VRとARの10年を振り返る--これまで装着してきたデバイスの歴史（後編） - (page 4)

2019年：奇妙な未来がやってくる

Oculus Quest（2019年）
提供：Sarah Tew/CNET

春登場の「Oculus Quest」を体験--これはVR界の「Nintendo Switch」だ

　筆者は10年間にわたって、自分の頭でさまざまなデバイスのベータテストを行ってきたが、2019年ほど刺激的な年はなかった。法人向けに作られたMicrosoftの「HoloLens 2」は、着けた感じは快適な帽子のようだったが、ARの3D空間の中で、筆者の両手と目線を追跡できた。Facebookが発表した399ドル（日本では4万9800円）からの「Oculus Quest」は、筆者が米CNETの「Editors' Choice」賞を与えた最初のVRヘッドセットになった。これは授賞に値する優れた製品で、自己完結型であるため、PCも、スマートフォンも、配線も要らず、驚くほど没入感が高かった。筆者はこれを使って自宅のリビングルームに泡の世界を作ってみたり、没入型の実験的なシアターゲームをプレイしてみたりした（このゲームは、アーティストやゲーム開発者が次に向かう方向を示しているのかもしれない）。

　ただしスマートグラスについては、取り組んでいる企業は多いものの（Snapの「Spectacles」、Northの「Focals」、Vuzixの「Blade」）、まだまともに成功した例はない。スマートフォンに接続するセイコーエプソンのスマートグラス「MOVERIO」は、見た目はよくないものの、スマートグラスやゴーグルが、スマートフォンの周辺機器として利用される未来を示してくれた。Qualcommの5G対応VRチップやスマートグラスに関する2020年の計画は、今後さらに多くの製品が登場することを示している。

遊ぶだけじゃない「Nintendo Labo」--開発者が目指したもの

　筆者は、VRでイマーシブシアターを鑑賞したり、素晴らしい「スターウォーズ」の体験をしたりした。ディズニーが作った、1部屋を丸ごと使ったテーマパーク用アトラクションで、部屋の中を歩き回ったこともあったし、視線を使ってものをコントロールする経験もした。驚くほど美しいRetinaディスプレイのVRヘッドセットも見たし、新しいコントローラーを使い、手を伸ばして新しい世界に触れているのを感じたりもした。また任天堂までが、段ボールを使った巧妙な仕掛けのVRキットを発売した。

　一部の人は、VRは終わった技術であり、ARは小手先の技術だと考えている。しかし実際には、あらゆることが急速に進歩しており、今後は、ヘッドセットやその他の中核技術が、あらゆる場所で使われるようになるだろう。2019年には多くの企業がさらに壮大なビジョンをすぐに実現すると宣言した。筆者はこんな1年を今まで見たことがない。Apple、Microsoft、Facebook、Google、ソニーのPlayStation、Snap、Qualcommなどは、そのほんの一部だ。今や、ほとんどあらゆる方向に取り組みが進んでいる。この勢いが止まることなど考えられないし、止まる必要もない。VRとARは現実に取って代わるわけではない。これらは現実に加わる追加のレイヤーだ。

　VRとARは急速に進化している。「Gear VR」やDaydreamのようなスマートフォンベースのVRゴーグルはすでに時代遅れになっているが、それを追うように新たな未来が生まれ、AR/VRの未来のための総合的なインフラが作られようとしている。Qualcommの5G戦略は、AR/VRの普及を織り込んでいる。そうした強力な接続環境では、ヘッドセットを着ける必要さえないかも知れない。そして、多くの人は、VRやARのゴーグルやスマートグラスさえ試したことがないのだ。しかしこれらの技術は、すでにアスリートや宇宙飛行士の訓練に使われたり、病院で痛みを和らげるために使われたり、視覚障害者を支援したり、アートを生み出したり、映画を作ったり、まだ存在していない製品をデザインしたりするためにも使われている。スマートグラスは、2020年代の半ばまで、読者の手元には届かないかも知れない。しかし、スマートウォッチや奇妙なイヤホンを着ける未来を想像できなかった時代もあった。

　私たちはすでに、拡張されたバーチャルな未来にいる。ただ単に、まだ十分に浸透していないだけなのだ。