スマートフォンは大きな進化を遂げようとしている。この数年というもの、業界リーダーたちは、5Gと折りたたみディスプレイの登場が、スマートフォンの転換点となる技術上の躍進だと考えてきた。
2023年に入ってから、その話題をさらったのが、生成人工知能(AI)だ。Microsoftの共同創業者であるBill Gates氏や、Alphabetの最高経営責任者(CEO)を務めるSundar Pichai氏などの大物が、スマートフォンの登場や、インターネットそのものの出現に匹敵しうるほど画期的だと考えている技術である。
生成AI、つまり新しいコンテンツを作り出せるAIは2023年、テクノロジーの世界全体を飲み込み、Alphabet傘下のGoogle、Microsoft、「Instagram」と「Facebook」の運営元であるMetaといったテクノロジー企業大手の新製品の軌道を形作っている。2023年最後の四半期、この傾向がスマートフォンにどう広がっていくのか、その状況が明らかになりつつある。
AIは、10月はじめに発表されたGoogleの「Pixel 8」でも中心的な機能に位置付けられており、同社はそのアルゴリズムを全面的にアピールしている。集合写真を撮ったとき、複数の写真から最高の表情の1枚を選び取り、別の画像に簡単に貼り付けられるという機能だ。モバイルチップメーカー大手のQualcommは、同社の次世代スマートフォン向けプロセッサーは、AI処理タスクを高速化する設計になっていると、米国時間10月24日にハワイで開催された「Snapdragon Summit」で発表している。また、Bloombergの最近の報道によると、Appleも「iPhone」などの製品に向けて、AIを利用した新機能をいくつも開発中だという。
「AIはスマートフォン体験の未来だ」。Qualcommのモバイル・コンピュート・XR担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるAlex Katouzian氏は、同社のイベントでこう語った。「モバイル技術という点で、これこそ、10年以上前から当社が目指して開発してきたものである」。
「ChatGPT」や、MicrosoftおよびGoogleの新しいAI搭載検索ツールは、2022年後半から2023年前半にかけては生成AIの出発点だったかもしれない。だが、見る見るうちに、現在と今後のスマートフォンの方向性を左右するほどになった。AIはモバイルデバイスにとって目新しいものではない。音声の文字起こし、翻訳、顔認識などの機能ですでにAIは利用されている。例えばAppleのiPhoneは2017年以降、「iPhone X」と「iPhone 8」から、機械学習関連の処理を担うニューラルエンジンを搭載している。
生成AIは別物だ。AIが受動的に機能して、写真の中の人を検出したり、顔認証でスマートフォンのロックを解除したりするのとは違う。そうではなく、指示に応じて新しい壁紙を生成する、あるいは写真の中で人の表情を調整するなど、新たな使い方を実現している。
市場調査企業のKantarで、テクノロジーおよびヘルス産業を専門とするSubhashish Dasgupta氏は、こう語っている。「AIの使い方、どんな使い方をしたいか、日常生活にどう応用したいかを、ユーザーがコントロールできるということが重要だ」
今のところ、GoogleのPixel 8と「Pixel 8 Pro」が最も分かりやすい例になっている。どちらのモデルでも、プロセッサーの刷新やカメラハードウェアの若干の改善など恒例のアップグレードもあったが、この2モデルを特に際立たせているのは、AIを活用した新しい機能だ。
「ベストテイク」という写真編集機能では、連写で撮ったばかりの集合写真を解析し、複数の画像の中から顔の表情を差し替えることができる。つまり、GoogleのAIは全員が笑っている理想の写真を作り出せるのだ。実際にはそのような瞬間はなかったとしても、である。
「編集マジック」でも、同じようにAIを応用して、多くの方法で写真を操作できる。自分の大きさを変えたり、人間業とは思えないほど高く飛び上がっている画像にしたり、地面ごと入れ替えたりることまで可能だ。
以上は、GoogleがスマートフォンにおけるAIの役割を強調しようとしている最新の例にすぎない。同社が5月の開発者会議で発表した「Magic Compose」という別の機能では、Googleのメッセージアプリで、生成AIを利用してテキストメッセージへの返信文の候補を生成したり、語調を変えて返信文を書き直したりできる。また「AI壁紙」では、プロンプトに応じてスマートフォンの背景画像をゼロから新しく作り出せる。
2024年以降、AIはわれわれが使うスマートフォンでさらに大きな役割を果たす見込みだ。サムスン、小米科技(シャオミ)、OnePlusといったメーカー各社のスマートフォンに搭載されるプロセッサーを製造しているQualcommが、新しいモバイルプロセッサー「Snapdragon 8 Gen 3」を開発する際にAIを念頭に置いたことは明らかだ。QualcommのCEOであるCristiano Amon氏は、AIがスマートフォンをどう変えるかという同社のビジョンを、Snapdragon Summitで明らかにした。
QualcommはAIについて、音声、文章、画像の入力を理解し、さまざまな提案事項を提示できる、スマートフォンのOSやアプリと並んで動作するもう1つの層としてとらえている。この10年でおなじみになったバーチャルアシスタント、例えばAppleの「Siri」、Amazonの「Alexa」、そして「Googleアシスタント」などとは大きく異なる。同社は、AIを個々の機能レベルで考えるのではなく、これからはAIがスマートフォンの日常的な操作の根幹をなすものと考えているのである。
