Facebookの「Oculus」やHTCの「Vive」などの仮想現実(VR)プラットフォームは、装着者をデジタルな別世界へといざなうことができる。しかし、それらの世界の没入感は、VR環境内で装着者が体験できる範囲に限られる。スタンフォード大学の研究者と共同で開発された「Grabity」と呼ばれるデバイスの狙いは、物体をつかんだり、拾ったりするときの感覚をVRで再現することにある。
プロトタイプは、手袋のように装着するのではなく、親指と人差し指にはめて持つように設計されている。四角いコントローラーを手にストラップで固定するような具合だ。指の位置は、ソーダ缶を持つときと同じだ。このデバイスは、緩やかな振動、つまりハプティクスを使用して、VRゲームで小さなアイテムを拾う感覚を再現する。ハプティクスは、何かをつかんだときに指先の皮膚が伸びる感覚を再現するのに使用される。振動を手に伝えるために、デバイスにはボイスコイルアクチュエーターと呼ばれる2つの小さなモーターが含まれている。デバイスの底部には、前後に動くアームがあり、手の中のアイテムを揺り動かすときの慣性感を再現する。
同プロジェクトの研究者の1人で、スタンフォード大学研究室Shape Labの博士課程学生のInrak Choi氏は2017年、Grabityに関するプレゼンテーションで、「人間が重さをどのように知覚するのかを考える必要がある。基本的に、これは、人体の複数の感覚器を組み合わせたようなものだ」と語った。Grabityに関する2017年のホワイトペーパーによると、このプロジェクトの資金の一部は、Google Faculty Research Awardsを通して提供されたという。
米CNETはChoi氏にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
Google はVRでは苦労してきた。Facebookなどの企業がVR用として高度な計算機能を要する強力なプラットフォームに投資してきたのに対し、Googleは主にスマートフォンに依存してきた。Facebookのワイヤレスヘッドセット「Oculus Quest」は現在大人気だ。同社は5月、Oculus Questのコンテンツ売り上げが累計1億ドルに達したと発表した。
Googleは2014年に初めて、「Cardboard」でVRに進出した。Cardboardは名前の通り、四角い段ボール紙を使ってスマートフォンを収納することでVRヘッドセットに変わる。同社は2年後、コンセプトを改良した「Daydream」を発表し、こちらはより高度な計算能力が必要とされたが、頭脳として使用するのは依然スマートフォンだった。Googleは2019年にこのプラットフォームをひっそりと終了した。
しかし、GoogleによるGravityの取り組みは、同社がよりVRに適した実験的なハードウェアによる複雑なVR体験を模索していたことを示している。
SkinMarksと呼ばれるプロジェクトでは、シール式のタトゥーを使って、皮膚をタッチパッドに変える。
仕組みはこうだ。センサーが搭載されたタトゥーを身体の一部(指関節の隆起や指の側面など)に貼る。スマートフォンを使用するときのように、従来のタッチ操作やスワイプジェスチャーを実行すると、センサーがそれを感知する。ただし、皮膚の表面独特の動きを生かしたジェスチャーもいくつかある。タトゥーの周りをつまんだり、指や手足を曲げたりしても、センサーによって感知される。
皮膚をインターフェースとして使用することの利点は、人間が元々持っている細かな運動技能を活用できることだ、と研究者は2017年のホワイトペーパーで述べている。曲げたり、つまんだりできるのは本能的なことなので、そうした動きによって、テクノロジーをより自然に利用できるようになる。自分の皮膚や手足を使って操作するということは、見ないで操作できるということでもある。
タトゥーは、導電性インクをタトゥー紙にスクリーン印刷して作られる。その後、タトゥー紙を熱硬化して、皮膚に貼り付けられるようにする。プロトタイプのタトゥーには、漫画の絵や光を発するディスプレイなども含まれる。この実験はドイツのザールラント大学の研究者らが主導しており、資金の一部はGoogle Faculty Research Awardsを通して提供されている。
「タトゥーの大幅な薄型化と伸縮性の向上により、SkinMarkは関節付近のしわや骨で盛り上がっている部分などの不規則な表面にも貼り付けられる薄さと柔軟性を獲得した」(ホワイトペーパー)
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