Rachel Barkmanさんの息子がキノコの種類を正確に見分けるようになったのは、2歳のときだった。2人は一緒に、カナダのバンクーバーの自宅近くにある苔むした林や牧草地に出かけ、キノコを探すことが習慣になる。Barkmanさんは、息子が熱心にキノコを探す様子やその腕前を、「TikTok」動画でときどき共有するようになったが、そのことについて深く考えていなかった。いくつかのかわいい瞬間を動画に収め、35万を超えるフォロワーの多くから好評のようだった。
ところが2021年の冬のある日、森でキノコを採っていた2人に見知らぬ女性が近づいてきた。そして、その女性がかがみながら当時3歳になっていた息子に名前で呼びかけ、キノコを見せてほしいと話しかけてきたのだ。
「さっと、背筋が寒くなった。全くの他人に息子の情報を与えてしまっていて、それが息子を危険にさらしていることに気づいた」と、この6月のインタビューでBarkmanさんは話している。
こうした出来事があり、また情報を共有しすぎることの危険について調べた結果、Barkmanさんは息子の情報をオンラインに出すことを考え直すようになった。2022年のはじめからは、今後の投稿では息子の顔を出さないと宣言している。
「私の決定を後押ししたのは、息子を守りたいというだけでなく、息子のアイデンティティーとプライバシーを保護し、尊重したいという思いだった。息子には、どんな形で世間に露出するのか自分で選ぶ権利があるからだ」(Barkmanさん)
こうした危険が急増している背景には、いわゆるキッズインフルエンサーの台頭がある。例えば、YouTubeの「Ryan's World」チャンネルのRyan Kaji君(10歳)は、チャンネル登録者数が3300万人に迫る勢いで、各種の試算によるとチャンネルの正味収益は数千万ドルに上るという。ブランド各社は今まで以上に、より小規模でニッチなマイクロインフルエンサーやナノインフルエンサーの活用を狙うようになっており、Instagram、TikTok、YouTubeの人気アカウントを発掘して、対象ユーザーにリーチしようとしている。このようなインフルエンサーのゴールドラッシュには、親を引きずり込む強い力があり、多く親がこの波に乗ろうとして、オンラインでむやみに子どもの写真や動画を共有しているのだ。
キッズインフルエンサーの親は「シェアレント」と呼ばれることも多いが、子どもに代わってアカウントを管理する親が増えると、搾取やその他の危険が生じるリスクも増す。予防策がほぼ存在しない業界であり、親たちはいわば無秩序な開拓時代にいるようなものだ。子どもの露出度、労働量、子どもを使ったコンテンツで得られた金銭の扱いなどは、完全に親が判断して決定するしかない。
Instagramには、キッズインフルエンサーを保護するために何らかの措置をとっているかどうか、数度にわたってコメントを求めたが、回答は得られなかった。TikTokの担当者によると、同社は性的搾取に対してゼロトレランスの態度で臨んでいるといい、16歳未満(13~15歳)のユーザーのアカウントを保護するポリシーがあると回答した。ただし、そのポリシーは子どもと一緒に、あるいは子どもに代わって投稿する親には適用されない。YouTubeからも、コメント要請に対してすぐには回答が得られなかった。
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