「いわば、音声アシスタント2.0といったところだ。より会話的になり、はるかに自然になる」。こう話すのは、テクノロジーに関する調査・顧問会社CCS Insightのシニアアナリスト、Luke Pearce氏だ。
Qualcommによる基調講演では、この未来がどのようなものになるか、その姿が垣間見えた。ティーザー動画では、通話の内容から要点を抜き出して箇条書きに列挙し、提案内容を示すというバーチャルアシスタントが紹介されている。AIアシスタントが、2人の友人の間で交わされるテキストメッセージからキーワードを選び出し、リアルで集まる場所の候補をあらかじめ提案するという応用例もあった。同社の新しいプロセッサー、Snapdragon 8 Gen 3を活用する写真ツールでは、あらかじめ撮影してあった写真をズームアウトして、フレーム外の細部を生成し、まるで広角のレンズで撮影したように見せていた。
「デバイス、(OSや)アプリ、そしてユーザーエクスペリエンスの実際の定義について、われわれの考え方を変えるものだ」。Amon氏は壇上でそう語った。
Qualcommは、すかさず対応を始めている。Googleとの間で、Snapdragonを搭載する今後のスマートフォンにおいて、GoogleのAIモデルをローカルで実行できるように協力を進めつつある。シャオミも、Snapdragon Summitでスマートフォンの新モデル「Xiaomi 14」を発表しており、これはSnapdragon 8 Gen 3で動く最初のデバイスの1つになるという。一方、OPPO、OnePlus、HONOR、vivoなど他のブランドも同じプロセッサーを採用する予定で、これはおそらく2024年になる。米国の場合、サムスンは、フラッグシップモデル「Galaxy S」シリーズや、折りたたみスマートフォン「Galaxy Z」シリーズの米国向けモデルにQualcommの最新プロセッサーを搭載するのが通例だ。ただし、「Galaxy S23」「Galaxy Z Flip5」「Galaxy Z Fold5」の各モデルでは、「Snapdragon 8 Gen 2」のカスタム版が採用されている。
BloombergのMark Gurman氏は、AppleもiPhoneをはじめとする各製品に搭載するAIについて数々のアップグレードを計画中だと報じた。
Appleのソフトウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めるCraig Federighi氏は、iOSの次期バージョンにAIを導入する取り組みの陣頭指揮をとっていると報じられている。同報道によると、Appleは同社の大規模言語モデルをソフトウェアに盛り込みたいと考えており、SiriやAppleのメッセージアプリに導入される可能性があるという。また、Appleの一連のアプリにもAIを伴う刷新がありそうだという。
だが、GoogleやQualcommが思い描くようなパーソナライズされた機能を体験するには、テクノロジー大手各社に、今まで以上に個人の生活をさらさざるを得なくなる。AI搭載のデバイスがテキストメッセージに基づいて候補を提案したり、通話の内容を要約したりするには、AIが個人のコミュニケーションに聞き耳を立てなければならないのだから、当然のことだろう。
「AIが試みるのは、ユーザーについて予測することだ」と、Amon氏は基調講演で述べている。
Qualcommが最新プロセッサーの利点を押し出しているのは、これが大きな理由だ。Snapdragon 8 Gen 3は、AI処理をクラウドに依存せず、デバイスのローカルで実行できるくらい高性能かつ効率的だとうたっている。つまり、個人の情報がスマートフォンの外に出ていかなくて済むということで、そうなればプライバシーとセキュリティの観点で望ましい。ユーザーの行動、よく訪れる場所など、ライフスタイル上のパターンに基づくパーソナライズされた提案も、それほど秘密性の高い個人情報をクラウド経由で送ることなく、精度を向上できるのである。
個人データについては、Appleも同様のアプローチをとっている。「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch Ultra 2」は、同社の新しい「S9」プロセッサーを採用したことによって、音声リクエストをデバイス上で処理できるようになったため、Siriは、健康関連の質問にApple Watch上で回答できるようになる。
スマートフォンで作成された画像や動画に関して、AIは事実と虚構との境界線をあいまいにするのではないかという懸念もある。編集マジックやベストテイクなどの機能は、写真の美化や編集の域を超え、写真の中で起きていることを変えてしまう。
QualcommとGoogleはこの点について配慮を忘れていない。Qualcommは、画像の真正性を検証して、AIで作成されたものかどうかを判定すべくTruepicと提携している。Googleも先頃、検索結果に表示された画像のソースについて詳細なコンテキストを示す「About this image」ツールを発表した。
良きにつけ、悪しきにつけ(ということはないと思いたいが)、われわれの生活で最も重要なデバイスとなったスマートフォンの使い方が、AIによって変わることは確かだ。
「今はまだ現れていない、革命的な使い方があるのかもしれない」とPearce氏。「だが、そういう使い方は、すぐに現れてわれわれの意表を突き、そして不可欠なものになるだろう」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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