この連載「元Googleの人事が解説--どんな企業でも実践できる『新卒採用』の極意」では、グーグルで新卒採用を担当していた筆者が、各企業がそれぞれの採用プロセスにおいて、どのように自社にあった「才能」を獲得・育成していけばいいのかを具体案を交えてご紹介していきます。
前回は、新卒採用のなかでも特に「面接」というシチュエーションに着目し、現状の課題やあるべき姿について考察しました。面接を通して確認すべき最重要事項は、候補者の「パーパス=人生の価値観」と会社のそれが通じ合う感覚です。そのためにリクルーターや面接官には、就活ノウハウに従って「それらしく」まとまったエピソードに満足せず、その人が本当に情熱を持って語れる「パーパス」をとことん引き出すこと、その上で企業のパーパスと重ね合わせることが求められます。
では、そもそもなぜ企業にとって「パーパスを通じ合わせること」が大切なのでしょう。パーパスを中心にした採用で企業がどのように変わるのか、私の実際の体験をご紹介しながら考察したいと思います。
最近日本でも注目されつつある「パーパス」という言葉ですが、その意味を正確に理解している方はまだ少ないかもしれないので、最初に簡単に説明しておきたいと思います。
まず、企業にとっての「パーパス」とは、その企業の「存在意義」を指します。つまり、その企業が社会において存在し、事業を営む本質的な理由を意味しています。いわゆる「ミッション」と一部重なる場合もありますが、より明確に「社会的な存在意義」に根ざしている点が異なります。その会社が存在することが、社会にどのような貢献をもたらすのかを明確にしたものが「パーパス」であるとご理解ください。
2017年、Facebookの創設者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、ハーバード大学での卒業式の祝辞で「パーパスは、自分よりも大きいものの一部であるという感覚。必要とされている、取り組むべきより良いものに携わっているという感覚。パーパスこそが、真の幸福をつくる」と語りました。
その背景には、「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代の存在があります。これは概ね1990年代中盤から2000年代終盤に生まれた、まさにこれから社会の中核を担う若い世代を指します。この世代は完全なデジタルネイティブでソーシャルメディアに囲まれて育ち、物事の社会的なレピュテーション(評判)に敏感な世代であると言われています。
実際にその世代を調査したところ、68%が「企業/ブランドの社会貢献性が高いこと」を期待しており、61%は「倫理的かつ環境に配慮した方法で作られた商品により多くのお金を使いたい」と答えています。パーパスは、まさに「企業の社会貢献性」を言い表したものですから、彼らは「パーパスが明確な企業/ブランドへの好感度が高い世代」と分析されているのです。
こういった若い世代の志向性に加え、投資家による企業の評価基準にも変化が起きています。たとえば、世界最大規模の資産運用会社であるBlackRockのCEOラリー・フィンク氏は、2018年のLetter to CEOsにおいてパーパスの重要性を説き、2019年の同レターでは「企業理念(=パーパス)は単に利益を追求することではなく、それを達成するための活力であるということができるでしょう。利益の追求と企業理念は矛盾するものではなく、むしろ分かつことができないほどに密接に関連しています」と語りました。
従来、投資家にとっては収益性こそが企業を評価する上での重要指標でしたが、社会全体がより「持続可能な世界」を目指すなかで、「社会課題の解決に貢献できる企業かどうか」が新たな重要指標となることを明示したわけです。
この若い世代の台頭やビジネスにおけるプライオリティの変化を踏まえ、パーパス主導の経営はもはや世界的な潮流となっています。企業が自身の「存在意義」を提示することは社会からの要請と言えるでしょう。
本題に戻ります。では採用活動において、「企業と個人のパーパスが通じ合った状態」とはどういう状態なのでしょう。私は、個人が「なぜ自分がその会社に所属しているのか」について、自身の人生のパーパスをもとに説明できる状態を指していると考えます。言い換えれば、組織に対するエンゲージメントが高い状態です。
第3回でご紹介した学生を例にとると、最終的に自身のパーパスと会社のパーパスが重なり合う形で「F1のように人々を感動させるエンタメコンテンツを、オンライン広告事業を通してもっと多くの人に届けたい」と明確に言語化できるようになりました。本人の持つ「良質な情報をより多くの人に届けたい」という想いと、グーグルの掲げる「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」という想いが通じ合ったのです。
このように、個人が自発的に情熱を持てる領域と、組織への所属理由が納得感を持って結びついていると、幸福度が高まり、積極的に生産的に仕事に取り組めるようになります。ある調査では幸福度の高い社員は、そうでない社員と比較して31%生産性が高く、創造性は3倍高いと分析されています(出典:丹羽真理著「パーパス・マネジメント」)
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