培養肉の最大の武器は、持続可能性が優れているにもかかわらず、依然として肉であるということだ。持続可能性があるかどうかは、Z世代の消費者にとって重要なテーマとみられるが、特定の世代の問題意識の傾向はともかく、2016年~2025年の間に米国の肉消費量は増加すると米農務省(USDA)は予想している。依然として、タンパク源イコール動物の肉であると考える消費者が膨大にいる中で、植物由来の肉だけでは、肉消費量の増加を抑えることはできないかもしれない。
培養肉が成功を収めることができれば、その話はマーケティングのお手本の1つとして残るだろう。その技術を訴求しながらも、人工的に作られたものに対する嫌悪感を生まない程度に抑え、また懐具合や味ではなく持続可能性を重視する人々に偏り過ぎない、という絶妙なバランスを保ったことになるからだ。
カリフォルニア大学デービス校のJamison-McClung氏は、「自前のバイオリアクターを立ち上げて運用できると盛り上がっている人がいるとすれば、幹細胞について専門的な知識のないその辺の一般市民でも培養肉を食べたいと思うのかどうか、その点をよく理解した方がいい」と指摘する。
「培養肉の支持派は、科学とテクノロジーを利用して作られた食品という見方ではなく、あくまで科学ありきの観点でそれに取り組んできた」。そう語るのは、食品開発会社Griffith Foodsの最高経営責任者(CEO)であるTC Chaterjee氏だ。「消費者の観点からすると、(その2つには)違いがある」(同氏)
英国の技術革新センターであるCentre for Process Innovation(CPI)でバイオテクノロジー担当ゼネラルマネージャーを務めるKris Wadrop氏によると、ビーガンやベジタリアンは多くの場合、そもそも肉を食べることに興味がないので、培養肉はそれらの市場を対象にしていないという。「対象としているのは肉の好きな人と準菜食主義者であり、彼らに培養肉に切り替えてもらうことが課題だ」(Wadrop氏)
問題はほかにもある。広く受け入れられた名前がなければ、これらの製品は、イメージの悪い「フランケンミート」などとしてブランド化されてしまう可能性もある、とKerryのO'Donovan氏は指摘する。「主要企業が消費者にとって親しみやすい名前を考え出して、すべての企業がその名前に従えば、非常に大きなプラスになるだろう」(同氏)
だが、CPIのKris Wadrop氏は、「名前はすでにある。牛肉、鶏肉、豚肉だ。培養肉を作る側は、それらを模倣しようとしているのではなく、実際に、それらの食品を作り直している」と主張する。培養肉はオーガニック食品や放し飼い食品、非遺伝子組み換え食品などと同じく、従来の食品の高級版としてぴったりだという。
培養肉は「クリーンミート」とも呼ばれる。この名前の魅力が高まることを2020年よりも前に予測できた支持者はほとんどいないだろう。
家畜の肉は、その生産環境で抗生物質が使われて育てられている場合が多いということを、新型コロナウイルス時代の消費者はますます認識するようになっている。このことは、家畜の肉の魅力を損なうかもしれない。多くの人にとって、生肉を扱った後に消毒薬に手を伸ばすことは、すでに習慣になっている。
さらに、コロナの流行がきっかけで、家畜の肉は米国で最も凄惨な職場で生産されたものだということを私たちは思い知らされた。培養肉は真逆のイメージを持たれるだろう。むしろ、自分が口に入れる食べ物は、ネルシャツを着た人が家族経営するのどかな牧場で生産されたものだという幻想にとらわれた人々にとって、培養肉はクリーンすぎるという印象を与えてしまうリスクがあるのではないだろうか。
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