難しいとされてきた「現場」のDXが少しずつ広がろうとしている。その取り組みの1つが紙の削減だ。3月1日からホテル業務におけるペーパーレス化に取り組むルートインジャパン 運営管理部運営管理課課長の北村祥久氏と、現場改善プラットフォーム「カミナシ」でDX支援をするカミナシ 代表取締役CEOの諸岡裕人氏に、取り組みの背景と経緯について聞いた。
ルートインジャパンを中核とするルートイングループは、全国に約360のホテルや飲食店、ゴルフ施設などを展開するホテルグループ。それだけに紙の帳票類は多岐に渡り、その保管や管理が課題になっていたという。
「社長の永山(ルートインジャパン 代表取締役の永山泰樹氏)が、社内のやりとりにおける紙の多さに言及したのが発端になり、2021年夏頃から社内におけるペーパーレス化が具体的に動き出した。すでに社内マニュアルの電子化や『SmartHR』の導入など、労務管理の分野ではペーパーレス化が進んでおり、これを現場レベルにまで広げることが目的だった」(北村氏)とそのきっかけを振り返る。
飲食店や製造業など多くの導入事例を持つカミナシだが「ホテルへの導入事例も持っていたし、客室清掃は私の家業でも行っていたため、業務内容も想像がつく。しかしルートイングループに導入するとなると300店舗以上。それだけの大規模の導入は今までになく、私たちとしては大きなチャレンジだった」(諸岡氏)と言う。
現場におけるペーパーレス化の推進と、大規模導入という、それぞれの「初めて」を成功させるため、ルートインジャパンでは運営管理部の北村氏とペーパーレス化推進担当者、運営管理課、衛生調理課から1人ずつスタッフを募り4人のチームを結成。カミナシ側は専任の担当者と開発担当者を置き、6人のチームで始動する。
最初に決めたのは、どの部分をデジタル化するかということ。ホテルの紙資料と聞くと、宿帳や予約時に紙が発生するのではと思ってしまいがちだが「それ以上に紙ベースでの業務が多く残っているのは、管理業務」と北村氏は現状を話す。
ホテルにおける管理業務は、清掃やレストラン内における食品の衛生管理、従業員の体温チェックなど。「お客様には見えない部分だが、清掃スタッフに清掃する部屋の数などをお願いする指示書や清掃後に書き込んでもらうチェックシート、レストランにおいては、冷凍冷蔵庫の温度管理や水道の残留塩素濃度などの記録管理などに紙が使われている。時間単位で管理するものもあるので、とにかく数が多い。この部分をスケジュール管理しながら、ルーティン業務をまわしながらできるのがカミナシの利点だと考えた」と現場を支える紙帳票のペーパーレス化に着手する。
「現場における紙の帳票類は数多くがあるが、どの業務がカミナシにあっているのかを洗い出し、身近な社内文書を皮切りにやっていきたいと考えた。たくさんのことに手を付けるよりも、狙いを絞ってやれるかやれないかジャッジするため、地区の責任者が店舗巡回をしたときのチェックシートと、店舗責任者、食品衛生責任者が実施する衛生管理表の2つからスタートにした」(北村氏)と、スモールスタートを採用する。
カミナシ側では、ルートインと内容を詰めながら役割分担などを決定。「電子化する帳票類を絞り、その後ステップを追いながら進めていく形をとった。この時に重視しているのが、粒度と目線をあわせていくこと。ルートインの方は、士気が高く、今回の取り組みにおける有用性を深く理解されている印象を受けた。すでに労務管理やSmartHRなどによるペーパーレス化が浸透しているからだと感じた」(諸岡氏)と社員の意識の違いを感じ取る。
現場の様子はどうだったのだろうか。「新しいツールを導入すると『難しいのでは』や『本当に業務は改善されるのか』といった疑いの気持ちが生じてしまいがちだが、ルートインでは、すでに労務関連でペーパーレスを導入していたこともあって、これで業務はよくなるという期待感があったように感じる」(北村氏)と、今までの成功体験が大きくプラスに作用する。
諸岡氏も「デジタル化を成功させる企業体質がすでにできている。新しいことに対するリスクの許容度やチャレンジする気概、今よりよくするための創意工夫などが、社内広く伝わっていると思う。これは、永山社長自らが率先して、ペーパーレス化を推進する、業務をデジタル化していくという思いを表明している点も大きいはず」と企業姿勢をたたえる。
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