筆者は先頃、Microsoftから招待を受け、複合現実(MR)の第一人者であるAlex Kipman氏と対面した。Kipman氏は、同社で「Windows Mixed Reality」を担当しているテクニカルフェローだ。その同氏との、1対1のチャットだった。といっても、「Zoom」や「Microsoft Teams」を使ったわけではない。会話は、筆者の自宅の書斎に突如出現した仮想のテーブルを挟んで行われた。
ホログラムの漫画キャラクターのようなKipman氏が部屋に浮かび上がり、筆者はその周りを歩く。必要なのは、筆者が顔面に装着したオールインワン型のバイザー、Microsoftの「HoloLens 2」だけだ。初めて自宅でHoloLens 2を試用してみてようやく、拡張現実(AR)メガネが進んでいきそうな方向性が分かってきた。同時に、これから解決すべき課題も見えてきた。「Microsoft Mesh」は、共有する同じ仮想空間に人を送り込んでくれる技術で、その将来性は大きそうだ。だが、それを最大限に活用できるハードウェアは、まだ登場していない。
HoloLens 2は、発売から1年以上経つが、誰にでも買えるわけではない。企業向けのデバイスとして販売されており、3500ドル(日本では税込42万2180円)という価格からも分かるとおり、想定されているのは、それをまかなえる職場環境での利用だ。仮想現実(VR)とは違い、ゲームで本格的に遊ぶためのものでもない。実際、これまでMicrosoftがHoloLens 2のレビュー機を提供してくれたことはなかったし、デモは必ず管理された空間で行われ、時間も限られていた。複合現実ソフトウェアの発表に合わせてHoloLens 2を貸し出してくれるという提案があったときには、心から興味をそそられた。そのくらい、筆者にとっても新しいデバイスなのだ。
HoloLens 2は、VRヘッドセットではなくARヘッドセットである点に注意してほしい。レンズは透明だ。現実世界に存在するような仮想の明るいオブジェクトを、レンズの上に重ねて浮かび上がらせる。同じようなヘッドセットは、ほかに「Magic Leap 1」しかなく、これも業務向けのデバイスだ(こちらは、1週間ほど会社のオフィスで試用したことがある)。仮想空間に入り込んでいくのではなく、自分の部屋にいたまま、そこに物体を重ねていく。Marvelコミックや、映画「キングスマン」「スター・ウォーズ」で描かれるように、ホログラムで映し出されるものとやり取りすることができる、それがMicrosoftの目指しているものだ。QualcommやFacebook、おそらくはAppleも(そしてそれ以外の各社も)ARヘッドセットに取り組んでいるが、HoloLens 2は、ARの未来のプロトタイプのように思える。
HoloLens 2はその目標に到達しているわけではない。その点では他社と同様なのだが、それでも、現時点でどこよりも目標近くに迫っているように思える。
HoloLens 2のヘッドセットは驚くほどコンパクトで、Facebookのオールインワン型VRヘッドセット「Oculus Quest 2」と同じくらいのサイズだ(ただしそれより軽く感じる)。Oculus Quest 2が約300ドル(約3万3000円)、HoloLens 2が3000ドル以上と、価格は大きく異なるが、気質は似ている点が多い。どちらも、PCやスマートフォンを必要としないスタンドアロン型のデバイスで、装着感は良く、筆者のようにメガネをかけていてもフィットする。
オールインワン型で使いやすいという共通の特徴は、目的も似ていることを示している。煩わしいケーブル接続や面倒なインターフェースを排除して、VR(あるいはAR)の普及を促すことだ。
しかし、似ている点はそれくらいだ。
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