ジョニー・アイブ氏がAppleを去るニュースに関連して、前稿ではiPhoneのデザインとその魅力について振り返ってきた。
スマートフォンのデザインは、カメラ以外の突起を持たない、若干手に余るサイズの板に収斂しており、これが「あるべき正しい姿」なのかもしれない。
SamsungやHUAWEIは、有機ELディスプレイの特性を生かした折りたためるスマートフォンを披露した。たしかにポケットに入りスマートフォンとしての実用性を損なわないデバイスが、拡げればiPad miniのような7インチ以上のディスプレイサイズになるなら、おそらくタブレットもパソコンも持たずにスマートフォンだけで仕事をこなす人は大幅に増えるかもしれない。
しかし道のりは遠い。「スマートフォンはこうあるべし」というレベルにまで昇華させるには、アプリや文字入力などのインターフェイスの問題解決、そもそもの耐久性の問題をなんとかしなければならない。
引いた視点で見れば、Appleが製品を出す以前のチャレンジは広い意味でのプロトタイピングといえる。その上で、アイブ氏が作り上げたApple社内にある、世界でもっとも充実したプロトタイピング環境を活かして、ハードウェア、ソフトウェア、インターフェイスのエンジニアリングを解決した「あるべき正しい姿」は、折りたたみ型のデバイスについても、Appleから登場することになるだろう。
ティム・クックCEO以下、Appleの幹部は常に、「もっとも早く製品を世に出すのではなく、もっとも優れた製品を世に出そうとしている」と繰り返す。さまざまなフォームファクターの製品のすべてに対して、その原則を貫いていくこともまた、Appleの流儀となっている。
iPhoneは2007年に登場した新しい製品カテゴリで、スマートフォン普及に合わせて2年に1度のサイクルでデザイン刷新を繰り返してきた。
しかし現在その原則は崩れ、3年程度のサイクルに伸びている。これはスマートフォン市場の減速や、買い替え頻度の長期化、また地球環境に配慮した「長持ち」を性能に取り込む面も配慮されている。
しかし、もっと長いサイクルで成熟しているのがMacやiPadだ。
iMac、MacBookシリーズ、Mac mini、iPadといった各製品は、4年以上の長いサイクルでしか、デザインの刷新がない。実際のところ、Macは毎年買い換えるものではないし、新しければ良いわけでもない。ソフトウェアの互換性や、マシン買い替えの時間的なロス、そして小さくない投資額が関係しており、新規購入者を除くユーザーにとって、デザインが買い替えの動機を牽引する要素が小さいからだ。
それでも、MacBook Proはすでにシンプルなアルミニウムの板となっているし、iMacは鋭いエッジを持つディスプレイだけのようなデザインになって久しい。Mac miniも、サイズを変えずにプロセッサを強化し、以前のMac Proを置き換えるような存在となった。iPad Proに至っては、背面のカメラの突起以外は、単なるアルミニウムとガラスで構成された板になってしまった。
アイブ氏のミニマリズムを主体としたデザインは、Apple製品の形を、これまでにないほどシンプルに仕立てすぎたといえる。既存のデバイスが、極限までシンプルになり、厚みの増減や素材の変更などはあったとしても、形を大きく変える余地を失っているのも事実だろう。
アイブ氏がAppleを離れる理由の一端が、そこに見えるような気がする。
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