ラボで育った「培養肉」が食卓を変える日は来るのか - (page 3)

Brian Cooley (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2020年12月09日 07時30分

増加する食肉需要への対応

 世界保健機関によると、世界の人口増加と都市化が進む中で、「所得水準と動物性タンパク質の消費の間には強い関連性がある」という。これにより、牛などの動物への見方が厳しくなっている。牛は多くの食料をわずかな食料に変えてしまう、驚くべき機械のように見なされることがあるからだ。

 培養肉の支持派は、約450gの牛肉を作るのに約9kgもの植物ベースの飼料が必要になると試算しているが、家畜業界の主張によると、その数字には、牛の身体から産出され、飼料の元にもなる皮革や骨、肥料、臓器の重量が含まれていないため、大きな誤解を招くおそれがあるという。とはいえ、業界団体のBeef Cattle Clearinghouseも、牛から約450gの赤身肉を得るには、2.3kg近くのトウモロコシ飼料が必要だと試算している。サウスダコタ州立大学による試算でも、約544kgの去勢牛から得られる肉は約227kgにすぎないという。

1頭の牛から得られる肉
約544kgの去勢牛から得られる肉は約227kgにすぎないという
提供:University of Tennessee

 別の見方をすると、牛に飼料として与えられる25~30キロカロリーにつき、人間が食べられる食物エネルギーとしては1キロカロリーしか生成されないので、変換率は3~4%だとThe Good Food Instituteは試算している。

 「培養肉の場合、最終的に消費される組織だけを成長させるため、1体の動物に飼料を与えるよりも、動物細胞を育てる方が、はるかに効率的だ」。The Good Food Instituteのサイエンスおよびテクノロジー担当アソシエイトディレクターであるLiz Specht氏は、そう語る。「まだ変革しなければならない工程があるが、実用主義の観点から植物由来の肉と培養肉を見ると、両方とも従来の体制と比較して桁違いに改善されていると感じる」(同氏)

市場で成功を収められるか

 培養肉のアイデアはまだ新しいため、最終的な価格を正確に予測することはできない。Beyond MeatやImpossible Foodsといった企業のおかげでよく知られるようになった植物由来の肉の分野をモデルとして使用しても、おそらく正確な予測はできないだろう。材料や作る工程、市場参入のタイミングが大きく異なるからだ。

 屠殺された動物を原料とする従来の肉は、培養肉より何世紀も前に普及した。自然かつ正常で、必要なものという認識もある。食肉業界は、規模の拡大と何十年にもわたる業界の経験、そして、多くの場合、政府からの間接的な補助金によって、コストを抑えてきた。間接的な補助金は、捕食動物管理プログラム、公有地での放牧料金の値下げ、食肉動物を飼育する企業で発生する不意の出費を補填するためのさまざまな支援プログラムといった形で提供されている。

 培養肉は新しいテクノロジーでもあるので、コストが下がるのは何年も先のことになるだろう。Beyond MeatやImpossible Foodsの定評ある植物由来の肉でさえ、家畜の肉に比べると、依然として高いコストがかかる。培養肉は価格を同等の水準まで下げない限り、市場シェアが小さいために、あるはずだった大きな利点の数々を十分に生かせなくなるリスクが生じる。

 「コストがハードルだ」。そう語るのは、食品開発会社KerryのグローバルR&D担当ディレクターであるKarl O'Donovan氏だ。「この分野は、持続可能性と畜産に関して素晴らしい可能性を秘めているが、すべてはコストに帰着する。人々は価格が割高でも喜んで買うだろうが、それにも限界がある」(同氏)

培養肉
提供:Memphis Meats

 一般の人々から賛同を得なければならないという問題もある。「すべての技術的なハードルを解決して、こうした技術を宇宙探査や菜食主義者たちのために使い始めたとしても、多くの人は興味を示さないだろう」。カリフォルニア大学デービス校のバイオテクノロジープログラム担当ディレクターであるDenneal Jamison-McClung氏は、そう指摘する。

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