入できた。サムスンなどの企業がデバイスを販売するときに、Googleに支払いが発生しないということでもある。こうしたアプローチの成果でAndroidは急速に普及し、世界で最も人気のあるモバイルOSという地位を確立するに至る。

 2019年までには、Androidの開発に着手した当時のGoogleが最も恐れていたMicrosoftもモバイル事業から完全に撤退。iOSおよびAndroid用ソフトウェアの開発に舵を切った。

Apple対Android

 現在のモバイル市場は、AndroidとAppleのiOS、この2つのOSでほぼ寡占状態にある。そこにあるのが、全く異なる性質を持つ2社の興味深い力関係だ。Appleは、完全な管理下に置かれたエコシステムを好み、洗練されたデザインを前面に押し出している。かたやGoogleは、Verizon Wirelessが2009年から販売していた「Motorola Droid」で見られたハッカーのような先鋭的外観から、個性とカスタマイズ性を打ち出した、よりクリーンなスタイルに移行している。といっても、それはGoogleがPixelシリーズで採用しているデザイン言語だ。サムスン、OnePlus、Nothingといったハードウェアパートナーはいずれも、それぞれ独自のスタイルでAndroidデバイスを展開している。

 こうした状況から、Appleは1点に絞った明確なマーケティングメッセージを発することに成功している一方で、Android側ではいくつものメッセージが錯綜している。一部のメーカーが、高級感より「価値」を押し出しているのもその一例だ。

 Appleは、iPhoneを高級志向の層に向けた製品だとアピールしている。経済的な余裕、あるいは高いファッションセンスの証という位置付けだ。そういう空気をかもし出すためにAppleは、ドラマや映画で善良なキャラクターにしか同社製品を使わせないという厳格なポリシーまで確立している。2019年の殺人ミステリー映画「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」をめぐってRian Johnson監督が暴露したとおりだ。

 実際、Appleのマーケティングは功を奏しており、米国や日本といった主要な市場では、過去数年iPhoneがAndroid端末をしのいでいる。米国内のティーンエージャーはもっぱらiPhoneを好んでいる。「YouTube」では、9月の「iPhone 15」の発表動画が現時点で3000万回以上の視聴数を記録している一方、その数週間後に投稿された「Pixel 8」の発表動画は119万回にとどまっている(「Galaxy S23」の発表動画は9カ月早く2月に公開されており、現在の再生回数は2194万回)。

 マーケティングは、Googleの活動でも大きな部分を占めるようになってきた。Pixel 8と「Pixel 8 Pro」の主要機能、例えばAI機能を紹介する最近のテレビCMでもそれは明らかだ。サムスンの「Galaxy Z Flip5」などで見られる折りたたみ式という、スマートフォンのデザインに関して近年最も劇的な変化は、Android側で始まっている。

 また、Androidという存在がなければ、Appleは「クール」という地位を確立できなかったかもしれない、という点も指摘しておくべきだろう。多くの機能が、まずAndroidに登場してからiPhoneにも採用されている。

 Android部門でエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるDave Burke氏は、こうコメントしている。「先にAndroidで登場したイノベーションは数知れない。プルダウン通知、ホーム画面のウィジェット、コンピュテーショナルフォトグラフィーなどの機能から、指紋センサーや5Gといった、基盤となるハードウェアの進歩まである。それから、USB-Cポートも忘れてはいけない」

AIとAndroid

 Androidは、一貫して複雑さを抱えてきた事業だ。ソフトウェアとして、スマートフォンから車載ハードウェアまであらゆる規模に対応しなければならないため、Googleはこれまでも密接に開発者と協力する必要があり、多くのデバイスで機能するアプリを開発するためのツールを提供してきた。

 そうしたツールをいくつか紹介すると、例えば「Jetpack Compose」では開発者が簡潔なコードで見栄えの良いアプリを作成できる。高水準APIを使うと、カメラや生体認証のコードを簡素化でき、「デバイスストリーミング」では多様なAndroidデバイスを対象にリモートでアプリをテストできる。さらに、現在ではAIがAndroid開発者を支援するようになり、学習、コーディング、テストに使える「Studio Bot」が発表された。

 AIは、Googleが自社のPixelシリーズを他のAndroidスマホやiPhoneと差別化し続けている要素の1つだ。その一環として、コンピュテーショナルフォトグラフィー技術の機能を拡張し、被写体を消したり、消した後の空白を自動生成したりするAIを搭載している。あるいは、AIが迷惑電話をスクリーニングしたり、カスタマーサービス相手に電話待ちをしたりしてくれる。遊び心のあるツールとしては、AIでカスタムの壁紙を生成する機能もある。

 モバイルOSを提供して競合している企業が実質的に2社しかない以上、おそらくAndroidが全世界のスマートフォンプラットフォームで優位を保つだろう。安価なAndroidデバイスの需要が大きい発展途上の市場もまだあり、こうした市場での競争にAppleは目を向けていないからだ。また、何年にもわたって莫大な額をAIに投資し、機械学習をAndroidに組み入れ続けていることから、Googleは、ユーザーが体感する利便性によってAppleへの乗り換えを思いとどまらせることができると期待している。

 Android部門のエンジニアリングディレクターを務めるDaniel Sandler氏はこう述べている。「ステータスバー通知からシステム共通のナビゲーションジェスチャー、Androidの全アプリを基盤のOSに接続する『Binder』IPCシステムまで、Androidには、われわれがこれまでに生み出してきた最高のアイデアすべてが結集されている」

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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