日本国内におけるテレワークは、近年において政府主導のもと、2020年の東京オリンピック開催にともなう公共交通機関の混雑緩和を目的として裾野を広げていた。政府主導の取り組みとしてだけでなく、最近はテレワーク導入の有無が採用の成果に影響するなど「働きやすい環境」は企業にとって欠かせないキーワードともなっている。
2019年7月に「日本企業が陥りがちな、テレワークの3つの誤解」というテーマで3回のコラムを掲載。テレワークに対する誤解や思い込みを解消することを通して、テレワークを始めてみるキッカケをお伝えした。
第1回:「テレワーク=終日在宅勤務」「テレワーク=ゼロか100か」という誤解
第2回:「テレワークはツールを入れれば始められる」という誤解
第3回:「テレワークは都心のビジネスマンのためのもの」という誤解
本来であれば徐々に取り組みを本格化していく流れになっていくかと思われたが、新型コロナウイルスによる肺炎が拡大。国内においても在宅勤務の推奨などを打ち出す企業が増えているなど、状況が大きく変化している。企業活動においては、危機的状況下でも重要な業務を継続するための計画「BCP(Business Continuity Plan)」の観点で対応が求められるが、想定される感染経路をできるかぎり遮断するためにできることとして、早急にテレワークに取り組むべきと考えている。
実際、テレワークの効能はもちろん混雑の緩和だけではなく、生産性の向上やライフスタイルと仕事の両立などさまざまにあるなかの1つに、今回のような危機的状況下におけるBCPが挙げられる。言い換えると、日本企業は近年に類を見ない「必要に迫られてテレワークを開始すべきタイミング」を迎えているものととらえている。
コラムのなかでも「できることから始めてみる」という考え方が重要であると記載しているが、取り組むなかでは「導入しようとしてうまくいかなかった」「導入したものの運用に乗らなかった」などの課題が浮き彫りになってくる。本稿では、3回のコラムで記載したことをまとめつつ、心理的ハードルも含めこうした課題の原因を指摘するとともに、実際に導入する際のポイントをお伝えする。
テレワークの導入に失敗する原因を一言で表すと「一足飛びにテレワークを導入しようとするから」。いきなり全社一律の制度を設けたり、ITツールの使用を義務付けたりしたことのある企業も少なくない。こうした取り組みが狙い通りの効果を発揮しないどころか、場合によっては「やりたくもないテレワークをやらされた」「ツールの使い方に慣れず業務効率が下がった」など、むしろ現場の社員に抵抗感を生んでしまったという悩みも聞かれる。この課題を解決する鍵は「文化」「制度」「ツール」「場所」の4つの要素にある。
1つ目の「文化」は、社員自身がテレワークを自分ゴト化するとともに安心してテレワークをできる空気感。自分ゴト化とは社員一人ひとりが「何のためにテレワークをするのか?」を理解している状態を指すが、今回は新型コロナウイルスによる肺炎の感染対策という喫緊の問題があるため、テレワークの目的は否が応でも理解されやすい。そのうえで大切なのが、役職や部門によってテレワークのコンセプトが異なるという考え方にある。
例えば営業職の人にとって大切なのは、ウェブ会議による商談を取り入れるなどして、できるだけ多くのコンタクトを取り、効率的にまとめ、成約に結びつけること。一方で管理職は、ルーティンの会議をウェブ会議にするなどして、重要な商談や会議に足を運ぶ時間を生み出し、意思決定のスピードを早めていくことを求めらる。全社一律に同じやり方でテレワークを開始するのではなく、部門別、役職別、そして個人個人が何のためにテレワークをするのかを自分の業務に照らして考え、できるところからテレワークを取り入れることを意識することが第一歩になる。
また、安心してテレワークできる空気感を醸成するために必要なのは、経営陣が率先してテレワークを実行することにある。後述する制度やツールがどれだけ揃っていても、経営陣が毎朝きっちり出社するような会社では、現場にテレワークは根付きにくい。
文化の醸成ができたら次は制度の策定。文化と同様、一律の制度を全社員に適用することの難しさはご理解いただけると思うが、ここでは策定にあたっての考え方のポイントをお伝えしたい。
多くの企業ではテレワークの導入を検討する際に、懸念となるのが「社員が見ていないところでサボるのではないか」という点。制度策定にあたって多くの企業が壁にぶつかるのは、このように「テレワークをうまく活用できない人」を想定し、監視や制約の方向で制度を作ってしまうところにある。
しかし前提として1人1人がテレワークを自分ゴト化、つまり文化が醸成されていれば、テレワークをうまく取り入れて業務効率化に活用できる社員の割合も増えていく。そのため、以下の2段階での制度を策定することをお勧めする。
1.社員自身がテレワークの取り入れ方を選べるような自由度の高い制度を作る
2.万が一テレワークによって業務のペースを崩す社員が出てきたときに備え、フォローアップのための制度を作る
このときに欠かせないのが、徹底した成果評価。ここでいう成果とは、営業成績などの分かりやすい数値目標だけではなく、業務進捗も含めて成果と考え、進捗の定義を評価する側・される側合意のもと言語化。そして、定期的な振り返りによる評価を徹底することにある。これができていると「テレワークをしながらきちんと成果を出している人」「テレワークをしたことによって成果が出なくなってしまった人」など状況を把握し、後者のケアをすることが可能となる。場合によっては「毎日オフィスにきているのに成果が出ていない人」の存在も見えてくることもある。
このプロセスは、成果の言語化やその評価基準の策定に時間がかかるもの。そして、実際に運用を始めた後も定期的な評価面談が必要になったりと、一朝一夕に進められるものではない。しかし成果を軸にした評価制度を整備することは、社員の働き方をきちんととらえ、必要に応じた対策を講じることに繋がる。将来的にはテレワークの枠を越えて、企業が社員の多様性を受け入れるための重要な考え方になるといえる。
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