電機大手の2021年度第3四半期決算が出そろった。そのなかで、ソニー、パナソニック、シャープを中心に電機業界の動きを見てみよう。
際立ったのが、ソニーの好調ぶりだ。売上高、営業利益は第3四半期としては過去最高を記録。ソニーグループ 副社長兼CFOの十時裕樹氏は、「予測を立てて、早めに対応したことが過去最高の業績につながっている」とし、不透明なコロナ禍における舵取りに自信をみせた。
大きな成長をみせたのが映画分野だ。全米オープニング興行成績として歴代2位を記録し、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントとしては過去最大のヒットになった「Spider-Man: No Way Home」や、劇場閉鎖などの影響もあり、公開時期が延期されていた「Venom: Let There Be Carnage」もヒットを記録。2021年度通期の映画分野の営業利益は、過去最高を更新する見通しだという。
ここでも、絶妙な舵取りが行われている。1月に全米で公開予定だったMorbiusを4月に延期したが、これで6回目の延期。米国における新型コロナウイルスの感染再拡大と、Spider-Man: No Way Homeの歴史的ヒットを背景に、経営の観点から延期を決定したものと見られ、十時副社長兼CFOも、「今後も柔軟なリリース戦略を継続する」とコメントしている。映画作品ごとのターゲット層を分析しながら、最大の効果が発揮できるタイミングでの上映を目指しているというわけだ。
また、公開延期によって興行収入は一時的にはマイナスになるが、2021年の国内劇場興行収入歴代1位となった「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」から続く、上映作品の大ヒットが収益面をカバーしただけでなく、今後は、これらの作品を起点にしたテレビ向けライセンスやネット配信ライセンス、音楽分野やゲーム分野などと連携した収益も見込まれる。中長期的な利益創出に向けて、映画事業が動き始めたことは見逃せない要素だ。
一方で「プレイステーション5」の販売計画が、当初の年間1480万台が、1150万台に留まる点はマイナスとはいえるが、それでも、「歴代コンソールで最大の販売台数を狙える旺盛な需要がある」という現状や、プレイステーションユーザーの総ゲームプレイ時間が着実に増加していること、さらには、従来のプレイステーションが利益貢献するまでに長期間を要したのに対して、プレイステーション5では、それが大きく改善され、周辺機器を含めるとすでに収益に貢献。この第3四半期も「プレイステーション5のハードウェアの収益性の改善が見られた」というように、プレイステーションのビジネス構造の変化が業績に大きく貢献している。
パナソニックは、国内家電の需要減などが影響したほか、Blue Yonder買収時の資産および負債の再評価に伴う影響などの一時的なマイナス要因もあり、第3四半期決算は増収減益となった。
パナソニック 取締役専務執行役員兼グループCFOの梅田博和氏は、「国内においては、2021年10月に発売したドラム式洗濯機が当社の事情で市場導入に手間取ったこともあり勢いが弱く、さらに、前年の巣ごもり需要の反動を受けた調理機器などの販売減が大きく影響した」と語る。
一方で、インダストリー分野の情報通信向け事業や、エナジー分野の車載電池などの販売が増加。産業用モーターや情報通信インフラ、車載用コンデンサ、EV用リレーなどのほか、EV向け車載電池やデータセンター向け蓄電システムなどが成長したという。
BtoB事業は、細かく見るとまだら模様はあるものの、ビジネスが回復基調にあるのがわかる。また、家電事業についても中国では回復、空調でも欧州では堅調など、経済活動が戻りつつある海外での業績が牽引している。
ちなみに、今回の決算発表から、パナソニックは新たなセグメントで業績を発表している。2022年4月から持株会社制へと移行するのを前に、2021年10月から、それに準じた新たな体制へと再編しており、それにあわせたセグメント分類に変更した。このなかで特筆したいのが、テレビ事業が、家電などが含まれる「くらし事業」セグメントではなく、「その他」セグメントに含まれたことだ。「家電の王様」と言われるテレビが、パナソニックにおいて、もはや「その他」として取り扱われるのは隔世の感がある。
