社会問題化している「食品ロス」の削減のほか、食材や料理などをおいしく保存できることから、「急速冷凍機」の注目が高まっている。
肉や魚、野菜、果物などの生産者が食材を新鮮なまま保存する用途だけでなく、最近では新型コロナウイルス禍を背景に、飲食店での導入も進んでいるという。
では、急速冷凍機には通常の業務用冷凍庫と比べてどのようなメリットがあるのか。飲食店などではどのように活用されているのか。コロナ禍でのニーズの変化なども含めて、特殊冷凍機専門商社であるデイブレイク 執行役員の春日大輝氏に話を聞いた。
コロナ禍で急速冷凍機に対する注目が高まっていることも確かだが、世界全体の大きなメガトレンドとして、「SDGs(持続可能な開発目標)」や「ESG投資(環境・社会・ガバナンスの3つの観点を含めた投資活動)」が重要視されているという。
「経済活動をしっかりしていても、社会的に貢献する企業でないと長期的に成長できないというメガトレンドがあり、食品ロスを削減できるものとして冷凍技術が注目されているのです」(春日氏)。
デイブレイクは、特殊冷凍に特化した国内唯一の専門商社として2013年に創業した。創業から9年目を迎える現在は特殊冷凍ソリューション事業と食品ロス削減事業の2つが軸になっている。特殊冷凍ソリューション事業は特殊冷凍機(急速冷凍機)の販売に加えて、コンサルティング業務も行う。
「消費者の手前に農家などの生産者や食品製造者、卸、外食産業がいますが、それぞれの皆さんが自分の得意な食材を冷凍し、自分たちの仕込みの生産性を上げたいというニーズ、そして店外販路を拡大していきたいというニーズがあります。そういうお客様に対して、急速冷凍機を販売するというのが1つ。しかし、そのままでは9割のお客様が最大限に急速冷凍機を活用することはできません。われわれは凍結の仕方はもちろんのこと、凍結に合わせた前処理の仕方、保管の仕方、解凍の仕方などを研究しており、高品質な冷凍食品を作れる人を増やすためのコンサルティングも行っています」(春日氏)
食品ロス削減事業は、急速冷凍機を導入して鮮度の高い冷凍食材を製造できる事業者をパートナーにし、食材を製造業者や飲食店、一般消費者などに販売できるプラットフォームづくりとその運営だ。
コロナ禍から飲食店からの問い合わせが増え、月500社ほどあるという。水産業や畜産業、農家などの生産現場においては食材の鮮度保持や食品ロス削減が急速冷凍の大きな目的だが、飲食店の場合は事業領域の拡大や労働環境の改善など、その目的は多岐にわたる。
「外食産業では、通常は従業員が朝に来て食材を仕込み、その日に提供する形です。しかし、人手不足や長時間労働問題などもあり、職人がかなり高齢化していることから、経営者は従業員の労働時間を平準化したい。加工済みの食材を仕入れて、出すだけにしたいというニーズはすごく多いのです」(春日氏)
加工済みの冷凍食材を使えば仕込みの時間を短縮できるが、それを自らのやり方と味付けをし、仕込んだ食材を適切に急速冷凍することで、自社で行えるというのが急速冷凍機の強みだ。
「急速冷凍機が、飲食業から製造業への一つの扉になる」と、春日氏は語る。
月曜日から木曜日の昼過ぎにかけて、従業員を持て余す飲食店は少なくないという。しかし、土日やお盆、年末といった繁忙期のために人を抱えていなければならない。急速冷凍機があれば、そうした余裕のある時間帯に仕込み、冷凍することで従業員が幸せに働ける環境にできるというわけだ。
「あるお客様では、急速冷凍機の導入前は12人で約6時間かけて仕込んでいたものが、導入後は2人で約2時間で済むようになったと聞いています。毎月の労働時間がそれだけ減るわけです。現在は従業員を募集してもなかなか人が入らず、少ない従業員が疲弊しながら仕事をし、疲れて辞めてしまうという悪循環があります。そうした中で、従業員が余裕のある時間帯に仕込みを行うことで計画生産ができるので、朝はゆっくり店に出られる――といったことが実現できます」(春日氏)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果