ヤフーと建築テック系スタートアップのVUILDが、新たな家具作りに挑戦している。ヤフーの社員がリモートワークを体験する中で「こんな家具が欲しい」と思った形をデザインし、オンライン上から図面のダウンロード、パーツの加工依頼ができるサイト「LODGE Remote Work Kit」を立ち上げた。
このプロジェクトを担うのは、ヤフー内の有志メンバー。コアメンバーであるヤフーLODGEの中島慎太郎氏は「2020年10月に仕事が完全リモートワークに移行し、社内にあるオープンコラボスペース『LODGE』も、コロナの影響でクローズしてしまった。何かできることはないかと考えた時に、リモートワークの経験をいかして家具を作れないかと考えたのがスタート」とLODGE Remote Work Kitの経緯を話す。
LODGE Remote Work Kitは、LODGEが開発したオープンソースの家具データプラットフォームに、VUILD(ヴィルド)が開発した木製ものづくりのデザインからパーツに加工までの工程を、オンラインで完結できるサービス「EMARF(エマーフ)」を組み合わせたECサービス。ヤフーの社員がデザインしたリモートワーク向け家具6種類を木製家具キットとして販売する。ユーザーは、家具のパーツが届き、自分で組み立てることで使える仕組み。凸と凹を羽目合わせるなど、釘などは使わず、組み立てが可能だ。
家具をデザインしたのは、ヤフー内でデザイナーやエンジニアとして働くスタッフたち。「家具を作った経験に長けているわけではない」(中島氏)と言い切る。
専門職ではないスタッフが一つの家具をアイデアベースから作り上げられたのは、VUILDのサポートが大きい。建設テック系スタートアップであるVUILDは、コンピューター制御により木材を加工できるデジタル木工機器「ShopBot(ショップボット)」や、木製ものづくりのデザインからパーツに加工するまでをオンラインで完結できるシステム「EMARF」を展開。独自の家具作りを推進する。
LODGE Remote Work Kitではこの仕組みを活用し、ヤフーのスタッフがPCで設計した図面をEMARF経由でデータ変換後、ShopBotを用いてパーツ化。組み立てることで家具を具現化する。ワークショップを開き、実際に目の前で家具を作り上げていったというが、VUILD デザイナーの黒部駿人氏は「驚いたのは参加したヤフーの方のスキルセットの高さ。教えることはほとんどなかったくらい(笑)。コロナの影響でリモートワークをする人が増えていると思うが、やはり、生活している場の家具と仕事で必要となる家具は異なるので、環境が整っていない人が多い。早急に自宅の環境を整えなければならない時期だからこそ、『プリントアウトするように家具を作る』というEMARFのコンセプトが伝わる、いいお話をいただけたと思った」と話す。
黒部氏が「家具のアイデア自体も面白いものばかり」と話す通り、第1弾として発売する6種類の家具は、今までになかったアイデアがあふれる。ヤフーLODGEの市川大翔氏が設計した「NOOM」はベッドを椅子として作業できる机。「リラックスして仕事がしたいと思い家具として形にしたNOOMだが、社内販売した時に、持病を持っている人が病院にあるような机ではなくデザイン性があり、機能的に優れた、こんなものがほしかったと言っていただいた」(市川氏)と思わぬ反響があったという。
NOOMは、拡張パーツを追加することでベンチスタイルに組み替えることも想定しており、「1台を多用途に使えるようなアイデアが全体的に多い。4つに分かれた天板から構成する『Clover Desk』は、カドオキ、カベオキ、カコミ、ダンランと4通りの並べ方ができる。これはデザイン担当者同士が打ち合わせしたわけではなく、自然と共通したもの。今の生活スタイルに合っている形なのかと感じている」(市川氏)とリモートワーク環境で求められるであろう家具の形を具現化する。
いくつかの家具には、購入者のライフスタイルに合わせ、幅、奥行、高さなどのサイズ変更ができるオプションも用意する。「ユーザーの生活に合わせ調整ができるという世界観を見通した上でデザインがされている。これはリモートワークという実体験を元にうみだされたものだからかもしれないが、使いやすさを考えた上でその先を見せたデザインに仕上がっている点が素晴らしい。今までの既製家具にはなく、多くの人に響くと思う」とVUILDのワークショップデザイナーである戸倉一氏は期待を寄せる。
すでにヤフー社内で公開したところ、3000人以上が反響を寄せており、実際の注文にもつながっているという。
「ヤフーでは2020年10月からリモートワーク体制に移行したが、それ以前に2月の段階からリモートワークが始まっていた。家具のデザインを担当した者自身が職場の机や椅子を、そのまま自宅で使えばいいわけではなく、自宅で仕事をするための家具が必要ということを自ら体験することで、今回のアイデアが出てきた。これはヤフー創業期からのDNA『ユーザーファースト』が息づいているからだと思う。リモートワークで仕事がしづらいと感じている人は現状多いだろう。この取り組みをそういう人たちに届けたい」とLODGE Remote Work Kitの責任者を務めたヤフー LODGEの徳應和典氏は今後を見据える。
2021年の3月にワークショップを開始し、実質1カ月程度で作り上げたとのこと。中島氏は「実際にEMARFを使ってみて感じたのは、本当にすごいツールが出てきてくれたものだということ。自分が作った家具に共感してもらえるのは新しい体験だった。これからは自分たちと同じように家具を作りたい人を増やしていきたい」と体験をともにするメンバーを募る。
市川氏も「自分たちが普段作っているのはウェブサイトやアプリなど。それらと同様に家具が作れるのは、ツールがここまで進んできているからだと感動した。ツールの進化によって、家具以外にもいろいろな分野のものづくりが民主化されれば自分たちの表現や作りたいものが手軽に作れるようになる。そんな希望を持てた気がする」と話す。
一方、作り手であるVUILDの黒部氏は「家具を買うという消費だけでは終わらない体験のようなものができるはず」とし、戸倉氏は「今までの家具作りはノミやのノコギリを使い、職人の人の身体能力に依存していた。デジタルなものづくりに置き換わることで、身体能力ではなく、発想力や瞬発力が必要になってくる」と、LODGE Remote Work Kitを通して家具作りの新たな可能性を見出す。
徳應氏は「一人でできる仕事には限界があるから、チームで作る。さらに一社でやれることにも限界は出てくる。だから他社と組む。今回も家具を作りたいというアイデアはあっても、それを形にしたり、素材や品質面での担保といった私たちではできない部分をVUILDの方にサポートしていただいた。そう考えるとLODGE Remote Work Kitは家具作りのDXだったんだなと。今回のことをよき事例として、新たな出会いを先入観なく取り組んでいきたいと思う」と、ヤフーの新たな挑戦について話した。
LODGE Remote Work Kitは、家具作りしたいと考えている人を巻き込みながら第2弾の企画も考え始めている。
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