「就職はご縁」という言葉が隠ぺいするもの--面接で「通じ合う」ことが難しい3つの理由

草深生馬(RECCOO CHRO)2021年09月09日 09時00分

 この連載「元Googleの人事が解説--どんな企業でも実践できる『新卒採用』の極意」では、グーグルで新卒採用を担当していた筆者が、各企業がそれぞれの採用プロセスにおいて、どのように自社にあった「才能」を獲得・育成していけばいいのかを具体案を交えてご紹介していきます。

 前回は、現在の新卒就活のそもそもの成り立ちや、「仕組み化」が進んだことによる弊害などをご紹介させていただきました。今回は「面接」というシチュエーションに着目し、現状の分析と特に強く感じる課題について考察しました。

面接で「通じ合った気分」になっていませんか?

 「就職は“ご縁”だよ」というセリフ、採用に関わったことのある方なら誰でも一度は聞いたり使ったことがあるのではないでしょうか。就活中に助けられた「運」の要素をうまくまとめて表現するときに使われています。決して運だけで採用が決まるとは思いませんし、人事と学生双方の努力が実ってこその結果です。それでも就活の何もかもを想定通りに終えられる学生なんて本当に一握りでしょう。そう言った心情を踏まえれば、運に感謝する意味も込めて、多くの人が「就職は“ご縁”」と表現するのも不思議ではありません。

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 ただ、このフレーズは2通りの正反対の意味合いで使われているように感じます。1つは、「なぜかわからないけど合格した」という受け身の意味合い。もう1つは「強烈な出会いを果たして強く惹きつけられた」という積極的な意味合いです。そして、今の日本では、前者の表現を使う学生が多いと実感しています。

 理由は明白で、後者の表現に至るには、それこそ強烈な「通じ合う」体験が必要だからです。自分自身が理解され、評価され、受け入れられたという体験あってこそ、強く惹きつけられるものですが、連載の第1回から繰り返しお伝えしているとおり、わが国の新卒採用の仕組みでは個性に注目して、引き出すような採用は難しいでしょう。

面接で「パーパス」が発見できた時、「通じ合えた」と感じる

 私はこれまでグーグルの新卒採用担当として、数多くの多様な学生の応募に向き合い、面接に携わってきました。その中でもっとも大切にしてきたことは、「その人にしかない個性」を見つけようとする姿勢と、その上で「その人のパーパス=人生の価値観」と会社を通じ合わせることです。

 1つのエピソードをご紹介します。グーグルで採用担当をしていた時に出会った学生の話です(守秘義務のため一部内容を変えてお伝えします)。

 書類選考の際、何か光る個性を感じて合格にした学生がいたのですが、1次面接の結果を見ると、合格ではあるものの面接官からは「可もなく不可もなく、合格ラインギリギリ」とのコメント。何かとてももったいないことが起きていると感じて、次の面接前に1on1での面談をセットしました。そこで改めてグーグルに応募したきっかけや、自分らしさを表すエピソードなどを尋ねると、インターンに励んだ経験、サークルでのキャプテンとしての活躍、ビジネス書を読んで勉強に励んだ話などが、実にスラスラと出てきます。

 ただ、正直なところ、最初に応募書類から感じたような強い個性が感じられませんでした。僕の質問が悪いと感じ、唐突に「時間を忘れて没頭してしまうくらい大好きなことは」と尋ねると、少し驚いた様子で、1分ほど考えてからゆっくりと「実はF1レースが幼少期から好きだ」と答えてくれました。これは1次面接ではまったく触れられていないエピソードでした。

 やっと「個性」が出てきたと感じ、F1レースのどういう部分が好きなのか、何がきっかけで好きになったのか、F1を知らない人にその魅力を伝えるとしたらどうするかなどを尋ねると、興奮した様子でいろいろなエピソードを紹介してくれたのです。

 でも、学生としては、グーグルの事業と自分が好きなF1はどうにもつながらず、面接で紹介しても意味がないと考えていたとのこと。「じゃあ、一緒につなげ方を考えよう」と提案し、深掘りを始めたところ、F1が好きな理由は「人々を感動させるエンタメだから」ということが見えてきました。

 たとえば、グーグルのオンライン広告事業にはエンタメ業界のクライアントもいます。F1に限らず、エンタメ業界からさらに素敵なコンテンツが発信されるように、オンライン広告の観点から支援することができれば、「君の想いにも重なるのではないか」と話したら、目を輝かせながら大きく頷いてくれました。そして次の面接では、F1やエンタメへの情熱をもとにデジタルマーケティングへの関心を語ったところ、高い評価を得て、見事合格となったのです。

「それらしいエピソード」を聞いて満足してしまう面接官の罪

 結局のところ、この学生は選考を通じてデジタルマーケティングに対する関心を伝えていただけなのですが、評価は途中から大きく変わりました。いわゆる「就活ノウハウ」に沿って、それらしくまとめたエピソードではなく、本人が「自分のパーパス」として情熱を持って語れるテーマを見つけ、自信を持って自己表現できたことが大きな理由だと思います。さらに言えば、その学生を担当した面接官についても、学生の個性をしっかりと受け止め、それを高く評価してくれたことを、同僚としてとても誇らしく思いました。

