VRIコラム

クッキーレス時代に問われる「おもてなし」のWebマーケティング

大寺高義(NewsTV 取締役)2020年03月06日 12時00分

 2020年年始にGoogleがChromeでのサードパーティークッキーのサポートを2年以内に終了させるという告知を行いました。これに伴い、Web広告マーケティング業界は俄かに変革の節目を迎えることとなりそうです。

 サードパーティークッキーを利用した広告配信は、リターゲティング広告という手法が最も一般的です。一度自社サイトに来訪したユーザーを、その後も複数のサイト間でユーザーを追跡して商品やサービス利用を促す広告を配信する手法です。

 この広告手法は、ユーザーが必要以上に同一のクリエイティブを目にするようになり、自分自身のサイト閲覧情報が勝手に解析されて、広告が表示されていることへの不快感を生み、プライバシー侵害についての多くの議論を呼びました。

 一方で広告主からすると、この手法で一定数の購入などのウェブ上の購買行動を生み、かつ費用対効果が合うため、多くの企業が導入するところとなりました。

 ここでのポイントは、広告主に利益をもたらす程度に一定数以上のユーザーが、この広告経由によって購買活動を行っているという事実です。このようなユーザーにとってみて、果たしてリターゲティング広告は忌むべき広告手法だったのでしょうか?誰がサードパーティークッキーの利用に異を唱えていて、誰が賛成しているのでしょうか?

キャプション

 長くWebマーケティング業界に携わってきている私自身のこれらの問いに対する答えは「人はその時の状況によって立場を変える」ということです。

 リターゲティング広告において、単純にサイト来訪ユーザー全数を追跡するという手法は費用対効果が合わないことが多く、成果地点と呼ばれる購買完了後に表示されるサンクスページの手前まで来訪してきたユーザーを狙った方が費用対効果が合うことが多いです。

 実は広告主にとって価値があるターゲットは実はそれほど多くないのです。ECサイトなら、目当ての商品を買う寸前のカートページまで来たユーザー、何なら最終購入ボタンを押す手前まで来たユーザーが最もリターゲティング広告で購買行動を行う期待値が高いユーザーと言えます。

 そこまで購買するつもりだったユーザーが、その時に結局買わなかった理由は個々様々かと思います。例えば、もう少し他社製品と比較したいという欲求が勝ったとか、セール期に買うことにしようと考えたとか、単純に別の要件で端末の前を外してしまいそのままになってしまったなど。

 そのような期待値の高いユーザーであっても、リターゲティング広告を通して購買してもらうには、その人のコンテキストを汲んだ広告配信が必要だと思います。

 つまり例えると、海外旅行パッケージの予約直前まで行ったユーザーについて、そのユーザーが日中業務時間内に堂々とオフィスで海外旅行の予約ページを開いて予約するということは極めて稀である、ということです。

 日中業務時間内に海外旅行パッケージの予約情報の広告が必要以上に表示されれば、そのリターゲティング広告はそのユーザーにとっては忌むべき存在であり、一方で目的地の旅行ブログを見ているタイミングでその広告が表示されれば、それはちょっとしたその人に対する「おもてなし」になりうるわけです。

 そのように考えるとWebコンテンツは、消費者の購買マインドやコンテキストを広告主側で把握しうる一つのキーになってくるはずです。

 広告主にとってリターゲリングを行うターゲット数自体は実はそれほど多くないという事実と、このコンテキストを掛け合わせたマーケティング活動を行えていれば、一連のクッキーとプライバシーの議論やChromeの新しい規制の話などはもう少し違う方向に進んでいたかもしれません。

 今後クッキーレスのマーケティング時代が到来しても、広告主が営利を求めてマーケティング活動を行う限り、同様の原因に根差した新たな問題が生じてしまう可能性があります。

 次の時代のデジタルマーケティングは、広告主も広告プラットフォーマーもおもてなしの心を持てるかどうかが問われているのだと思います。


◇ライタープロフィール
大寺高義(おおでらたかよし)
株式会社NewsTV 取締役

株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)を経て、株式会社ベクトルへ入社後、㈱NewsTVの立ちあげに参画。Webサイトの構築、運営経験や、広告主として広告プランニング・出稿・分析・運用業務、広告営業、アドテクノロジー関連サービス・インフラ開発などWebマーケティング・アドテクノロジー関連業務に15年以上携わる。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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