NTT島田社長、通信障害時のローミングは「時間をかけずに実現を」

 NTTは8月8日に2022年度第1四半期決算を発表。売上高は2021年同期比6.1%増の3兆689億円、営業利益は2021年同期比3.5%増の5034億円と、増収増益の決算となった。同日に実施された決算説明会に登壇した代表取締役社長である島田明氏によると、売上高、営業利益ともに過去最高とのことだ。

決算説明会に登壇するNTTの島田氏
決算説明会に登壇するNTTの島田氏

 その要因は、企業のデジタル化需要を獲得しているNTTデータとNTT Limitedの好調な業績、そしてNTT Limitedの構造改革によるコスト削減が寄与したとのこと。一方でNTTドコモを主体とした総合ICT事業は、行政による料金引き下げ影響を大きく受けていることから2021年同期比では減収となった。

通信料金引き下げの影響で総合ICT事業が減収となったが、企業のデジタル化需要を獲得してグローバル・ソリューション事業が大幅に伸び、増収増益を達成している
通信料金引き下げの影響で総合ICT事業が減収となったが、企業のデジタル化需要を獲得してグローバル・ソリューション事業が大幅に伸び、増収増益を達成している

 実際、ドコモが公表した2022年度第1四半期決算は、売上高が2021年同期比1.0%減の1兆4218億円、営業利益が前年同期比0.3%増の2837億円となった。法人ソリューションや金融、決済などスマートライフ事業が順調に伸びているものの、やはり料金引き下げの影響が業績の足を引っ張ったようだ。

ドコモの決算説明資料より。法人事業やスマートライフ事業は好調に伸びているが、やはり料金引き下げの影響でコンシューマ通信事業が大きく落ち込んでいる
ドコモの決算説明資料より。法人事業やスマートライフ事業は好調に伸びているが、やはり料金引き下げの影響でコンシューマ通信事業が大きく落ち込んでいる

 なお楽天モバイルが7月に、月額0円で利用できる仕組みを廃止したことについて島田氏は「ネットワークのビジネスはやはりコストがかかる。それは当然の行動だと思う」と回答。その影響かどうかは分からないとしながらも、2022年四半期の番号ポータビリティによる転入はプラスに転じたとしている。

 ただ島田氏は「おおむね想定していた決算になった」と話し、国内事業は想定通りだが海外事業が想定以上に伸びて高業績につながったと説明。一方海外事業に関してはまだ半導体不足の影響が続いているとのことで、そちらが解消されればよりビジネスを伸ばす余地があるとも話している。

 またNTTは、決算に合わせて2つの発表を実施。1つはメディカル・ヘルスケア事業の推進を目指す、遺伝子検査やデータ解析を手掛けるジェネシスヘルスケアとの資本業務提携。そしてもう1つは組織の地域分散化に向けた取り組みで、群馬県高崎市と京都府京都市にオフィスを開設する。2022年10月よりNTT自身が200人規模でトライアルを実施し、課題や対策を検証した上でグループ会社などに取り組みを広げていきたいとしている。

組織の地域分散化に向けた取り組みを打ち出し、200人でのトライアルを実施するとのこと。高崎市と京都市を選んだ理由は、災害の影響を受けにくい内陸の地域であるためだという
組織の地域分散化に向けた取り組みを打ち出し、200人でのトライアルを実施するとのこと。高崎市と京都市を選んだ理由は、災害の影響を受けにくい内陸の地域であるためだという

「呼び返し」なしの緊急通報でローミングの早期実現を

 一方で記者からは、7月2日に発生したKDDIの通信障害に関連する質問が相次いだ。島田氏はこの障害に関して、2021年にドコモが通信障害を発生させたこともあり「他人事ではない」と言及、KDDIの通信障害の詳細な情報が分かり次第、「経験を踏まえて見直すところがあれば見直す必要があると思う」としている。

 また今回の通信障害を気に注目されている、通信障害発生時に他社とネットワークを融通し合うローミングについて島田氏は「できるだけ早く実現できるよう、われわれとしても協力していきたい」と実現に向けた検討に前向きな姿勢を示すが、一方で「まずは時間をかけないでやることが大事」だとも話す。

 そこには緊急通報機関が通報者に通話を折り返しできる「呼び返し」の扱いが大きく影響している。日本では緊急通報を提供する上で呼び返しが必須とされているが、それが緊急時のローミングの実現を難しくしている大きな要因となっている。そこで島田氏はいち早くローミングを実現する上でも、呼び返しができなくても緊急通報ができるよう議論していく必要があるとの見解を示した。

 またローミングに関しては、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員 兼 CEOである宮川潤一氏が8月4日の決算説明会で、緊急通報だけでなくデータ通信のローミングも必要と話していたが、この点について島田氏は「(通信障害で発生した)ある会社の輻輳(ふくそう)した状態が他に波及すると、もっと重大な事故になってしまう」と話し、輻輳が他社に波及しないことを前提とした仕組みを考えていく必要があるとの認識を示した。

 一方ローミングの実現に向けたコスト負担に関して、島田氏は「最低限のローミングのあり方については事業者が負担すべきと思う」と回答。ただしまだ議論が始まっていないこともあり、実際のコストの規模感や改修にかかる時間などの具体的な検討はこれからとしている。

 またNTTは公共性が高い固定通信の企業も傘下に持つことから、通信障害時にWi-Fiスポットや公衆電話の活用をどう考えるかという質問も挙がっていた。島田氏はWi-Fiスポットの活用については「災害対策に向けて考えていた施策を通信障害に応用できるかも含め、各社と議論できればと思う」と前向きな姿勢を見せる。

 公衆電話に関しては、既存の公衆電話よりも災害時に利用できる災害時用公衆電話の方が将来的な数が多くなることが予想されるため、顧客の利便性を考慮するならば災害時用公衆電話の活用を考えていくべきとの認識を示した。

 さらに島田氏は、KDDIの通信障害を受けての契約数の増減についても言及。主に法人で、バックアップ用に契約中の会社とは違う会社の回線を契約するかどうかという議論が始まっていることから、業界全体で複数会社の回線を契約する需要が増えると見ており、顧客の話を聞きながらバックアップ回線をどう担保するかを考えていく必要があるとした。

 一方で、今回の通信障害でKDDIが“お詫び返金”として多くのユーザーに200円を支払った件について問われた島田氏は、「原則は約款で返金するもので、あとは障害の大きさや社会的責任を考えて判断すること」と話したが、KDDIの措置に関する具体的なコメントは控えた。

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