続いてNTTデータ 統括部長の三竹瑞穂氏が、食のパーソナライゼーションを実現するITプラットフォームの構築などに向けた同社の取り組みについて紹介した。
パーソナライゼーションには「健康」と「嗜好」の観点があり、2019年のスタートアップの投資動向でヘルステックは1兆4929億円、パーソナライズドニュートリション(栄養のパーソナル化)も82億9400万円ほどに上るという。
「ヘルステックの分野はいろいろなバイタル(生体)データを取るところで新しい投資が出ており、こうしたことをきっかけにして食の健康分野も加速すると思う。われわれは、2019年12月に医療情報を匿名加工して提供する国の認定機関としての事業者認定をいただいた。病院内の診療データを匿名加工して新薬の開発や薬の服用方法、治療方法などに生かす方向で先行して進んでいるので、こういったものが食の世界とつながると思っている」(三竹氏)
パーソナライゼーションには大きくインプット、分析、アウトプットの3つのプロセスがあり、情報を集めるための「フリクションレス(入力の手間を省くこと)」の取り組みが重要だと三竹氏は語る。そこで仕組みとして現在開発しているのが「スマートミラー」だ。
「日常生活の中でわざわざアンケートに答えるのではなく、鏡の前に一定時間いるだけで心拍数や体温などを計測できるというものだ。心拍数に異常値が出始めた先に糖尿病があるという話も一部ではあるので、将来的には生活習慣病の予防などにも活用できるのではないかという仮説を立てて取り組んでいる」(三竹氏)
その集めたデータの分析に活用するのが「ヒューマンデジタルツイン」というコンセプトだ。
「ヒューマンデジタルツインは人間のデータベースみたいなもので、これを実現するための元になるデータはいろいろなプレーヤーが持っている。たとえばわれわれは約300万人の健康診断情報を持っており、先ほど紹介したバイタルデータを分析するツールを使いながら、リアルデータと検診データを合わせてビッグデータを作り、分析していこうと考えている。本来このデータは消費者本人のものだが、食のパーソナライゼーションを加速する上ではいろいろなプレーヤーが持つデータをつないで総合的に分析するためのプラットフォームが必要になる。その取り組みも進めようとしている」(三竹氏)
食のパーソナライゼーションに20年ほど取り組んでいる三竹氏は、「食品メーカーをサポートできるように活動しているが、なかなか(食のパーソナライゼーションは)難しい」と語る。
「ただ、マスモデルから少しずつセグメントが細かくなってきている。パーソナライゼーションといっても本当に一人ひとりに100%個別化されたものはなかなか実現できないと思うが、段階的にセグメントが小さくなっていくととらえていいと思う」(三竹氏)
そこで挙げたのがNetflixやSpotifyなどのサブスクリプション(月額課金)型コンテンツ配信サービスだ。
「NetflixやSpotifyは個人に向けて楽曲などを作るわけではなく、ありものの曲や映像を提供している。食もいろいろな選択肢があり、その中で本人により合ったもの、合うだろうものをいかに提供するかに切り替えると、非現実的な話ではなくなる。そのようにして少しずつパーソナライゼーションは進んでいくと考えている。ただ、10年、20年後に家庭用の調味料プリンターなどが出てきたら、調味料の加減などをパーソナライゼーションできる可能性があるので、将来的には技術進化で可能性が広がると思う」(三竹氏)
ウェルナスの小山氏は、食のパーソナライゼーションは食の楽しさやその人の幸せにつながるものでなければならないと話す。
「食は強いられるものではなく、楽しいとか幸せなものだと思う。AI食の血圧を下げる試験に血圧が150くらいあって普段から減塩食を食べている参加者がいたが、全然下がらなかったから参加したと話していた。その方を分析すると、塩が血圧上昇にかかわっていなくて、ほかの成分で血圧が上がっていることが分かった。そこでAI食では塩の量を増やして、味のあるおいしい食事を食べてもらったところ、血圧が10ほど下がった。その人には『私の人生が変わった』と言ってもらえた。これまで高血圧=減塩だったから、味の薄いものを食べ続けたのに血圧は下がらない。その悩みは毎日つらかったが、AI食を知って何を選択すればいいかが分かり、食の選択肢がものすごく広がったと喜んでもらえた。パーソナライゼーションは幸せや喜びを運ばなければいけないと思うので、あなたはこれしか食べてはダメと強いるのではなく、自分に合うものを選択できることが一番必要だと思う」(小山氏)
CAN EATの田ヶ原氏は自身が描く食のパーソナライゼーションの未来について次のように語った。
「食生活に気を付けて、ダイエットしようと食事制限も頑張るけど、人間は誘惑に弱いので目の前に唐揚げがあったら食べてしまう。でも唐揚げのように見えて、味もそのまま唐揚げのように感じるけど、実は減塩されているとか、自分が好きなものを食べていても自動で栄養素や味が自分に最適化されている。好きなものを食べているような気分になっているけど、自分がどんどん健康になっていくというのが、私が目指すパーソナライゼーションの最終的なあり方だ。なので、調味料プリンターや3Dフードプリンターなどとの連携も将来的には考えていきたい」(田ヶ原氏)
ついつい不健康な食事もしてしまうのが人間だ。そういうのを受容しつつ、人に寄り添いながら提案していくことが重要だとウェルナスの小山氏は語る。
「自分の生活を変えてまで、食を変えていくということはできない。1回はできても継続的なものにはならないので、自分のライフスタイルや食の好みに合った中で提案していく、パーソナライズしていくサービスにしないと使われることはないと思う。たとえばお酒を飲んだ後にラーメンを食べる日があってもいい。じゃあ翌日は自分の体がこういうふうになっているので、これでバランスを取りましょう……そういうアドバイスがあればいいと思う」(小山氏)
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