 このように、「就活ノウハウ」で凝り固まった思考をほぐし、その人にしかない個性をとことん探すことこそが、リクルーターや面接官の役割だと考えています。この点に真剣になれない人間が、たった1時間やそこらの面接時間で、いったい何を見極められるのでしょう。表面的に整ったエピソードを聞いて満足げに頷きながら、「通じ合った気分」を味わっているだけで終わってしまっている面接が世の中に溢れていると危惧しています。

面接は「専門スキル」を要する極めて高度な仕事

 しかし、本当に「パーパスで通じ合う」面接の実施は難しいのが現状です。そこには3つの要因があると考えます。

 1つ目の要因として、そもそも「面接」には非常に難しい技術が求められます。公式な資格を用意して「専門職」としてもよいのではないかとさえ思えるほど、人を見極めることは難しく、非常に責任ある仕事です。

 評価項目ごとに適切な質問をし、学生の人物像を掴みながら効果的に本音を引き出し、表情など非言語情報も読み取りながら、発言は漏らさずメモに残す……これほど複雑なことを制限時間以内に同時に行う必要があります。その中で目の前の学生の可能性に期待を寄せ続け、個性を引き出し、そこに自社のパーパスを共有することで「魅力付け」までやり遂げるのは、至難の技です。

 その難度ゆえに、私は誰にも面接官が務まるとは考えていません。面接に必要な技能は専門スキルとして磨き上げられるべきものだと思います。さらに言えば、実際、学生も相当的確に面接官の素質を見抜いているものです。

元凶は「応募学生数」をKPIとして追いかける風潮

 「パーパス採用」の実施が難しい2つ目の要因として、「多忙すぎる採用現場」が挙げられます。年々、その多忙さに拍車がかかる採用現場の過密スケジュールについては第2回で紹介した通りですが、いざ面接がスタートすると、半月ほどの本当に短い期間で数千もの学生に対応している企業もあるほどです。

 これだけの数をこなすとなると、面接官や人事にも全く余裕がありません。学生1人ひとりに割ける時間など微々たるものになり、それこそ仕組みを回すことで精一杯な状況です。これでは、1人ひとりとじっくり向き合う面接などできません。この背景には、企業が自社のブランド力を測る目的で、学生応募数をKPIとして必要数以上に追いかける風潮があります。

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 もちろん、採用目標人数を充足するために、ある程度多くの応募数を集めることは必要ですが、集めれば集めるほど、採用現場が疲弊することを忘れてはいけません。そして、その疲弊している現場こそが、学生から見れば直接会える企業側の人たちなのです。どことなく疲れた顔で面接室に入ってくる大人に、自分のパッションをぶつけたいとは学生も思わないでしょう。

「うちの部署には欲しくない」で判断しがちな役職者

 3つ目に、役割を履き違えた面接官の存在があります。特にある程度経験を積んだ役職者に多い印象ですが、「自分は(この学生を担当部署に)欲しくない」という意見だけで学生をジャッジしてしまうケースです。

 たとえば、これがジョブ型採用で、自分のチームへの配属が前提となっている候補者に対する面接であれば理にかなっていると言えなくもありません。しかし、メンバーシップ型といわれる日本企業の総合職採用では、配属先などは入社してから決まることがほとんどです。どこに配属されるかわからないからこそ、採用時点では面接官全員が「会社全体」の視点から採用可否を決定すべきです。

 ゆえに、面接官自身が会社の(そして自分自身の)パーパスを語れることが理想的です。それを語れずに、近視眼的に合否判断を下しているようでは、いつまで経っても応募者とパーパスで通じ合う面接は難しいでしょう。

 面接では「人同士が向き合っている感覚」が一番大切です。上述の通り、学生は「就活ノウハウ」に染まり、自分自身のパーパスを自力で見出せなくなってしまっている人が大勢います。その現状に対し、面接官も1人の人間として相対し、感情面でも通じ合おうとする努力が必要です。

 たとえば、面接中に「部活で涙を流して喜んだ」「とあるきっかけで親友と大喧嘩した」といった感情的なエピソードが出てきたら、それは学生の個性やパーパスを深掘りする絶好のチャンスです。面接官をトレーニングしていると、「そこまで踏み込んで聞いてもいいんですね」と驚かれます。感情的なエピソードは扱いが難しいため、聞き流してしまいがちな面接官が多い印象です。しかし、実際には「感情的なエピソード」こそ、学生と企業のパーパスの一致点を探り合う格好の入口なのです。

 長くなってしまいましたが、以上が日本の新卒採用で「パーパス採用」の実施が難しい要因です。次回は、なぜ、企業にとって「パーパス採用」がそれほど重要なのか、その背景と理由について詳しく書いていきたいと思います。

草深 生馬(くさぶか・いくま)

株式会社RECCOO COO兼CHRO

1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやプレゼンテーションを実施。

2020年5月より、株式会社RECCOOのCOO兼CHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は経営層の1人として自社事業の伸長に取り組みつつ、企業の中期経営計画を達成するための「採用・組織戦略」についてのアドバイザリーやコンサルテーションをクライアントへ提供している。

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