集英社は2月1日、KADOKAWA、講談社、小学館とともに、クラウドフレアに対し、海賊版コンテンツの公衆送信と複製の差し止めおよび、損害賠償を求める訴訟を、東京地方裁判所に提起したと発表した。賠償請求額は、各社1作品、合計4作品の被害総額となる約56億円の一部、4億6000万円になる。
クラウドフレアは、世界規模でサービスを提供するコンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)事業者。2021年12月にアクセス数の多い悪質海賊版サイト上位10サイトのうち9サイトにサービスを提供しているという。そのほかの多くの期間でも上位10サイトの半数以上を占めており、漫画の小売り額として推定した場合、2021年の1年間だけで1兆円を超えるとしている。
原告となった出版4社はこれまで、クラウドフレアに対し、著作権侵害が明らかな9つの海賊版サイトを具体的に示したうえで、対象サイトが違法に公開している侵害コンテンツについて、(1)クラウドフレアのサーバーを介した公衆送信の停止、(2)クラウドフレアが日本国内に有しているサーバーにおける一時的複製(キャッシュ)の停止、(3)違法であることが明らかな海賊版サイト運営者との契約解除、などを再三求めてきたという。
こうした要求に対し、クラウドフレアは対象サイトへの必要な措置を取ったと回答。しかし、どのサイトに対してどのような措置を取ったのかについての具体的な説明はなく、対象サイトは従前通りの通信速度を維持したまま活動を続けていると説明している。
こうした経緯と現状認識から、出版4社はクラウドフレアに対し、海賊版コンテンツの公衆送信と複製の差し止めおよび、損害賠償を求め、提訴に至ったという。
CDN事業者は、世界各所に大容量のサーバーを設置し、契約先サイトのコンテンツをそれらサーバーに一時的に複製(キャッシュ)している。それにより、ユーザーからのアクセス先を分散すると同時に、ユーザーの最寄りのサーバーからデータを配信することで、当該サイトの通信速度を確保するなどの役割を担っている。
結果、各国のCDN事業者が展開しているサービス自体は、快適なインターネット環境の保持に欠かせない公共的サービスのひとつと認識されている。大手CDN事業者は多くの場合、契約締結時にサイト運営者の身元確認を適切に行い、かつ当該サイトが違法、不当なコンテンツ配信を行うことのないようにさまざまな手段を講じている。
一方、クラウドフレアのCDNは、無料サービスの利用期間が限定されておらず、本人確認も不十分なまま契約が可能。そのため、サイト運営者は同社サービスの利用で、CDNサービスのメリットを最大限享受しつつ、オリジンサーバー提供者やそのIPアドレスを秘匿することができる。
こうした特性から、身元の特定を嫌う海賊版サイト運営者の多くが、クラウドフレアのCDNサービスを利用しているという。
4社は、クラウドフレアによるCDNサービスの提供が停止されれば、多くの悪質海賊版サイトの運営が不能または、極めて困難になると考えている。
加えて、海賊版対策への協力要請に対してクラウドフレアがこの数年間示してきた非協力的な姿勢が、通信インフラという公共的サービスを担う企業としてふさわしいものかどうかについても、社会に問いたいとしている。
なお、4社は2018年8月に、複数の悪質な海賊版サイトのクラウドフレアのサーバーからの送信の差し止めを求める仮処分の申し立てを行っている。東京地方裁判所における審尋の結果、4社が指摘した海賊版サイトで著作権侵害が行われていると裁判所が判断した場合、日本国内にあるクラウドフレアのサーバーへの当該サイトの複製を中止するという条件のもと、2019年6月時点で4社とクラウドフレアとの間で和解が成立していた。
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