建築テック系スタートアップのVUILDがデジタル家づくりプラットフォーム「Nesting」のベータ版の提供を開始した。アプリで必要な間取りを描くと、瞬時に家の形が立ち上がり、概算の見積もりを取得。2021年秋に予定している正式ローンチ後には、予算に応じて、設備の種類、断熱材の厚み、建具の性能まで決め、実際の家が建てられるようになる。
VUILDは、建築家でもある秋吉浩気氏が2017年に立ち上げたスタートアップ。コンピューター制御により木材を加工できるデジタル木工機器「ShopBot(ショップボット)」を全国約70カ所に展開。オンデマンドでオーダーメイド家具を出力できる自律分散型地域生産プラットフォームと組み合わせることで、木材の産地やデザイン、サイズをカスタマイズして好みの家具が作れるシステム「EMARF(エマーフ)」を2018年にリリースしている。
VUILD 代表取締役の秋吉浩気氏は「EMARFと同時並行して進めてきたのが、設計・施工をした『まれびとの家』。ShopBotを使って、今までにないデザインの家を作った。地域の伝統構法である合掌造りを、デジタル技術でアップデートしたこのデザインは、2020年度グッドデザイン金賞を受賞できた。こうした家づくりをすすめる中で得たデータや流通ルート、自動化などを組み合わせて、住宅版のEMARFをつくろうと考えたのがNesting」と経緯を話す。
家具や家をつくる際に、VUILDが重視しているのは地元の木材を使い、製作を地域で完結させること。これにより、長距離輸送や環境負荷、時間、コストの削減を実行してきた。
「以前の家づくりは、地元の材料を使っていた。しかし大手のハウスメーカーらが家づくりを手掛けるようになり、原材料は一括仕入れに変更。地元の木材やそれに伴う林業、さらには木工にかかわる文化などが廃れてきてしまった。それを地元に戻すことが、今の環境問題解決につながる一つの施策だと思う」と秋吉氏は地元の木材を使う理由を説明する。
その一方で、現在の住宅購入についても「自分の理想とする住宅をつくりづらい環境にあるし、住宅ローンも重い。ライフステージの変化とローンの返済が見合わないなど課題は多い。それをデジタルツールで自分のステージに合わせた住まいを作れるようなプラットフォームを作りたかった」と購入者の立場からの意見も述べる。
Nestingでは、各地域のコミュニティホストが提供する敷地の中から、土地を選択し、書斎やスタジオ、店舗や工房など都会の暮らしでは持つことを諦めていた理想の暮らしを具現化できるというもの。もちろん自前で用意した土地に建てることも見据える。
アプリでの間取り設計は、形やサイズにとらわれず、ある程度ゼロから作れる内容に仕上げた。「テンプレートではなくて、自分で家の形から作れる。建物の間口は2~3間、長手方向は無限に作っていけるのが最大の特徴。また土地の形状に合わせ、L型やT型など、桂離宮のような雁行配置も可能。本当に自分でデザインしていく感覚を味わえる。難しいと感じる人向けにはワークショップをしながら使い方を教えていく。そこまですれば、ほとんどの人が使えるという自信はある」と秋吉氏はアプリの使い勝手にも気を配る。
9月末にはプロトタイプとなる第1棟目が北海道弟子屈町に竣工予定。その後は、消滅の危機にある古民家を村に見立てて再生するシェアビレッジと協業し、秋田県五城目町にてコーポラティブヴィレッジとして5棟同時建設を計画する。
「景色が美しく、自然が豊かで面白い場所に家を建てていきたい。地元の工務店や職人の方に協力していただきながら家を建てることで、地元にも貢献できると考えている。当初は、いわゆる都会から離れた場所への建築を想定しているため、2拠点生活などを想定しているユーザーが多いが、将来的には、ハウスメーカー程度の金額まで下げ、ファミリー層の方にも受け入れられるようにしていきたい。地方への移住を考えている人にもぜひ選んでほしい」と地方移住までを見据える。
地方と移住希望者をつなぐハブになるのが、コミュニティホストだ。「移住はしたいけれど、いきなり知らない土地のコミュニティに入って行くのは難しい。しかし地元の人たちとコミュニケーションが取れてこそ、移住生活は楽しくなる。そうした地元の方と移住者をつなぐ役割を果たすのがコミュニティホスト。VUILDでは、ShopBotを全国に展開している関係で、不動産会社や製材所、林業関係者など、地元に密着した人たちのつながりがすでにある」(秋吉氏)と独自の基盤を築く。
家ごとに、気候風土に合わせて、断熱材の厚み、建具の性能などを決められるため、エコハウスやオフグリッドハウスの建築も可能。自律分散型水循環システム「WOTA BOX」とも組み合わせられるなど、予算と住む場所に応じた家づくりを実践できる。
「山の中に建てるなど、インフラが届いていない場所での建築も想定している。太陽光パネルと組み合わせれば電気の自給自足も可能。そのあたりは予算に応じてできるようにしている」と自由度を持たせる。
建築に使う材木については「日本には杉林が多く、各地の杉を使用していく。ただ、手入れが行き届いていない杉林もあり、現在では建材になりにくいとされていた。私たちでは、ある程度バッファをもたせ、どこの地域の木材でも作れるような建築構造を採用している。最近、海外の木材が日本に入ってきづらいウッドショックが騒がれているが、地元の木材を使うことで、そうした課題も解決できる。森の状況を前提に、家の作り方を変えることがこれからは必要になる」と、地元の木材を使うことに重きを置く。
今後は、9月末の第1棟目を皮切りに、10月頃に正式リリースとアプリの公開を行い、その後1年で最低10棟を建設する予定。すでに問い合わせも来ており、2~3年後には年間100棟程度の建設を計画しているという。
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