変化を乗り越え拡大する市場--宿泊業界の動向から見えてくる不動産テックとは - (page 2)

ホテルの宿泊体験をテクノロジーでアップデート

 次に、宿泊業界におけるテクノロジーの活用について。桜井氏は、「不動産業界ではこれから規制の緩和を含めてIT重説とか電子契約とか変更が起こってくる中、民泊業界やホテル業界の動きは参考になるのでは」と示唆する。

デジタルベースキャピタル 代表パートナーの桜井駿氏
デジタルベースキャピタル 代表パートナーの桜井駿氏

 山口氏は、「ホテルのサービスはゲストサポート、ゲストに対するコンシェルジュが本質だと思うので、そこに人のリソースを充てられるようITを駆使して取り組んでいる」という。無人ホテルであるmizukaでは鍵はスマートロック、チェックインはタブレットで行う形で、現在アプリでチェックインを可能とするシステムを開発中であり、さらにはリネン業務のIoT化も視野に入れている。

 ただし宿泊業界全体で見た場合は、テクノロジー活用で目指すべきゴールに対してまだ3割程度しか到達できていないというのが山口氏の見立てだ。最高峰の一例となるのが、中国のアリババが昨年オープンしたFlyZoo Hotel。顔認証システムでチェックインから入室、サービスの利用まで行え、注文はスマートスピーカーで、サービスはロボットが行うというように最先端のテクノロジーを採用している。

過度なテクノロジーへの期待に警鐘

 一方でコンサルティング会社出身である久保氏は、以前不動産業界をはじめ企業のIT戦略の顧問を経験した際に「ITやWebが魔法の箱のように感じられているケースが多いと感じた」と、過度なテクノロジーへの期待に釘をさす。「ITというのは、使う人のアレンジメント能力やできることできないことを峻別する能力、どこまでうまく活用することができるかによって活用の成果が異なってくる」との見方を示す。

クラス 代表取締役社長の久保裕丈氏
クラス 代表取締役社長の久保裕丈氏

 現状テクノロジー活用で実現されているのは、山口氏が指摘・実現しているようにオペレーションの代替になるところで、「どうしても人の手を介さなければならないところの分散化ができるところは、PropTechでも家具業界のテクノロジーの文脈でもいえる部分」とする。そして、「自社としてどの部分をコアコンピタンスとして持っていないといけないか、お客様に価値として提供しなければならないものなのかを見極めて、そうでないところは分散化してコントロールできるのであれば、テクノロジーをクラウドソーシング的に活用しても良い」と分析する。

 一方で久保氏は、テクノロジーに期待する部分としてデータ活用を挙げる。「ある程度の不動産の情報と利用者の嗜好性やトレンドを組み合わせ、無数にある家具の組合せを絞り込むのにITの力は使えないかと考えている」という。

現場のオペレーションとテクノロジー活用について

 テクノロジーを活用するためにはそれを判断する人材の問題ということになるが、現場のオペレーションとテクノロジー活用についての課題については実際にどのような問題があるか。例えば宿泊業界では、清掃業務はしばらくはなくならないと山口氏は指摘する。理由は、品質をキープしながら量産化するのが難しいから。解決策としては、「マニュアル化やマネージメントだけ社内リソースにして、清掃アルバイト特化型のアプリなどを作って今働ける人を募るとか。そういうサービスと提携するという形はあるかもしれない」とのこと。

 クラスが課題とするのが、サブスクリプション型サービスに対応した在庫管理システム(WMS:ウェアハウスマネジメントシステム)だという。「商品がどんどん戻ってきてリペアをかけて次に出すというサイクルを運用する形に対応しているシステムがない。不動産業界でも、不動産の在庫管理に我々と近い悩みを抱えている人も多いのでは」と久保氏は説明する。そこで同社では現在、汎用性を持たせたサブスクリプション型対応のWMS開発にチャレンジしているという。

宿泊と不動産、共通の世界観を作ることが重要に

 宿泊業界と不動産業界との共通点という部分で、賃貸ビジネスの場合どこまでがホテルの宿泊でどこまでがウィークリーマンション、どこまでが賃貸といったように、垣根が低くなっている。その中でセッションの最後に、「いかに共通の世界観を作っていけるか」というテーマでそれぞれ意見を語った。

 久保氏は、家具サービスという切り口から「宿泊するところと働くところの垣根がどんどんなくなってきていて、インテリアづくりや空間づくりの要件が、ホテルはこうあるべき、オフィスはこうあるべきという垣根が外れてきている」という実感のもと、不動産の価値を向上させるための案を次のように提示する。

 「稼働率や客単価のデータをもとにインテリアや内装をどうすればいいか、どうすれば不動産の価値が上がるのか、そこに関してきちんとデータを取った人はまだいない。コワーキングスペースやシェアオフィスにもサービスを提供しているが、そこでの生産性の指標としては、どれだけ気持ちよく仕事をしているかというものがある。空間に紐づく人の満足度やそこの価値をきちんと数値化して、それをもとにAIで自動的に空間をデザインするようなことを作りこめると業界的にも変わっていくのでは」

 桜井氏は、「デザイン」と「規制」は重要という認識を示す。今の時代にあった規制を考える立場の政府関係者も、デザインという概念は重要ととらえているという。

 「ホテルとしてあるべき部屋の空間、賃貸マンション、アパートとしてあるべきデザインが変わってきていて、どんなニーズに答えるのか多様化している。WeWorkなどはコミュニケーションスペースがリッチなリビングで、ホテルのような空間。まさにデザインとルール・規制というところが大きい」

 規制の在り方について山口氏は、「元々想定していた用途とは違う用途でのアレンジメントが重要になってくる」と述べる。規制・ルールの緩和によって、ビル自体のポテンシャルが引き出され、資産性向上が見込める。まさに山口氏がビジネスとして成功を収めているのがこの部分だ。用途変更の規制緩和があったことで今まで美容室であったようなビルの一角にホテルの部屋が作れるようになり、それに伴って他のフロアに入る飲食店などに客が入るようになったという。

 「商業施設がそうであるように、人を呼び込むものを作って訪れた人たちが上層階や下層階の店を使うことで売り上げが上がるので坪単価が上がり、賃料を高くとれるようなロジックが成立する」

 また山口氏は、ホテルマーケットは数年でより競争が激化するので、有人型のオペレーションではなく、無人型のオペレーションに移行していくとの見方を示す。それまでに、無人ホテルのオペレーション効率が上がるようなシステムを開発し、サービス提供を考えているという。

 Hostyが実現するホテルサービスだけでなく、クラスのサブスクリプション型サービスも空間の在り方をアップデートし続けて不動産価値を高めるものであるように、不動産ビジネスを高みに運ぶための道筋はたくさんある。既存の立ち位置にとらわれず、テクノロジーの活用を検討するにあたっても視野を広く定め、規制の状況等も考慮して周辺領域と共通の価値観のもとで先を見通していくことが成功の鍵となりそうだ。

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