「これまでにも、セキュリティの高いデバイスを作ろうという試みはいくつもあった。そういうデバイスが開発されて形になるのは素晴らしいことだが、まだ広く採用されるには至っていない」。そう話すのは、デジタル世界におけるプライバシーなど市民の自由を擁護する団体、電子フロンティア財団(EFF)の事務次官および顧問弁護士を務めるKurt Opsahl氏だ。普通のユーザーであれば最新式のスマートフォンでおそらく十分だが、どんな形にしろAppleがスマートフォンに対するハッキングのハードルを上げてくれれば、デバイスの保護に効果的だと、Opsahl氏は語っている。
「確かに、ロックダウンモードは大きな一撃になるだろう」。トロント大学の政治学教授で、サイバーセキュリティを研究するCitizen Labの所長も務めるRon Deibert氏はこう述べた。
サイバーセキュリティに関するAppleのアプローチは、その大部分を2010年までさかのぼることができる。Appleの共同創設者だった故Steve Jobs氏が、「D: All Things Digital」(D8)カンファレンスでプライバシーに関する持論を展開したときのことだ。
「プライバシーとは、自分が何にサインアップしているのか、ユーザーが理解できることだ。平易な英語で、繰り返す。そのために、何度でも確認する。確認にうんざりして、確認をやめてくれと言われるまで。自分がやろうとしていることを、ユーザーに正確に理解してもらう」(Jobs氏)
これが、Facebookをはじめとするインターネット大手との分かれ目だった。そのFacebookの共同創設者Mark Zuckerberg氏も、当時オーディエンスとしてこの話を聞いている。Google、Facebook、Amazonはその収益の大部分をターゲティング広告から得ており、それはユーザープライバシーと相容れない場合が多い。なにしろ、ターゲットを絞り込めば絞り込むほど、広告の精度と効果が高くなり得るからだ。
一方、Appleの収益は、ほとんど広告に依存していない。2021年には、iPhone、iPad、Macが売り上げの70%以上を占めており、それだけで総計2590億ドルに上っている。
だからこそ、Appleはデフォルトで全ユーザーに向けて全面的にセキュリティ機能を提供しているのだ。Facebookアプリを初めてダウンロードし、スマートフォンで使い始めるときは、まず、アプリがマイクとカメラにアクセスすることを許可するかどうか確認される。
2021年、Appleはさらに一歩踏み出した。企業に、ウェブサイトとアプリを通したトラッキングをやめさせるかどうかユーザーに尋ねる機能で、Appleはこれを「App Tracking Transparency」と呼んでいる。複数のアンケート調査でも、ほぼ全てのユーザーがトラッキングを望んでいないことが判明した。Facebookの親会社Metaによると、これは同社の財務に間違いなくマイナスの影響を及ぼした動きであり、2022年の損失額は最大100億ドルに達するという。Metaの最高財務責任者(CFO)を務めるDavid Wehner氏は、「かなりの逆風であり、その中を進んでいかなければならない」、と2月に語った。
それでも、iPhoneに実質的に新しいモードを導入するというのは、全く新しい試みだ。ロックダウンモードを有効にするには、設定アプリでスイッチをオンにして、再起動を待つ。そうすると、Appleの言う「究極」のセキュリティ対策の、新しいコードとルールのセットが読み込まれる。
「Appleは最終的に、セキュリティとプライバシーに関する選択を可能な限り容易にしようとしている」と、Forresterのアナリストで、サイバーセキュリティとリスクを専門とするJeff Pollard氏が話している。このアプローチは、Appleにとってユーザビリティとセキュリティのバランスを探るチャンスとなる一方、ロックダウンモードを継続的に改善するという公約も果たすことになるという。「敵にとってのハードルを上げられるように、ユーザーが踏む手順は容易にしなければならない」
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