なお、第3四半期期間中には、三菱電機が液晶テレビ事業の見直しを発表。家電量販店向けなどの製品の出荷は2021年9月に終了。地域家電店である三菱電機ストア向けの自社ブランド品の出荷は、2024年3月まで継続するが、それ以降の方向性は今後検討するとしている。同社では、「市場環境やニーズの急激な変化に伴い、製品競争力の維持が困難な状況になったため、液晶テレビ事業を縮小する」とコメントしている。テレビ事業は厳しい時代を迎えているといえよう。
また、パナソニックは、今回の決算会見で、2021年9月に買収が完了したBlue Yonderの業績を初めて開示した。「Blue Yonderのリカーリング比率が想定を上回る形で推移しており、2021年度の着地点も、当初の見通しを少し上回る形を想定している」と、順調な滑り出しをみせていることが強調された。
シャープの第3四半期業績は、売上高はほぼ横ばいとなり、営業利益が前年同期を下回ったものの、経常利益は2.4倍、最終利益は1.6倍となった。
ブランド事業では、海外の販売が順調に伸長。デバイス事業では車載向けやPC、タブレット向けなどの中型パネルが伸長し、収益性が高まったことが特筆される。白物家電も10%を超える高い利益率を維持しているという。
だが、家電事業は、前年同期に、コロナ禍を背景にして室内の空気環境に対する関心が上昇し、国内においてプラズマクラスターイオン(PCI)を搭載した空気清浄機の販売が2倍に成長していたため、2022年3月期はその反動が見られ、第3四半期は減収になった。
実は、前年同期の空気清浄機の販売の多くが、家庭ではなく、店舗やオフィスなどへの導入であり、家庭への普及率はあがっていないという課題がある。空気清浄機の事業拡大に向けては、家庭への普及が、依然として大きなテーマとなっているのだ。
また、テレビに関しては、第3四半期は、欧州やアジアなどで伸長。とくに欧州ではテレビの高付加価値化が進展したという。2022年春に予定していた北米市場へのテレビ再参入については、2022年内へと延期したものの、「新製品の投入も考えており、大型サイズを想定している」(シャープ 代表取締役社長兼COOの野村勝明氏)と、海外テレビ事業の拡大に弾みをつける考えを強調した。
今回の決算発表を通じて、部品価格や原材料価格の高騰を背景にした価格転嫁の動きが表明化してきた点は見逃せないだろう。
日立製作所では、「部材価格の高騰により、家電事業におけるコストが増加している」とコメント。三菱電機でも、「家庭電器では素材価格の上昇などにより、減益になった」としており、価格高騰が家電事業の利益を圧迫していることを示す。
また、ソニーでは、「テレビのパネル価格が急激に下落したが、市場価格への影響は限定的であったこと、欧米や中国を中心に大画面化が進んだことで、テレビの平均販売価格は第2四半期と同等レベルを維持できた」とし、品不足を背景に、市場価格が高止まりしている状況を明らかにした。
パナソニックでは、部材価格高騰の影響を背景に、2022年4月以降、国内向け家電を値上げする考えを明らかにした。「原材料高騰に関しては、BtoB向け製品では、上期から価格の見直しを行い、第3四半期から第4四半期にはほぼ影響がなくなる。また、海外向け家電も段階的に価格の見直しを進め、一部では価格転嫁も行っている。日中合同による部材の合理化を進めているが、日本においても2022年4月以降、値上げをすることになる」と述べた。
シャープでは、「さまざまなコストダウンの取り組みを行い、吸収しており、現行モデルでは価格維持をがんばりたい」としたものの、「新製品の投入の際に、新たな価値を提供するなかで、市場の動向を見極めながら適切な価格を設定したい」と述べた。
今後、家電への価格転嫁の動きが顕在化することは避けられそうにないといえそうだ。
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