こういった現状を踏まえて最初のテーマは、「現在のトレンドとしてどのようなサービスがあるのか?今後どのようなトレンドが来るのか?」というもの。
エンドユーザー向けAI査定サービス「HowMa(ハウマ)」を運営する不動産テックベンチャーであるコラビットの浅海氏は、トレンドとして不動産企業とテクノロジー企業の垣根がなくなってきていることを指摘。それを踏まえて「不動産会社が実業の経験を踏まえてより使えるツールを外販する、あるいはIT企業がテクノロジーを使うことで超効率的なサービスを展開するというトレンドが起きていると感じる」と語った。
業界初の個人向け不動産コンサル会社であるさくら事務所 会長の長嶋氏は、「今のレギュレーションではいくら不動産テックを語っても限度がある」と、変わらない不動産業界の現状を明らかにし、そのうえで「今の決まりが変わったとき、事業者は次の時代にどうするときを考えておく必要がある」と説いた。
また注目の電子契約については、川戸氏が「今日の電子契約のセッションで伺ったのですが、今はまだ1%から2%しか利用されていないが、一気に広まり5年後には50%くらい利用されていくと見られている」との見解を示した。
次に不動産テックの今後の有望領域について浅海氏は、オンライン取引の部分は大企業がしっかりと取り組むなかで、新興サービスの視点では「スペースシェアリングが有望」と意見を述べた。
長嶋氏は、前段の発言を踏まえ「既存の延長上にはない」とする。不動産業界に限ったことではないが国の補助金で動く事業が多い中で、借金や水膨れの予算配分が続かなくなり、国が余計に使えるお金が無くなったときに代わるという。ただその時期は「おそらく3年以内」と近く、「否が応でもテクノロジーで使えるものは使うようになる。これを前提に不動産テックの動きを考える必要がある」と語った。
川戸氏は、海外の動きを踏まえた上で「コリビング(Co-living)」を紹介。これはシェアハウスに近いがコミュニティドリブンで部屋を探す考え方で、1か月から半年くらいで住み替えていく形だという。ほかに、「住宅×オンデマンドのかけ合わせの世界は来る」と分析。「Amazonのようにリアルなデータを取得するために他業界との接点が家の中にやってくる。そこは注目有望領域」であるとした。
米国では「iBuyer(アイバイヤー)」と呼ばれるテック系の新興勢力が市場を獲得、日本の不動産マップにも多様なプレーヤーの名前が見られるが、不動産サービスとテクノロジーの掛け合わせで、これから生まれそうなビジネスモデルはどういったものがありそうか。
ここで長嶋氏は、国内住宅市場の構造について説明。「新築住宅の着工がおよそ年間100万戸、中古住宅流通が50万戸と圧倒的に少ない。新築を買ったほうが優遇されているからで、この構図は先進国の中で日本くらい」とのこと。その中で中古マンションの流通は活況を呈しているが、一戸建てをリフォーム・リノベーションするというところはほとんど手付かずなので、「ここを解決できるものであれば爆発的に伸びるかもしれない」と示唆した。
また、同氏は第三者的な専門家の立場で住宅の劣化状況、欠陥の有無などを見きわめてアドバイスを行う「ホームインスペクション」を日本に持ち込み定着させた草分け的存在だが、「建物の評価でいうと金融機関向けは狙い目」という。現状ではノウハウがないため中古住宅を築何年という数字のみで評価しているが、本質的にあるいは他国では事実上築何年かを重要視するものであるとのこと。「テックの時代には、そこに人が介在しない形になる。いくつかの建物の要素を揃えるとこの住宅は築何年であとどれくらい持つなど評価できる仕組みが開発されると、金融機関はこぞって使うのでは」と提案する。
浅海氏は、データを活用した分野がビジネスモデルを確立することに期待をかける。そのなかでもフリーランスや起業家など、既存の枠組みでは賃貸住宅を借りにくい人に向けた入居審査の事前与信付与サービス「smeta/ スメタ」を運営しているリースを紹介。
「元データには賃貸の関連情報を使っていると思うが、事前に支払いできそうかわかる。住宅を売るときの事前審査にも使えるように、データ活用の意図や道がある程度みえてくる可能性があるのではと期待している」 もうひとつ、iBuyerのようにやっていることは変わらないがエンドユーザーから見ると新しく見えるというビジネスモデルがテクノロジー活用によって生まれてくると語った。
最後に、将来に向けて既存の事業会社はどう立ち向かうべきかについて、それぞれが参加者に対してアドバイスを送った。
浅海氏は、IT業界を例に挙げて解説。「昔はハードを売っていたIBMが強かったが、その後OSで覇権がマイクロソフトに移り、ネット時代でグーグルにというように、エンドユーザーに近いほうに強さが集まってきている。そういう形の変化が不動産にもあるのかもしれない」と示唆した。
川戸氏は、不動産テックのムーブメントに対して、「立ち向かうというのではなくチャンスととらえてほしい」と訴えかけ、3つの方策を示した。
1つめはお金の視点。「大きな投資をしないとリターンは大きく返ってはこない。実証実験で小さく初めるのも必要だが、最終的には大きく投資して新規領域を取っていってほしい」と訴える。
2つめはマインドについて。「既存の事業者は新しいところに飛び込もうとしても気持ち的に飛び込めない。不動産はまさにそうで、1つの不動産が数百数十億で少産少死のマインドになるのもやむを得ないが、テックイノベーションの世界は、多産多死。その考えでないと生き残れないので、マインドチェンジが必要」と説く。
3つ目は有望なITベンダーやアプリベンダーの買収だ。「必ずどこかで自社のIT部隊を使ってPoCを回さなければならなくなる。回数も多産多死でたくさんやらなければならなくなるので、自分が責任者だったらITベンダーと手を組むか買うなりする」と述べた。
長嶋氏は、日本人は良くも悪くも現状から考える節があるが、目先よりも将来の不動産取引を予測して逆算することを考えるのが良いとする。それは無人営業という姿であり、士業もいらなくなるというものだが、「賃貸はそうであっても売買はそうはならない」という。
「不動産売買は大きい買い物なので、背中を押してくれたり自分の要望にどれくらい応えてくれたりするかというようなヒューマンタッチのコンサルテーションが必要。完全に無人にならない。この人からアドバイスを聞きたい、この会社の理念に感動したなどぬくもりの部分は残る。言い換えると、それ以外の部分はテックでやればいい」
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