フードテック官民協議会が主催する「令和4年度 未来を創る! フードテックビジネスコンテスト」の本選が2月4日に行われた。個人、企業などから幅広くフードテック活用による社会的課題解決のアイデアを募集し、一次審査、二次審査を経て本選が開催された。
本選は「アイデア部門」(個人、学生や社会人サークルなどが対象)の4組、「ビジネス部門」(法人やそれらに属するプロジェクトチーム、個人事業が対象)の7組が7分間のピッチ(短いプレゼン)を行い、最優秀賞から優秀賞、学生賞、特別賞まで計5組が受賞した。
受賞者と受賞対象のタイトルは以下の通り。
「地球環境にやさしい宙(そら)ベジの普及」
「すべての人の未来に寄り添う「AI食」」
「米Time for Your Health」
「シン・ゴハン『まあるいご飯のおやつ』」
●玄成秀(株式会社Agnavi)「全国の蔵元から厳選した日本酒缶ブランド」
●木村俊介氏(TOWING)「地球環境にやさしい宙(そら)ベジの普及」
最優秀賞に輝いたTOWINGの木村俊介氏が発表したのは、脱炭素と有機栽培への容易な転換を実現し、収穫物の収量を上げられる「高機能バイオ炭」と、それを活用した野菜ブランド「宙(そら)ベジ」だ。
高機能バイオ炭とは、籾殻や家畜の糞などのバイオマス資源を炭に替えた「バイオ炭」と、硝化菌やアンモニア化成菌などの「土壌微生物」、それを活性化させるための「有機肥料」を組み合わせることにより、「農家が5年かけて作る土壌微生物菌層をバイオ炭の中にわずか1か月で構築できる」(木村氏)という。
この高機能バイオ炭を使うことで、「農地への炭素貯留」と「有機栽培の促進」という2つのメリットがあると木村氏は話す。
「たとえば籾殻を田んぼに敷き込むと、田んぼの中のバクテリアが籾殻を分解して二酸化炭素で出てくる。一方、バイオ炭は炭のまま100年間残るので二酸化炭素が出なくなる。つまり炭を埋めれば埋めるほど二酸化炭素が削減でき、『カーボンクレジット』と呼ばれる新たな副収入源にもなってくる」(木村氏)
有機栽培の促進という面では「農家が5年かけて作った土の有機肥料の分解率は1日当たり5%程度なのに対し、高機能バイオ炭を入れるとわずか1か月で約40%程度の肥料分解率になるため、化学肥料を代替して有機肥料を使いこなせる土作りが実現できる」と木村氏は話す。
農家の協力を得て、窒素・リン酸・カリウムのバランスをすべて同じにした状態で栽培したところ、高機能バイオ炭と有機肥料を用いた区画の方が化学肥料を用いた区画に比べて約1.7倍程度の収量になったという。
こうして高機能バイオ炭を用いて栽培する野菜に「宙ベジ」というブランディングも行っている。
「宙ベジを食べることで『脱炭素やSDGsに貢献できる』『有機肥料を活用した栽培』『健康にも貢献できる』として売り出している。愛知県ローカルのスーパーでテスト販売した結果、非常に売れ行きがよかった。生産性が上がるため、無理に高く売らなくていい。そのため手に取ってもらいやすい価格で売れるし、地産地消を超えた環境貢献ができる点でも非常に売り手、買い手にとっても非常にメリットのあるものになっている」(木村氏)
競合との差異化のポイントについては、「バイオ炭を活用して栽培した野菜も市場に出回っているが、われわれはブランドライセンスと独自販路の提供に加えて、二酸化炭素の排出の削減量を格段に上げられることにある」と木村氏は話す。
「まずは愛知県の圃場で作ったものを流通させるところからスタートしている。高機能バイオ炭の販売もスタートしたので、順次協力農家を集め、提携している大卸や中卸を通じて販売していき、最終的には2024年に国内の展開を目指したい」(木村氏)
発表会後は審査員を務めたアグリビジネス投資育成 取締役 代表執行役 兼 最高投資責任者の松本恭幸氏が講評した。
「最優秀賞は新規性や事業性などすべての観点で宙ベジだと審査員の意見が一致した。当社では毎朝『朝会』として30~40分、環境問題や『みどりの食料システム戦略』について話し合っている。その中で脱炭素などの問題をどうやって農業法人の皆さんにインパクト目標として持ってもらい、実行していくようにしたらいいのか。非常に大きな課題で、皆がそこで答えに詰まる。私は毎週必ず農業法人の方々を訪問して脱炭素や有機農法の話をするが、皆さん非常にちゅうちょされる。生産コストの問題もあるし、高温多湿の気候の中でどうやって有機農法をやっていけばいいのかとなる。そこで今回の高機能バイオ炭という、土に直接アクセスする非常に新しいアイデアと技術でコストを抑えた農業ができるのであれば、農家の皆さんの背中を大きく押して、『有機農法をやってみませんか』という具体的な一歩になると個人的にも大変期待している。日本の脱炭素戦略を農業の現場から変えていくということが実現できればいいと思っている」(松本氏)
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