このコラムでは、テレワークに対する誤解や思い込みを解消することを通して、テレワークをうまく導入するためのコツをお伝えする。前回は「テレワークはツールを入れれば始められる」という誤解を紹介することを通して、テレワークに不可欠な「文化、制度、ツール、場所」の4要素を紹介した。
最終回の今回は「テレワークは都心のビジネスマンのためのもの」という誤解に着目したい。
第1回では、できるところからテレワークを取り入れて移動時間を削減する方法をお伝えした。そのメリットは、移動で終わってしまうはずだった時間を生産的な時間に変えたり、通勤のストレスを軽減したりすることだ。そのため確かに、毎日の通勤ラッシュを経験している都心のビジネスマンの方が、テレワークを導入するシーンをイメージしやすいだろう。
筆者も実際に地方都市で仕事をしていた経験があるが、その際は社員の大半が自動車通勤もしくは自動車による家族の送迎で、業務時間内の移動も社用車だった。都市にもよると思うが、同じような勤務スタイルの地方都市は多いはずだ。こうした地域では通勤ラッシュの苦労がないことに加えて、業務時間中も「車内」というプライベートな空間を確保しやすいことから、コラムの第2回で指摘した場所の問題もあまり気にならない。実際、秘匿性の高い会話をするために社用車にこもることも多かった。
また、特に営業部門の場合、足を運んで会いに行く文化が都心以上に根強いのも地方都市の特徴というイメージがある。同じ地方都市でも、インサイドセールスが発祥した米国ほど国土が広ければ話は別だが、日常的に足を運んで密度の高いコミュニケーションを取ることを良しとする文化を無理に否定することはない。
そのためテレワークを「移動時間を削減し、効率アップを目指すためのもの」という狭い意味で捉えると、確かに地方都市にはそのメリットが少々物足りなく思えるかもしれない。しかし、このコラムで一貫してお伝えしてきたことに立ち戻ると、地方都市におけるテレワークの本当の価値が見えてくる。
第1回では「必要に応じてできることから初めてみる」ことの重要性を、第2回では「テレワークを自分ゴト化するところから始める(それによって初めてツール導入の意味が生まれる)」ことの重要性をお伝えした。これらに共通する考え方は「テレワークによって解決できる課題があるなら導入すればいいし、ないなら無理に導入することはない」と言い換えることもできるわけだが、都心(首都圏)と地方都市が抱える課題は異なる。それにもかかわらず、移動時間による制約が多いという都心の課題をそのまま地方都市に当てはめようとしているために引き起こされているのが「テレワークは都心のビジネスマンのためのもの」という誤解だ。
では、テレワークによって解決できる地方の課題とは何だろうか。それは「都心への人材流出」と「就業機会の制約」だ。前者は企業目線、後者は個人目線だが、同じ課題を指している。
ブイキューブでは2015年に、和歌山県白浜町にサテライトオフィスを設置した。現地で社員を採用し、ウェブ会議システムによる遠隔での既存顧客のフォローやインサイドセールスを実施している。2016年には宮城県仙台市に開発拠点を設置し、地元のエンジニアを採用して、仙台、東京、シンガポールの3拠点が連携した開発体制を構築した。
いずれも採用時の条件は東京本社に準じているため、スタッフは地元を離れることなく、かつ東京と同じ評価体系で、地元にはない仕事に携わることができる。会社としては、優秀な人材を採用するチャンスが広がるわけだ。実際に白浜町のサテライトオフィスで働く社員は「地元を離れたくない気持ちと、IT系の仕事に挑戦してみたい気持ちを両立できる仕事が見つかると思っていなかった」と話している。
ここで重要なのは、地方都市であれば首都圏よりも安い人件費で人材を確保できると考えるのではなく、テレワークという選択肢を検討することによって採用の機会を全国に広げ、優秀な人材を採用するチャンスを増やせると考えることだ。そのため、一般的な地域限定型の採用や地方拠点とも異なり、働く個人にとっても、本来地元を出なければ携われなかったような仕事に携わることができるのが、地方におけるテレワークの醍醐味だと言える。
その応用として、家庭の事情などにより首都圏から地方に戻りたい社員が退社することなく、仕事を続けることも可能になる。もちろん、テレワークで可能な仕事であればという前提がついてしまうが、企業にとっても、個人にとっても、地方にとっても三方良しというケースも有り得る。この考え方が本格的に広がることによって「地元に残ったままやりたい仕事を見つけられる」という意識が根付けば、長期的には、地方経済の活性化や高齢化・過疎化の減速も期待できそうだ。
第1回、第2回の内容と比較してより大局的な話になったが、お伝えしたいテレワークの本質は変わらない。冒頭でも触れたように、テレワークを必要としない地場企業も多いが、テレワークによって場所に関係なく優秀な人材を確保するという観点はあらゆる企業において一考の価値があるだろう。
その際にはまず、第1回でお伝えした「できることから始めてみる」という姿勢が大切になる。全ての業務をいきなり地方に切り出すことはもちろん難しいので、どの業務であれば遠隔で実施できるか、業務内容や部門単位で検討することをお勧めする。繰り返しになるがその際は、地方都市で採用することを目的にするのではなく、地方都市の優秀な人材を活かすためにテレワークを導入するという考え方が重要になる。
第2回でお伝えした「文化、制度、ツール、場所」の4要素を順を追って整えていくことも同様だ。地方都市でのテレワークを検討せずとも十分に優秀な人材を採用できているのであれば、無理に検討することはない。しかしその必要性を関係者が理解し「文化」が醸成されているのであれば、そのための制度を整えるというネクストステップに進むことができる。
このコラムでは全3回にわたって「日本企業が陥りがちな、テレワークの3つの誤解」という切り口を通してテレワークの本質をお伝えしてきたが、これらの誤解や思い込みをなくせば、どのような企業であってもテレワークをうまく取り入れられる可能性が十分にある。7月22日から始まる「テレワーク・デイズ」をきっかけに「自社が抱えている課題の中で、テレワークの導入によって解決できることはあるか?」を考えてみることからぜひ始めてみてほしい。
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