塩竈市の「副業型ワーケーション」を現地レポート--地元事業者にスキルで貢献、離島でデジタルデトックス

 宮城県塩竈市。仙台駅から電車で30分ほどで行けるこの土地は、「寿司の塩竈」と呼ばれるほどお寿司屋さんが多い、日本有数の港町だ。この塩竈で、10月に「副業型ワーケーション」のテストマーケティングが実施された。副業型ワーケーションとは、ワークとバケーションの合間に副業する働き方のこと。自分が持っているスキルで地域に貢献することで、地域の人と関係性ができ、お金も稼いで帰れる新しいワーケーションの形だ。

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 ここでは、10月21〜24日まで開催された副業型ワーケーションの模様をレポートをする。先に筆者の感想を述べると、自治体などが誘致するワーケーションの1つの成功事例だと感じた。なぜなら、参加者からすると初めて訪れた土地にも関わらず、今後も関わっていきたいと強く思う様子が窺え、かつ副業という形で今後も定期的に関われる可能性があるからだ。

 ワーケーションは行く側からすると観光の要素も大きいため、同じ場所に定期的に通うことは考えづらい。しかしながら、今回のワーケーションでは、訪れた人と地元の人が出会うこと、そこから仕事に発展することでリピートしたくなる確かなつながりが生まれていた。

塩竈市の「副業型ワーケーション」とは?

 まずは塩竈市の副業型ワーケーションの概要について説明しよう。このプログラムは、宮城県のワーケーション推進プログラム「宮城県ワーケーションプログラム造成推進補助金」を活用したもの。

 ワーケーション参加者は、塩竈滞在中に地元の事業者とディスカッションし、アイデアやアドバイスをする対価として3万円分の給料がもらえる。この給料が参加者の副業となる。また、事業者、参加者ともに長期的な付き合いを望んだ場合、事業者が参加者を雇う形でさらなる副業が成り立つ仕組みだ。なお、今回の交通費や宿泊費、食費も全て補助金から捻出されている。

 企画をしたのは、塩竈市議会議員の阿部眞喜氏と、有限会社宮本商店の宮本龍次氏(両氏へのインタビューはこちら)。この2人を中心に、塩竈市の観光交流課や、塩釜商工会議所の協力を得て地元の事業者を募集し、ワーケーション先を紹介するサイト「Workations」が特設サイトを公開した。

副業型ワーケーションの特設サイト
副業型ワーケーションの特設サイト

 参加者側の人材募集は、ハイクラスの副業人材を紹介する「シャルソンコンサルティング」が担当。シャルソンコンサルティングに登録している、高学歴で大企業のリーダークラスのポジションについている20〜30代の100名強に声をかけた。

 そして集まったのは、大手コンサルティングファーム、大手広告代理店、ベンチャーキャピタルで働く3名。副業型ワーケーションには、バケーションの時間も用意されている。特徴は観光ではなく休暇なこと。参加者たちは、塩竈市内からフェリーで行ける浦戸諸島で大自然を満喫した。

東京でも揃うのが難しい3社の社員が同時にアドバイス

 筆者が塩竈市に着いたのはプログラム2日目の10月22日の正午。ワーケーションプロジェクトチームに案内されたのは、本塩釜駅から徒歩5分もかからない場所にある「しおがまパノラマ」。シェアオフィスも兼ねた飲食店だ。

しおがまパノラマの方々
しおがまパノラマの方々

 到着すると、ワーケーション参加者と地元の事業者や、塩竈市の観光課の職員がディスカッションをしていた。ディスカッションはこの前日も行なわれており、塩竈の複数の事業者が参加 。大手コンサルティングファーム、大手広告代理店、ベンチャーキャピタルという、都内でもなかなか同時に揃うことが難しい3社の社員が、それぞれの視点から地元の事業者へ同時にアドバイスした。

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ワーケーション参加者によるディスカッション

 たとえば、70年の歴史を持つ「さとう精肉店」では、自社で取り組めることの限度を感じており、事業をさらに大きくしたいという相談を受けた。それに対して、最近の飲食業界の動向や、サブスクリプション型のECの提案、企業の福利厚生としての導入、数年後を見据えてどういう優先度で取り組むべきかなど、それぞれの観点からアイデアやアドバイスを行なった。

さとう精肉店
さとう精肉店

 海藻(わかめ、昆布、アカモク)の養殖生産や、生産した海藻を使用したオリジナルの海藻製品を製造販売している「シーフーズあかま」の場合は、SDGsへの取り組みが話題に上がった。わかめなどの海藻は、窒素やリンを食べ、光合成をすることで二酸化炭素を吸収し、酸素を放出する。この特性を利用して横浜市がわかめ養殖に取り組んでいることなどを例に挙げ、企業のSDGsやCSR活動の投資対象としてわかめ養殖を提案するなどのアイデアが出た。

 このディスカッションを行なったことで参加者の意識は変わったという。「地方ってこういう課題を抱えているんだという発見や、自分がこの土地を変えていけるかもしれない、という期待感も持てた。塩竈を良くしようと思って熱量持って頑張っている人たちと話をしてみて、旅行をしながら地域貢献できる仕組みは可能性があると思った」

 地元の事業者側にも話を聞いたところ、「これまで専門家に意見を求めたことがなかったのでとても参考になった。まずは自社の基盤をつくり、会社の数字を見つめ直して今回の出会いを次につなげられたら嬉しい。タイミングや条件次第だが、チャンスがあれば副業として1年間くらいの長期間でお願いしたい」(さとう精肉店)、「出てきたアイデアを何か1つでも形にできたら。皆さんアイデアがすごくポジティブで、今までにないアイデアも多くて楽しい時間だった。日本の未来は明るいなと思った」(シーフーズあかま)などの声が聞かれた。

シーフーズあかまの赤間俊介さん
シーフーズあかまの赤間俊介氏

 これは筆者の感想となるが、2日間のあいだに地元の事業者や、市役所の職員、塩竈市の市議会議員など、さまざまな人と膝を突き合わせて話をしたことで、初めての塩竈にも関わらず当事者意識が芽生えているように思えた。

 ちなみに、ここまでの2日間の工程にはバケーションの要素はない。このワーケーションは、木・金・土・日の4日間で開催され、ワークとバケーションが完全に切り離されていた。ここからバケーションをするために浦戸諸島に移動するのだが、島という孤立した環境がさらに塩竈への意識を高め団結力を生む結果となる。

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