工場の製造ラインというと、整然と部品や商品が流れてきて、効率よく組み立てが進められている、というイメージがある。徹底した省力化と効率化を進め、生産効率を追求していく。1日、1時間の生産台数がそのままコストや利益につながってくるのだ。
生産台数が多く、十分な利益が見込める製品であれば、十分な設備機器が導入できる。しかし、設備機器を導入するとなると、長期的な計画と数百万、数千万円の投資が必要となる。
大掛かりな設備投資をすることなく、生産現場の困りごとを解決する。それを実現しているのが「現場からくり改善活動」だ。
パナソニック エレクトリックワークス社の新潟工場は施設用の照明器具や野外用照明器具防災用照明器具などさまざまな製品を製造している。2020年度の国内器具売上構成比では約30%を占める基幹工場だ。
その新潟工場では、生産効率の向上と作業員の負荷軽減のために2017年より、「現場からくり改善活動」を取り入れている。そのきっかけは、これまで「からくり改善」を先導してきたライティング事業部ものづくり革新センターの徳吉潤成氏が、2014年に開催された「からくり改善くふう展 in Yokohama」(からくり改善くふう展)を見に行ったことがきっかけだ。
からくり改善くふう展は公益社団法人 日本プラントメンテナンス協会が主催している製造現場の改善アイデアを共有する展示会だ。トヨタ自動車やマツダなど自動車メーカーを始めとして、100社以上の製造業が参加しており、2013年からパナソニックのアプライアンス社も家電メーカーでは唯一参加。2021年には第26回を開催する歴史のある展示会となっている。そこで電気やエアーを使わず、代わりにバネやゼンマイなどを使って手軽に現場を改善する「からくり改善」に出会った徳吉氏は、新潟工場の製造現場でも活用できると考えた。
実際にからくり改善をスタートしたのは出向から復帰した2017年。非常用照明の製造ラインの作業担当者から聞いた困りごとが最初だ。
非常用照明の製造ラインでは、自動的に梱包された箱がベルトコンベアから次々に排出されるのだが、これがすぐにあふれてしまうという問題があった。製品の排出スピードはそれほど早くないが、箱が一定数たまると、パレットに入れて作業担当者が運び出す必要がある。この間も箱が排出されるため、作業担当者は急いでラインに戻らなければならなかった。
箱があふれて落下することを防止するために、ラインを止めたり、定期的にリーダーが補助する必要があったそうだ。ラインを止めると1日あたりの生産台数にも影響する。作業担当者の負担軽減と生産台数の確保。2つの課題の解決を依頼された。
そこで徳吉氏が考え抜いて生み出したのが製品蓄積装置「どんだけ~1コウ(号)」だ。ベルトコンベアから排出された箱はローラーを滑り、自重で低い方に流れてストックされて行く。これまでも完成品をプールするスペースはあったが、うまく滑らず引っかかったり、箱の向きが変わってしまったのを直すという手間が発生していた。
そこでなにかいいアイデアがないかと考えている中で見つけたのが、斜め20度の角度がついたキャスターを利用する方法だ。箱はこのキャスターの上を滑り、さらにキャスターが横に90度に稼働することで、箱の向きが歪むことなく、キレイに整列できる様になっている。さらに1列目がいっぱいになると新しい箱が並んでいる箱を押すことで2列になる仕組み。こうして最大16個ためられるようになったので、搬出に行ってもあふれることがなく、ラインを止める必要がなくなったのだ。
「どんだけ~1コウ(号)」に使われているのはバネと、キャスター、そしてローラーだけ。電源は一切使われていない。箱を動かしているのはベルトコンベアから排出されるときの勢いと、箱の自重だけだ。
同じ仕組みの装置を設備として作ると150万円以上かかり、さらに半年以上の期間を必要とするという。また安全性を確保するためにさまざまなコストと、メンテナンスの手間もかかる。ところが「どんだけ~1コウ(号)」は制作費用4万6000円。依頼から5日間で作り上げたのだ。しかも、生産性向上による費用換算は年間870万にも及ぶのだ。
こうして作り上げた「どんだけ~1コウ(号)」は2018年に社内のからくりコンテストで最優秀賞を受賞。さらに「からくり改善くふう展」でも協会特別賞を受賞している。
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