川越氏が食品ロス問題に着目したきっかけは、大学卒業後に就職した大手飲食チェーンやコミュニティカフェなどに勤める中で、大量の食品ロスが発生したことだった。
「地域の農家が売り物にならない野菜などをたくさん抱えている現実を目の当たりにしたことで、フードロスに関する啓蒙・啓発活動を、ボランタリーベースでスタートしました。しかし啓蒙・啓発だけでは変わっていくスピードが速くならないので、仕組みとして削減に向かえるエコシステムを作れないかと考えたのです。2015年ぐらいからヨーロッパでは『フードシェア』の動きが出ていたため、ヨーロッパの事例を参考にしながらTABETEを立ち上げました」(川越氏)
個人店を中心に打診しながら、川越氏の理念に賛同してもらえる店舗を少しずつ集めていった。多くの店舗オーナーは食品ロス問題を認識しているものの、売り切れなどによる機会損失を防ぐための「必要悪」であり、解決しなければならない問題という認識を持つオーナーは決して多くはなかったという。
「『SDGs(持続可能な開発目標)』の推進や浸透によって、ここ1年ぐらいで意識がかなり変わってきたと感じます。2018年4月から2020年半ばぐらいまではなかなか事業が伸びていかないジレンマがありましたが、メディアへの露出は継続してあったこともあり、ユーザーにはたくさん集まっていただきました。12月現在でユーザー数は約48万人まで増えましたが、加盟店は約2000店舗ぐらいで、常に興味関心の高いユーザーが先に集まり、店舗数が後からついてくる状態になっています」(川越氏)
消費者の関心が高まった一因として、川越氏は2016年にSNSで話題になった「恵方巻き」の大量廃棄問題を挙げた。
「毎年同じような内容で取り上げられ続けたことで社会的に課題が認知されてきたことがあります。また、2019年に食品ロス削減推進法(食品ロスの削減の推進に関する法律)が施行されたことで、自治体などの動きがより活発化してきました。こうして世の中の気運醸成が進んだだけでなく、それを解決するためのプレーヤーも僕たちが活動を始めた頃よりかなり増えてきました。こうしたことでより注目を集めているのだと思います」(川越氏)
TABETE加盟店の対象は飲食店や食品販売事業者(個人事業主も含む)だが、現在は持ち帰り前提の中食事業者、パン屋さんやお弁当屋さん、惣菜屋、ケーキ屋などが中心になっているという。
「持ち帰り前提のため、棚に商品をたくさん陳列しておかないと商売になりません。閉店間際まで商品を出し続けるので、売上高に対するロス率が3〜10%というケースがほとんどです」(川越氏)
2020年4月に緊急事態宣言が発出された頃には大きく加盟店が伸びた時期もあったが、現在は大手の中食系事業者に力を入れて獲得しており、毎月30〜50店舗ずつぐらい増えている状況だと説明する。
「ユーザーは毎月平均するとだいたい6000〜7000人程度増えていますね。毎月店舗が増えれば増えるほどレスキュー食材も増えていくので、こちらも店舗数の推移に沿って伸びています。現状で、月間レスキュー数が約20000食くらいです」(川越氏)
2019年にはさいたま市の食品ロス削減に向けた取り組み「フードシェア・マイレージ」に参画して同市内でのサービス展開をスタートするなど、自治体との連携や実証実験なども開始した。
「実験的にやり始めたのですが、成功事例が出てくる中で引き合いをたくさんいただくようになりました。自治体側が地域の食品事業者などを巻き込んだり、自治体側である程度の予算を計上して地域の業者などに加盟店やユーザー開拓などを委託するなど、金沢や神戸、福岡などうまくいき始めている地域はいくつかあります」(川越氏)
TABETEのユーザーは、約75%が女性で、30代〜40代がボリュームゾーンだ。TABETEを使う理由について約1300人のユーザーにアンケートをとったところ、約51%が『食品ロス削減に貢献したい』、4割ぐらいの方が『お得目的』と回答したという。
TABETEはユーザーも販売店も月額費用は無料。食品をレスキューした場合にのみユーザー側、店舗側ともに料金が発生する仕組みだ。
販売価格は100円から2080円までで、100円から350円までは80円、350円から680円までは150円と、販売金額ごとに決まった手数料がかかる。
“お得”を売りにしたサービスの場合、店舗だけでなくユーザー側にも月額料金が発生しがちだが、完全成果報酬型にした狙いについて次のように語る。
「TABETEは食品が余ったとき、困ったときに出品していただければ、誰かがレスキューしてくれるという世界観なので、丸々1カ月使わない可能性もあります。それに月額いくらというモデルはあまりそぐわないだろうと思っているんです」(川越氏)
また、ユーザー側も『何か出てくればラッキー』ぐらいの気持ちで使っているケースが多いという。
「贈答品をメルカリでは買わないのと同じで、新しい流通、新しいマーケットを開拓してるというのがあるのかなと思います。通常はお店で定価で買っていただきつつ、そこからあぶれてしまったものも、『情報さえあれば自分は買うよ』という人とつなぐのが『セカンダリーマーケット』の考え方だと思っています」(川越氏)
コークッキングはTABETEに加えて、2020年4月に規格外品の農産物や余剰食品や食材をTABETEユーザー向けに販売する直送サービス「TABETEレスキュー掲示板」の試験運用を開始し、10月より本格運用を開始した。
TABETEレスキュー掲示板は、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた2020年4月に一次産業や二次産業の方から「TABETEで何とかならないか」という声があり、ユーザー向けに情報発信をし始めたのだという。
「必要に迫られて作ったプラットフォームなので、自社サービスではなくECネットショップを作れる『BASE(ベース)』使って作りました。配送が前提のものは掲示板に載せ、お店に取りに行くものはTABETEに出すというように切り分けています。最初の緊急事態宣言の際には自宅での消費が増えたことから、掲示板もかなり使っていただきました。最近は少し落ち着いてきている状況です」(川越氏)
さらに2021年3月には、JA直売所で余ってしまった農産物を東武東上線池袋駅で販売する「TABETEレスキュー直売所」の実証実験をスタート。
直売所はコークッキングと東松山市、東武鉄道、JA埼玉中央、東松山生産者直売組合と連携して進めているが、「もともとは埼玉東松山市がLP出資(ベンチャーキャピタル経由での出資)をしているファンドから投資していただいる関係で、東松山市から話をいただいた」(川越氏)。
JA直売所では農家が生産した食品を陳列して消費者に直接販売するが、売れ残った食品は農家が自分で取りに行かなければならない。
「そうすると農家の方も売れる分しか持ってこなくなり、出し渋りも起きています。そういったことを防ぐだけでなく、農家の方の所得向上のためにも、余ってしまったものを電車に載せて池袋で売れないかという発想が生まれました。そこで東武鉄道に貨客混載の実証実験を持ちかけたら了承をいただき、直売所を運営されているJA埼玉中央も含めて提携することになりました。さらに、そういう実態を見ながら、どのように販売するのかなどのビジネス的な部分も含めて、インターン生を大東文化大学から募集する形となり、5者連携に発展しました」(川越氏)
農産物直売所で余った商品を東京で販売するのは鉄道会社との連携が必要なこともあってハードルが高いものの、他の鉄道会社でも貨客混載はやっているので、何かできることはないかという話はあるという。
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