コロナ禍で大きく変わったものの1つが「就活」だ。3密を避けるために直接会うことが難しくなった影響は大きい。新卒採用スケジュールが大幅に遅延しただけでなく、合同企業説明会やリアル面接などの多くは中止となり、オンライン化している。入社後も、オンライン入社式やオンライン研修など、多くのことがオンラインで進んでいるようだ。
HR総研の「2020年&2021年新卒採用動向調査」(3月)によると、企業の3割が面接方法を変更し、「来社をともなわないウェブや電話などの面接に変更」は61%となっている。この傾向は大手企業を中心に強まっているようだ。オンライン就活の今を見ていきたい。
2022年卒業予定の大学生・大学院生を対象とした、エン・ジャパンの「オンライン就活」意識調査(6月)によると、オンライン就活イベントで参加したことがあるものはという質問に対して、「就活セミナー・イベント」は84%に上った。「企業説明会」も55%おり、就活の多くの部分がオンライン化していることは間違いない。
オンライン就活について、学生はどう感じているのか。「メリットを感じる」が30%、「どちらかというとメリットを感じる」が40%と、実に7割がメリットを感じていることがわかる。
メリットを感じる理由は、地方在住でも交通費がかからないこと、短時間で効率的に参加できるため学業と両立しやすいことなどが挙げられている。面接にリラックスして臨めるとか、質問しやすいと歓迎する声もある。社会人でもオンライン会議は効率の良さがメリットとして挙げられることが多いが、ほぼ同じなのだ。
一方、オンラインでの参加に抵抗があるイベントは、「最終面接」が67%、「インターンシップイベント」が48%、「2次選考〜最終選考の一つ手前」が38%などとなった。会社や働いている人の雰囲気がつかみづらいことがオンラインの最大のデメリットであり、熱意を示して採用につなげたい大切な場面ではやはり対面を望む人が多いようだ。
ある就活生は、オンライン面接もTシャツ姿で受けているという。最初は戸惑ったが、先方の企業側でも多くの社員が普段着のままなので、スーツ姿をやめた。「まさか就活でスーツを着ないとは思わなかった。楽ではあるけれど、一度くらいは志望企業に行って直接会いたい気がする」。
一方、オンライン面接を実際にやってみての不都合もあるようだ。会場に足を運んだり、就活生同士で会話することで得られる情報は大きいが、今年はそのような情報が得づらくなっているようだ。「情報が少なくて不安なので、オンラインでOB訪問している」という。会ってくれるOBは自分でSNSを使ったり、先輩に紹介してもらったりして探したそうだ。
また、「面接の途中で音が途切れて聞きづらかったりして、コミュニケーションが難しいと感じた」という声もある。「自分のリアクションも伝わっているのか不安だった。オンラインできちんと評価されるのだろうか」。
地方在住の別の就活生は、「地方在住だと交通費と宿泊費で数十万が消えることもあると聞いていたから、助かった」という。「コロナでバイトが減って生活が苦しいし、親も収入が減ったと言っているので頼みづらかった」。
ある女子学生は、「説明会では友だちはみんなライトを使っている」という。オンライン会議で使っている人もいるが、同じように自撮り用ライトで顔を明るくして面接に臨んでいるそうだ。太陽の光の当たる窓際で対応している友だちもいるという。Instagramで映える写真を撮るコツとして、「自然光の中で撮る」というものがある。やわらかい自然光の中で撮ると、ものがきれいに映るのだ。Instagramで慣れている世代なので、自然と対応できるのかもしれない。
企業側にも、オンライン就活はメリット、デメリットの両方があるようだ。ある中小企業はオンライン就活対応が間に合わず、うまく就活生に対してアピールできずにいる。一方、オンライン企業を採用した企業にとっては、従来かかっていた会場費や資料の印刷費などが要らないというメリットがあるようだ。これまでアプローチが難しい地方や海外在住などの遠方の学生にもアプローチ可能となるため、オンラインのメリットをうまく活用できる企業にとってはプラス面が大きそうだ。
企業側にも、「正直、最終面接くらいは直接会って学生の人柄を感じたい。やはり人柄を見極めてから採用を決めたい」という声も少なくない。オンラインには活用次第でさまざまなメリットがあるが、オフラインならではの強みもあるのだ。
従来の良さもあり、残っていく部分はあるだろう。その一方で、オンライン就活には企業にも就活生にもメリットがある。今後はこのような新しい生活様式に即した就活が定着していくのかもしれない。
高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。
ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/
Twitter:@akiakatsuki
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