楽天グループは11月11日、2021年12月期第3四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比15.4%増の1兆2006億円、営業損益は1084億円と、引き続きの赤字決算となった。赤字の主な要因はこれまで同様、楽天モバイルを主体としたモバイル事業への先行投資によるところが大きい。
そのモバイルセグメントの四半期業績は、売上高が前年同期比21.1%増の549億円、営業損失が前年同期比438億円減の1052億円となっている。MVNOサービスの利用者が「Rakuten UN-LIMIT VI」へ移行し、無料キャンペーンが適用された影響を、無料キャンペーンが終了したユーザーからの売上増で補い売上は伸びているものの、ネットワークの拡大に向けた先行投資で引き続き損失も増えているようだ。
一方で楽天モバイルは、半導体不足の影響で当初予定よりは遅れているものの、10月14日時点で人口カバー率94.3%とエリア拡大。それにともなって39の都道府県の一部地域でKDDIとのローミングの終了を打ち出している。人口カバー率96%達成を見込む来春にはより多くのエリアでのローミング終了を見込んでいるという。
ローミングに関してはKDDI側の意向もあることから、楽天モバイル側だけでコントロールできない部分もあるというが、それでもローミングに係る支出が大幅に減ることで、2022年度の第1四半期が業績の“底”になると見ているとのこと。楽天モバイルの代表取締役社長である山田善久氏は、同日に実施された決算説明会で、2022年度の第3四半期以降は業績の大幅な改善が見込めると話す。
またローミングの終了にともなって楽天モバイル回線に順次切り替わることにより、ローミングエリアにおける通信量上限5GBの制約をユーザーが受けなくなることから、今後データ通信の使用量が増えARPUの向上が見込めるとしている。楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は「自社ネットワークの方が体験価値が高く、データ使用量も倍くらい違う」と話し、ローミング終了後の売上の伸びに期待を示す。
ただ、楽天モバイルは単体での売上だけでなく、「楽天市場」「楽天カード」などグループのエコシステムによるシナジーでの売上増も見込んでいる部分も大きい。そうしたことから三木谷氏は、獲得した顧客が確実な利益につながるよう、データを活用したプロモーションのパーソナライズ化に力を入れていく方針も示している。
また、楽天モバイルは従来、契約数ではなく累計申込数を指標として公表していたが、今回の決算では正式に契約数を明らかにしている。2021年9月時点で、すでに新規受付を終了しているMVNOのサービスと合わせた契約数は510万。そのうち携帯電話事業者としての契約数は411万となっている。
三木谷氏は「去年の同時期に比べて倍くらい申し込みがある」と話し、現在も契約数は順調に伸びているとした。番号ポータビリティによる転入も順調に増え、大手3社から満遍なく獲得できているとのことで、KDDIが提供を開始した、0円から利用できる料金プラン「povo 2.0」の影響は「多少数字に反映されているなと感じている」(山田氏)ものの、大枠では「影響はないかなと思っている」(三木谷氏)とのことだ。
足元での獲得が好調なことから、三木谷氏はローミングの終了で費用面での負担が減少した後も、さらなる顧客獲得に向けた大規模キャンペーンなどを展開する計画は「ない」と回答。エリア拡大による体験価値向上の訴求によって、獲得を現在の2倍規模から、3倍規模にまで獲得数を伸ばしていきたいとしている。
そしてもう1つ、モバイル事業の柱と位置付ける完全仮想化ネットワークの外販に関しては、9月30日にその事業を担う「楽天シンフォニー」の法人化を検討開始することを明らかにしている。楽天シンフォニーはすでにドイツの進行携帯電話事業者である1&1からの受注を獲得しているが、それに続く2、3号の案件について、三木谷氏は海外の大手携帯電話事業者と試験的な取り組みを進めているとのこと。
ただ一方で、1&1と同様の包括的なネットワーク構築には人的なリソースも必要になる。そのため三木谷氏は「そこまで大きなリソースがないので、プライオリティを付けて取り組む」とも話している。
その上で三木谷氏は、楽天モバイルの契約者・ARPU向上と、楽天シンフォニーの事業拡大を勘案すれば「2023年の単月黒字は十分可能と思っている」と回答。参入当初から打ち出している黒字化の計画に変更はないとしている。
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