今は昔、仮想現実(VR)のヘッドセットとして、ユーザーは自分のスマートフォンを使うことが当たり前のように求められていた。そのときのことを、皆さんは覚えておられるだろうか。雑誌の付録や販促用のグッズとして配布された、段ボール組み立て式の「Google Cardboard」もあれば、サムスンのすべてのスマートフォンと一緒に販売された「Gear VR」もあった。Googleの「Daydream View」というVRヘッドセットもあった。
筆者は2019年、スマートフォンVRに対する、いわば追悼の記事(英語)を書いた。スマートフォンVRはほぼ死んだも同然になっていたからだ。Gear VRとDaydream Viewの販売はすでに終了している。最近の多くのスマートフォンでは、もうこうした古いビューアーやヘッドセットを使うことすらできないし、新しいアプリも開発されていない。
VR自体はまだちゃんと存在しているが、ゴーグルをPCやゲーム機に接続したり、「Oculus Quest」のような完全にスタンドアロン型のシステムとして使用したりする形態が一般的になっている。素晴らしいゲームやアプリが提供されており、ユーザーはその世界に没入することができる。
筆者は今、自宅にいる。ここ1カ月はずっとそうだ。ホームオフィスで椅子に座ったり、自宅の階段を上り下りしたり、家の中にあるものをいろいろと見て探ったりしている。古いものが入っている引き出しをのぞくと、Google Cardboardがいくつか入っていた。
スマートフォンをGoogle Cardboardに装着して、YouTubeを開き、360度動画を再生した。Google Cardboardをのぞき込むと、ぼやけてはいるが、ちゃんと機能する小さな画面にジェットコースターが映し出されていた。本物のジェットコースターに乗れる日は、しばらくやって来ないだろう。
最近のVRヘッドセットの問題は、魅力が足りないことではなく、価格が高く、見つけるのが難しいということだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が原因で、多くのVRヘッドセットは売り切れているか、あるいは、生産が遅れている。ハイエンドの製品は、ヘッドセットとコントローラー、センサーをそろえると、1000ドル(約11万円)に達することもある。たとえそれらのヘッドセットの供給が十分だとしても、今は、多くの人が資金不足や失業に苦しむ時代に突入してしまった。
ちょっとふざけた小細工のように思えるにもかかわらず、スマートフォンをベースとする拡張現実(AR)アプリの人気が今高まっているのは、そのためだ。ARで自宅に動物を出現させるといったことに、人々は関心を向けている。子供たち、ひいては自分自身も楽しませ続けることができるのなら、何でもいい。
以前は、もっと簡単に、手頃にVRを利用することができた。今こそスマートフォンVRを復活させるべきではないだろうか。
ある意味で、スマートフォンVRはまだ生き残っている。Google Cardboardは今でも販売されているし、そのほかの多くの小型ビューアーも同じだ。筆者がずっと好きだったのは、クリップでスマートフォンに固定するプラスチック製のメガネ型ビューアーで、このタイプのビューアーは、さまざまなサイズや形のスマートフォンに簡単に取り付けることができる。小型の立体ビューアーのように機能し、多くのYouTube動画を楽しめるだけの性能を備えている。
今のところ、スマートフォンVRのキラーアプリはYouTubeだろう。Googleは今でもYouTubeアプリでCardboard VRをサポートしており、画面右下のゴーグル形のアイコンをタップすると、VRに必要な分割ビューモードが表示される。探せば、たくさんの360度および180度の3D動画が見つかる。VR専用のYouTubeチャンネルもある。
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