VRの素晴らしさを他人に説明するのは簡単ではないが、これが普通の家に簡単に導入できる技術ではないことは確かだ。そして、最高のアプリの多くは、単なるデモや、美しいちょっとした小物や、何度か乗ったら満足する遊園地のアトラクションのような感じがした。
奇妙なことに、この年に筆者が一番気に入った体験は、ヘッドセットをまったく使わないものだった。それは、ブルックリンのダウンタウンで体験したイマーシブシアター(没入型演劇体験)で、その体験は、VRは素晴らしいものに見えるが、未だに筆者が夢見ていたものには達していなかったことを改めて気づかせてくれた。VRを現実そのものと比べれば、未だに没入感も低く、社会性もないのだ。
だがそれは一旦脇に置こう。その年の夏、世界は別のものに夢中だった。
米国を分断に追いやった大統領選挙の数カ月前、米国人(や世界中の人々)は、スマートフォンでポケモンを捕まえようとして、公園や、動物園や、駐車場に集まっていた。2016年の夏は、「Pokemon GO」の夏だった。あきれるほどの、普通では考えられないような大ブレイクだった。
近所のコーヒーショップには、ゼニガメを見つけようとする高校生が集まっていた。セントラルパークは、スマートフォンでバーチャル宝探しをしようという観光客や地元住民でいっぱいになった。Nianticが生み出したこのゲームは、MicrosoftがHoloLensで採用したような、頭にデバイスを装着してホログラフィーを見せるARではなかった。現実の風景の上に重ねてかわいい生物を表示する点では似ているが、スマートフォンさえあれば友達と一緒に遊ぶことができた。Pokemon GOは、人々の関心を再度スマートフォンに引き戻し、スマートフォンが最高のARツールになり得ることを示した。
また、2016年末に発売された、GoogleのAR技術を売りにした最初のスマートフォン「Lenovo Phab 2 Pro」には、現実世界をスキャンして、物体を計測できるリアカメラが搭載されていた。この「Tango」と呼ばれる技術は2014年に発表されたもので、MicrosoftのKinectに似た仕組みで動作する赤外線カメラを使っていたが、Kinectよりも小さかった。スマートフォンの未来は、明らかにARに向かっていた。
2010年代のほとんど期間を、ARやVRとは無縁で過ごした大手IT企業が1つある。それはAppleだ。それが大きく変わったのが2017年の「WWDC」だ。Appleはこのイベントで、MacでVRをサポートすることを明らかにした。しかしより重要だったのは、iOS向けにAR用の開発ツールキットである「ARKit」を発表したことだろう。
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